子どもの足の痛み
高緯度に位置するドイツの秋冬シーズンは昼が短く、夜がとても長いです。例えば、この原稿を書いている12月初旬の日の出は授業開始後の8時過ぎ、日の入りは学童保育終了前の15時台、と小学校の登下校時ともに薄暗い状況です。また、10月以降、春先までは天気の悪い日が例年続きます。
そんな環境で育っている息子ですが、今年の秋頃から足の痛みを訴えるようになりました。最初は、両足のかかと周辺だったのが、時には膝、また股関節辺りまで、日によって部位は違いますが、下半身のいずれかの部分の骨が痛むと訴えてくるのです。
痛みを訴えた日が、5日間にわたる学校の合宿の後だったこともあり、私たちは当初「疲れが原因かな?」と思っていました。また、息子は年に10センチほど身長が伸びていることを思い出し、「もしくは、成長痛かもしれない」と思って、とりあえず10日間ほど市販の塗り薬で対処していました。しかし、一向に痛みはひかない様子です。
その頃の学校の体育の授業は、足よりも手を使うバスケットボールだったため、なんとか参加することができましたが、大好きなサッカーの練習は、痛みのためお休みせざるを得ない状況に...。ちょうど新しいシーズンが始まったタイミングにも関わらず、練習に参加できず、またせっかく招集された試合も棄権してしまったことから、夫と私は事態を重く見て、医師の診察を仰ぐことにしました。当地では、いきなり整形外科などの専門医に行くことはできないので、まずは小児科に連れていきました。
小児科での診断
小児科では先生がひととおり診察すると「息子さんはまっすぐ立っている時に、ひざとひざがつかないO脚気味ですから、骨の形成に何か問題があり、そこから痛みが生じているのかもしれません。また、彼は足の甲が広く、かかとにも靴ずれの後があることから、靴がきちんとあっていない可能性があります。一度、靴屋さんで専門のシューフィッターに靴を選んでもらうことをお勧めします。あとは、専門の整形外科に紹介状を書いておきますので、そこで詳細を診てもらってください」とおっしゃり、専門医を紹介されました。ここでは、薬などの処方はありませんでした。
O脚に関しては、指摘されて初めて気づいたのですが、実は、夫も全く同じ脚の形(つまり、O脚)でした。帰宅後、医師の診断を伝えると、サッカー経験者の彼曰く、「プロのサッカー選手にもO脚の人が沢山いるのだから、あんまり気にすることはない。息子もサッカー選手として成長しているってことじゃないか」と冗談まじりの(?)、なんともあっさりした反応です。
また、靴選びに関しては、正直それまであまり気にしていませんでした。というのも、渡独以来、靴を含む息子の衣服については、ほとんどが年上の従兄たちからの頂き物であり、サッカー靴以外は、ほとんどこの「おさがり」ですませていたからです。成長著しく、すぐにサイズアウトしてしまう子どもを抱える世帯としては、従兄たちの有難い援助には非常に助けられていました。しかし、今後はよくよく息子の足を観察して、彼が我慢して履いていないか、こまめにチェックすることが必要だと痛感しました。
整形外科の驚きの診断結果
さて、お次は整形外科です。予約どおり1週間後に訪れ、経緯を説明すると、その診断は驚きの内容でした。というのは、「まず、息子さんの足は扁平足です。これは骨の形成がうまく進んでいないことに起因するものです。そして、それはビタミンD不足によって引き起こされるものなのです。この扁平足を治さないことには、足の痛みはなくなりません。」と先生はおっしゃるではありませんか!
ほぼ毎日、サッカーの練習などで体を動かし、食欲も旺盛、9歳児にしては筋肉モリモリの息子がビタミン不足による扁平足とは!
しかし、治療用インソールを作るための足の型取りを見て、再び驚くとともに、納得しました。足の裏のくぼみがなく、のっぺりとしているのです!

足裏がのっぺりと平たい足型
この足型をもとに作成してもらった特注インソールを毎日使用することにより、扁平足は治り、足の痛みも治まってくる、とのこと。インソールは素材が柔らかく、通気性に優れている運動用(スニーカーなど)と、それよりも少し硬めの普段靴用(革靴やブーツなど)の二種類作っていただきました。ちなみに、オーダーメイドのインソールも後述する薬も無料でした。
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年の半分は日焼け止め禁止!
さて、この「扁平足の原因」となったビタミンD不足による骨の形成不全ですが、説明を聞いて、私たち夫婦は反省しました。というのも、これまで日が差している時は、季節を問わず、常に息子にSPF50の強い日焼け止めを付けさせ、帽子もしっかりかぶらせていたからです。高緯度に位置する当地の日差しは非常に強いので、肌の色が白い息子への皮膚がん対策としてこれらの「完全武装」を強いていたのです。しかし、専門医の説明によると「当地では日照時間が少ないので、10月から3月の間は、特に子どもには日焼け止めは付ける必要はない」とのこと。
さらに、普段は父親と同じく肌の色が白い息子ですが、アジアの血(すなわち日本人の母の遺伝子)が入っているからか、太陽に当たった後、父親のように真っ赤にならず、茶色くこんがりと焼けます。先生曰く、「このような肌のタイプの子どもは、SPF50は必要ではなく、夏でもSPF30位の日焼け止めで丁度良い」とのことでした。
ビタミンD:日照時間が東京の1/7以下であるベルリンでの不足栄養素
このように皮膚がんのリスクより、骨形成がうまくいかないリスクの方が息子にとっては大きいことがわかり、毎朝服用するビタミンD錠剤を処方してもらいました。
ビタミンDは太陽の光を浴びることにより、体内で生成される栄養素ですが、ドイツのような一年を通して日照時間が短い国では、なかなか日光に当たることができず、今回のように秋冬に不足する栄養素の筆頭なのです。例えば、東京の12月の日照時間は約178時間であるのに対し、ベルリンではたったの約26時間(東京の7分の1以下)、といえば、当地の環境がお分かりいただけると思います。 1), 2)
このような背景から、ビタミンD剤は高緯度の欧州の国々ではよく処方されているようで、ドイツの子どもたちには0-2歳まで、オランダでは0-4歳までの子どもたちに推奨されているようです。また、大人でも、特に更年期を控える女性にとって、ビタミンDは骨粗しょう症予防のためのとても大切な栄養素ということで、実は私もかかりつけ医から移住以来ずっと、毎年10月から3月の間は処方され、飲み続けています。
このビタミンD錠剤を毎朝飲み始めて1週間もすると、息子は痛みを訴えなくなりました。そしてその翌週からはサッカーの練習や試合にも復帰することができました。靴も新しく買い、それにオーダーメイドのインソールを入れると「足にぴったりで気持ち良い!」とひとまず快適な模様。最初は「ところ変われば」ならではの症状に驚きましたが、今は適切な診断の元、元気になった息子を見て安堵している私たちです。
参考文献
- 1) 気象庁ウェブページ 「東京 平年値(年・月ごとの値)主な要素」
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=44&block_no=47662 - 2) Weather Online
https://www.weatheronline.de/weather/maps/city?FMM=1&FYY=1948&LMM=12&LYY=2016&WMO=10384&CONT=dldl®ION=0001&LAND=DL&ART=SOS&R=0&NOREGION=0&LEVEL=162&LANG=de&MOD=tab