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論文・レポート

社会性を育むごっこ遊び遊具の開発~「まち遊びキット」の紹介~

佐藤 朝美(東京大学大学院情報学環 特任助教)

2013年2月15日掲載

要旨:

本研究では、保育園児を対象にごっこ遊びを支援する遊具「まち遊びキット」を開発し、評価を行った。「まち遊びキット」は、郵便局・駅・病院・パン屋の各1.2メートル四方の建物と、郵便車・郵便バイク・電車・救急車の乗物(ともにダンボール素材)で構成されている。これらの遊具を用いながら年少・年中・年長児の子どもたちがごっこ遊びを行う中で、社会的相互作用が行われることを検証した。
English
1. より良い保育環境デザインの実現に向けて

本研究は、2010年6月より東京大学大学院情報学環とミサワホーム、ミサワホーム総合研究所とのプロジェクトとして始まった。テーマは、より良い保育環境デザインの実現に向けて学びを指向した空間を提案するというものである*1

そこで、保育空間にまつわる研究知見を参考に、子どもの環境に関する研究をされている先生を招いての研究会、保育士たちとの勉強会を行うとともに、保育園における自由遊びの時間の観察を行った。観察は約1ヶ月にわたり、週1で都内のK保育園の午後の自由時間1時間程度、観察者2名により行われた。これらの活動を経て、私たちは2つの点に着目した。

まず1つ目は、自由遊び時間に出現するごっこ遊びの種類の少なさである。観察を行った園では、保育士が2つの部屋を利用し、身体を動かすための平均台や滑り台等の遊具を置くスペースと、ブロックやおままごとで遊べる玩具を置いたスペースを設けていた。保育士が子どもたちの様子を見ながら日毎に設置する遊具と玩具を調整していた。その中で出現するごっこ遊びは、武器を作りながら遊ぶ戦いごっこ、野菜のパーツや台所用品で遊ぶおままごとであった。ごっこ遊びは、乳児期から幼児期にかけて発達する重要な社会性を育むものとして多くの研究が行われている。

2つ目は、室内遊びの中型遊具の種類の少なさである。近年園庭の無い保育園が増えており、近くの公園への散歩の時間はあるものの、園の室内で過ごす時間が多く、室内遊びの支援は非常に重要であると考える。しかし、遊具の種類や研究を調査したところ、身体遊びを促す遊具は多いものの、室内遊びを深める遊具は少なく、さらに遊具の開発とその効果を検証するような研究はみられなかった。

以上のことから、ごっこ遊びを支援する中型遊具の開発を行うことになった。

2. ごっこ遊びで支援する社会性

社会性については多様な視点から多くの研究が行われている。本研究では、プロジェクト・スペクトラムにおける「社会的理解」の定義に着目している。プロジェクト・スペクトラムとは、ハワード・ガードナーとデビッド・フェルドマンの研究グループが実施した、幼児期から児童期前半の子どもを対象とした教育カリキュラム開発プロジェクトである*2。フェルドマンの非普遍化理論とガードナーの多重知能の理論を基礎とし、実践の中で評価と活動を練り上げている。彼らは8つの領域(機械と構成/科学/運動/音楽/数学/社会的理解/言語/美術)を設定している。そのうちの1つである社会的理解は、3つの鍵となる能力(Key Abilities)から構成される。それは、自己理解、他者理解、社会的役割への理解であり(表1)、他者との交流や対応に現れるものとして捉えられている*3。それらを育み、さらには評価を行う活動として、洋服や小道具を用いるごっこ遊びや、自分達の教室の模型や写真を貼った人形を使用する教室モデル遊び、テレビ型の箱を用いるリポーターごっこ遊びなどが提案されている*4。これらの遊びの中で生成される社会的相互作用が、社会的理解の発達につながるものと考えられている。

本研究でも、ごっこ遊びが社会的理解の発達を促すことを想定し、社会的相互作用を生成する場として機能するような遊具を開発していくこととした。

表1 社会的理解

1) 自己理解
  • 自分の能力、スキル、興味や苦手なことについて理解できる
  • 自分の感情や経験、達成したことなどについて振り返ることができる
  • これらの振り返りから自分の行動を理解したり調整したりできる
  • 得意な分野や苦手なことに対する要因について洞察することができる
2) 他者理解
  • 友達への理解を示すことができる
  • 友達と親しくなろうとできる
  • 友達の考えていること、感情、できることなどを認識する
  • 活動の中で友達とうまくやっていこうとする
3) 社会的役割への理解
 リーダー:
  • 活動を主導し、まとめることができる
  • お友達をまとめることができる
  • 友達に役割を持たせることができる
  • 活動を監督し、管理することができる
 ファシリテーター:
  • 友達と考えや情報、スキルを共有できる 
  • 喧嘩を仲裁できる
  • 遊びに友達を誘える
  • 友達が困ったら助けてあげる
  • 友達のアイデアを膨らませたり、より詳しく展開させたりすることができる
 介護者/友達:
  • 怒っている子をなだめることができる
  • 他の子の気持ちを敏感に察することができる
  • 友達の好き嫌いに理解を示す
3. 「まち遊びキット」の開発

