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【スウェーデン子育て記】 第6回 みんなで学ぶ グループワーク

下鳥 美鈴

2015年10月23日掲載

もうずいぶん昔のことになりますが、私が大学生としてスウェーデンに来たころのこと。大学での授業の方法として、グループワークをさせられることがとても多いことに驚いた記憶があります。日本の大学ではそれほど頻繁にグループワークをしたという経験が無かったので、なんだか新鮮でした。

大学でのグループワークは目的によって形を変えて行われます。例えば、授業内のちょっとしたディスカッションでは、2、3人でまとまって話し合いをして、グループごとのアイデアをまとめて発表をしたり、大きな課題があるときは、授業以外の時間に大学内や外でもグループで集まり、みんなで考えをまとめて次の授業で発表したりします。私のスウェーデン語の語学力では当時、積極的な発言はできなかったと思いますが、グループワークをきっかけに友達ができたり、それまでは話をしたことのなかった人とも知り合えて面白かったです。

その後、私のスウェーデン生活は長くなり、自分自身が教壇に立って授業をする機会に恵まれることになりました。そして自分の授業でも積極的に生徒にグループワークを当たり前のように行わせるようになりました。グループワークのやり方はその都度で様々ですが、生徒たちの理解を深め、さらに生徒それぞれの意見をひきだすために、少人数で集まってディスカッションをさせたり、発表させたりしています。

これは私自身の感想ですが、スウェーデンの大学生たちは、グループワークにとても慣れているようで、グループ内であっても教室内でも、自分の意見を発表することにあまり抵抗がない生徒が多いという印象をうけました。もちろん、恥ずかしがって発表が苦手という生徒もいますが、「自分の意見を述べる」ということに関して日本の学生よりも慣れている様子です。これはおそらく、小中高での長い経験の積み重ねがあるからこそなのでしょう。グループワークが担う役割は、スウェーデンの学校では非常に大きなものではないかと思います。

そこで今回は、小学校でのグループワークへの取り組みはどのようなものなのか、ということを調べてみました。

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学校に併設された自治体の図書館。

グループワークの利点と欠点

まず前知識として、スウェーデンの行政委員会のひとつであるスクールベルケット(Skolverket:日本の教育委員会に相当。―資料1)はどのような考えなのでしょうか。ホームページの資料によれば、グループワークは積極的に奨励されている教授法のひとつであり、スウェーデンでは小学校から大学にいたるまで活発に授業で用いられているとのこと。一般的にいわれているグループワークの利点とは、人と協力する気持ちや思いやりの気持ちなど情緒面での発達を促したり、またそれを通して生徒自身の自我を養うといった、他人との関わりを通してしか得ることのできない社会性を身につけることだそうです。

しかしその一方、授業内で活発にグループワークが行われるということは生徒主導で教室活動が行われる機会が増えるということでもあるため、これが原因とみられるいくつかの問題点も専門家らによって議論されています(資料2:Dagens Nyheter新聞オンラインより)。とりあげられる問題点のひとつとして、グループワークが中心になると、その教科の専門性が薄れて学習内容が希薄となることがあります。教師が中心となって行う授業の時間が、グループワークによって削られるという要因があるようです。そして近年議論されている大きな問題としては、授業における教師の役割がグループワークによって少なくなることで、生徒間のイジメが発生しやすくなるということ。生徒主導によるグループ内での役割分担がうまくいかないということが原因になるようです。

また、2008年に発表されたForslund Frykedal氏による博士論文(資料3)ではグループワークを行わせる際に考慮するべき、グループワークの利点と欠点がいくつか挙げられています。

  • グループワークを用いることの利点は、グループ内での協力体制をつくり、共同作業を行いやすくするということ。欠点はグループ内で競争心やライバル心をつくってしまうこと。
  • グループワークを通して良い共同作業を行うためには、グループのメンバー同士の信頼感を養い、個人で責任感をもち、助け合い、社会適応能力を高めることが必要。
  • グループワークを用いた授業は生徒の学習能力を高めることができる。生徒たちは意欲的になり、グループへの帰属意識をもつことができ、グループのメンバーの意見を積極的に聞き入れることができる。(以上、筆者訳)

グループワークの利点が主張される一方で、非常に重要な点は、指導する教師がそれぞれのグループ活動に配慮し、効果的にグループワークを行わせることであるということが、頻繁に論じられています。(資料4:ニュースサイト Lärarnas Nyheterより)

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教室のレイアウト。みんなの自画像が勢ぞろいです。

小学校低学年のグループワークとは

さて、このような議論を背景に小学校ではどのような取り組みがされているのでしょうか。小学校三年生の娘のクラスでは最近、授業中に出される課題が少しずつ多くなってきたようで、いろいろな場面でグループワークが行われています。

例えば、先日の理科の校外授業では森へ行き、グループで歩き回って植物を観察をしてきました。そのほか社会科の授業では、先生に教えてもらった内容をグループでまとめたりしているとか。グループのメンバーは男女混合で先生が決めたり、場合によっては仲良しグループでまとまって作業をするそうです。こうした活動を通して、みんなの前で自分の意見を言ったり、友達の意見を聞いたりする練習を始めています。娘に聞いてみると、ただ先生の話を聞くだけでなく、みんなで話をしながら勉強することは楽しいそうです。クラス内で発言したり提案したり、という雰囲気をつくっている成果なのか、最近ではシリアからスウェーデンへ来る難民のために募金をしようという提案が生徒のなかから出ているとか。手作りのビーズのブレスレットを作って、それを売ったお金を寄付するそうです。これに関しては授業以外の活動なので、有志があつまって行うそうですが、さてさてどこまで実現できるのか楽しみです。

娘の担任の先生の話によれば、娘のクラスでは自分の考えをまとめてから誰かの前でそれを話す、ということに取り組んでいるとのこと。これは授業の中だけではなく、他の場面でも活かされています。実際、来週から、毎学期行われている個人面談があるのですが、今回は今までのように先生が中心となって生徒の様子を話すのではなく、生徒自身に今の自分の学習状況を話させて保護者に報告してくれるそうです。お父さんやお母さん、そして先生を目の前にして話をする、というので既に緊張しまくりの子どももいるということですが、これも発言の練習の一環なのでしょうね。娘に「どんなことを話してくれるの?」と聞いても、「ひみつだよ」と言って教えてくれないので、本人は楽しみにしているようです。



資料1 http://www.skolverket.se/
資料2 http://www.dn.se/sthlm/grupparbete-i-skolan-okar-mobbningen/
資料3 Forslund Frykedal, Karin (2008). Elevers tillvägagångssätt vid grupparbete: om ambitionsnivå och interaktionsmönster i samarbetssituationer. Linköpings universitet. Institutionen för beteendevetenskap och lärande.
資料4 http://www.lararnasnyheter.se/pedagogiska-magasinet/2011/11/10/grupparbete-arbetsform-daligt-rykte

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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