開発した「まち遊びキット」は、郵便局・駅・病院・パン屋の各1.2メートル四方の建物と、郵便車、郵便バイク、電車、救急車の乗物(ともにダンボール素材)で構成されている。

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開発プロセスでは、プロトタイプを千葉県N保育園に4日間導入し、観察を行った。このキットを用いた遊びを通じて多くの子どものコミュニケーションが促進される様子が観察された。しかし、楽しく遊んでいるものの、ごっこ遊びとして成立するための「役割」が曖昧になることが多く、参加している子どもたちが多くの「プラン」を立てるまでには至らないという点が課題に挙がった。

ガーヴェイは、ごっこ遊びの構造を「役割」、「プラン」、「物」という3つの要素で整理している*5。ごっこ遊びを行うためには、自分がどのような「役割」をしているのか相手から了解を得ると同時に相手の役も受け入れ、相手と一緒に遊びをどのように展開していくかの「プラン」を共有し、「物」を見立てながら様々なストーリーを展開していく必要があるという。

それらを参考に、下記のような機能や物の追加、修正を行った。

【保育士へのインストラクション】

保育士達へのインタビューにおいて、キットの目的や狙い、使用方法など、保育士達への手引きに関する要望があった。そこで、キットを導入する際のポイントをまとめたインストラクション「保育のポイント」を作成。

【キットの改良】

内装:建物内に入った際にも子どもたちがどの建物に入っているのかを明確に把握できるよう壁面に内装を描く。

例1) 病院の薬台:薬局としての機能を果たすような内装のイラストと入れ物を設置。患者に薬を渡すという活動が行われることを狙っている。

例2) オーブン:引き出し型のオーブンを設置。パン屋はパンを売るだけでなく作るという活動が行われることを狙っている。

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駅の標識:4つの建物それぞれが「目黒駅」、「パンの森駅」、「郵便谷駅」、「病院前駅」という駅の役割を果たすよう標識を設置。目黒駅の建物の内装と電車の内側に路線図を記載する。電車が各建物の駅をめぐるという活動が行われることを狙っている。

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郵便ポスト:4つの建物それぞれに郵便ポストを設置。郵便車や郵便バイクがそれぞれの建物に手紙などの郵便物を届けるという活動を狙っている。

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【役割の帽子】

役割が明確に分かるように、駅員、パン屋、看護師、郵便局員の帽子を準備。

4. 「まち遊びキット」の評価

開発した「まち遊びキット」が、社会的理解につながる社会的相互作用を生成する場として機能するか、効果の検証を行った。2012年2月から3月における7日間(自由遊び2日間、キット導入5日間)、東京都K保育園において導入と観察を行った。自由遊び時間と、キット導入時の子どもたちの発話プロトコルを書き起こし、比較を行った。なお、自由遊びは保育士が用意した環境により、積み木遊び、レゴ遊び、滑り台、平均台の4種類の場で遊びが発生した。

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分析については、発話プロトコルを分類し、検討を行った。Sawyer (1997)は、ごっこ遊びで生じている子どもたちの即興的なやり取りについて、提案に対する応答(承認・拒否・拡張)、テーマに没入している度合いを示すフレームレベル、次の展開への影響の度合いを示す明示性という観点から分析を行っている*6。ここでSawyerが着目している子どもたちの創発性("the emergent")は、本研究で狙いとしている社会的相互作用、つまり複雑なやり取りの中から、協同で創造的に遊びを作っていくプロセスを捉えるのに有効であると考える。そこで分析枠組みとしてSawyerの「提案」とそれに対する「応答(承認・拒否・拡張)」というカテゴリーを採用し、確認を行った。

まず、子どもたちが行う「提案」では、自由遊びとは異なり、キット導入ではテーマを共有していかなければならないことから、提案を行う回数が増えていることがわかった。また、キット導入を続けるにつれて、「提案」の回数が増えることがわかった(表2)。

次に「応答」では、全体的にキット導入時の方が多かったのだが、とりわけ興味深いのが、2日目に比べて5日目の方が、「承認」や「拒否」は減っており、「拡張」が増えているということである。これは、キットで遊ぶ回数を重ねるうちに、相手の「提案」に対して単に「承認」か「拒否」かの二者択一であったのが、回を重ねるうちに相手の「提案」に自分なりの考えを取り入れ「拡張」していくようになったからだと考えられる。

表2 子どもたちの即興的なやり取り

郵便局のプロトコル例
提案 C1 パン屋までゆうパックを2つ届けて下さい。
応答 拡張 P1 お手紙入れます
承認 P2 お手紙―
拡張 C1 いくらですか?
拡張 P1 ただ
承認 C1 ただ?安いなぁ。ぜろ円ですか?
拡張 P1 はい。車が届けに行ってます。
承認 P2 はい、ゆうパック。いってらっしゃい!
C: お客、P: 郵便局職員
病院のプロトコル例
提案 C1 怪我したんです
応答 承認 D1 どこ?
拡張 C1
拡張 D1 頭?頭なら、じゃぁどうしよう?じゃぁ頭に注射しよう
拒否 C1 きゃーなんで?
(患者、ベッドに逃げる)
拡張 D1 だったら薬だね、それで治るから。
(医者が患者に薬を渡す)
C: 患者、D: 医者
駅のプロトコル例
提案 C1 駅員さーん
応答 拡張 S1 目黒ですね?
承認 C1 目黒です。
拡張 S1 目黒だったらあちらで・・・
承認 C1 はい。
拡張 S1 あちらで今電車が来てますので、あちらで早くお乗りください。
C: お客、S: 駅員
パン屋のプロトコル例
提案 B1 B2 いらっしゃーい!いらっしゃーい!おいしいよー!
応答 承認 T1 先生お腹すきました。
拡張 B1 クッキーあるよ
拡張 T1 おすすめは?
拡張 B2 おすすめは○○とチョコ
修正 T1 何?何チョコ?
拡張 B1 ホワイトチョコ
拡張 T1 じゃ、おすすめ1つ。いくらですか?
拡張 B1 これはね、全部ただ!
拡張 T1 全部ただなのー?本当?
ちょっとこれ持ってピクニックに行ってくるね。
B: パン屋、T: 先生

以上のことから、「まち遊びキット」を通じて子どもたちが遊びを深めるような社会的相互作用を行っていることが分かった。継続して使用するなかで、相手の提案に自分の考えを付け加えながらごっこ遊びのストーリーを展開していくという様子がみられた。

5. 子どもを育む豊かな環境を求めて

「まち遊びキット」の研究は継続しており、現在は保育園の先生方とキットを用いた保育活動を検討しながらアクティビティの開発を行っている。キットの建物と乗物だけを用い、子どもたちがテーマを決め、そこに必要な物を子どもたちが考え出し、作成し、実際のごっこ遊びを行うという活動である。その過程において、子どもたちの遊びや学びに必要な要素だけでなく、多様な体験が不足していること、特に園に長時間滞在する子どもたちの地域とのつながりの希薄さに関する問題が挙げられた。実際に街に出かけ、街の活動を見る機会を増やしたり、絵本や映像をとおして街の大人たちの活動を知る機会を設けたりするなど、保育の活動の中でどう取り入れていくか先生方と検討している。

豊かな環境を整えるには、ハードを提供するだけではなく、子どもたちがそこでどのような経験をするか、さらには、そこで必要とされる経験をどのように蓄積するのかについてセットで考えていかなければならないと実感している。今後も、次世代の子どもたちに豊かな環境を残すべく、ハードとソフトの両面から検討していきたい。

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  • *1 ミサワホーム総合研究所:福武ホールアフィリエイトプログラム
  • *2 Building on Children's Strengths:The Experience of Project Spectrum (Project Zero Frameworks for Early Childhood Education、Vol 1)、Teachers College Pr、1998
  • *3 Project Spectrum : Preschool Assessment Handbook (Project Zero Frameworks for Early Childhood Education, Vol.3), 1998
  • *4 Project Spectrum : Early Learning Activities (Project Zero Frameworks for Early Childhood Education, Vol 2) , 1998
  • *5 カサリン・ガーヴェイ/高橋たまき (1980) 「ごっこ」の構造 子どもの遊びの世界 育ちゆく子ども0才からの心と行動の世界, サイエンス社.
  • *6 Sawyer, R. Keith. (1997) Pretend Play as Improvisation: Conversation in the Preschool Classroom. Psychology Press.

筆者プロフィール

Sato_Tomomi_2.jpg佐藤 朝美 (東京大学大学院情報学環 特任助教)

東京大学大学院情報学環特任助教。専門は、教育工学、幼児教育、学習環境デザイン。2009年子ども環境アドバイザー資格取得。システムエンジニアと育児の経験を生かし、子どもを対象とした開発研究を行う。構築したオンラインコミュニティ「親子de物語」で、第5回キッズデザイン賞を受賞。
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