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第10回 重い脳障害を持った子どもへの支援(やさしい目とやさしい手)

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

2009年1月 8日掲載

要旨:

重い脳障害を持つ子どもの反り返り現象から考える障害者支援。子どもに優しい目とやさしい手で信頼関係を築き、子どもたちの機能障害だけに目を向けるのではなく、子どもと家族の幸せを考えた支援体制(社会的システム)の確立が急務であると筆者が主張します。
幸(コウ)ちゃんは、くりくりとした目がかわいい2歳6ヵ月の男の子です。はじめて幸ちゃんに出会ったのは、1歳9ヵ月のときでちょうどコラムを書き始めた頃です。

仰向けで寝かされた彼の身体は、右に折れ曲がり下部の肋骨と骨盤とが重なりあった状態で泣いていました。両股関節は脱臼し、膝は反対方向に折れ曲がっており整形外科医からは、腹臥位姿勢でのリラクゼーションを目標にしてほしいとの指示により訓練を開始しました。

 

初めの頃は、私が声をかけたり、抱っこしたりすると表情はこわばり、大きく反り返り泣いていました。このサインは、幸ちゃんにとって私は危害を加える人と思っているに違いないと直感しました。幸ちゃんにとって安心できる存在であるよう痛みや不快感を取り除くうちに、私を安心できる人であるとわかってくると反り返ることも少なくなり、徐々に身体を預けるようになり、訓練中は穏やかに寝てしまうことが増えてきました。


report_07_10_1.jpgまた幸ちゃんは、反り返る緊張のため股関節部分の皮膚は剥がれやすく床擦れの心配もありましたが、訪問看護ステーションのスタッフが紙おむつの吸収素材を用いたクッションパッドを作ってケアしてくれているおかげで床擦れになることはありませんでした。

その後、寝たままの状態で乗れる車椅子を使って、元気に通院しています。最近はお母さんの胸の上でうつ伏せが出来るようになってきたので、腹臥位用のクッション」1) を自作し家で使用しています。このクッションは顔が下を向いても呼吸が出来るように口と鼻の部分を刳りぬいています。また左胸が前に突出しているため溝を掘り支えることで、右側に重さがかからないように工夫しています。お母さんからは、日中うつ伏せで楽に過ごせる時間が出来たことでケアが楽になったことやお風呂の中で声を出して笑ったことなど幸ちゃんの変化を共有できていることに私自身たいへん嬉しく思っています。

重い脳障害を持った子どもたちの多くは異常姿勢筋緊張を呈していますが、この異常な反り返りは果たして脳損傷だけで説明できるのでしょうか。子どもたちの中にはお風呂に入っている時、お母さんに抱かれている時には力が抜けてリラックスしていることがあります。訓練の場面で観られる反り返りは、支援者の行為が痛みや不快を与えるだけであるため、単に嫌われているためではないでしょうか。障害が重度であるほど子どもたちは周りの変化に敏感です。そのため最初にどの様に関わるかがとても重要になります。私は子どもたちの身体に触れる時、「大丈夫だからね」、「安心していいよ」と心の中でつぶやきながら身体に触れるよう心がけています。このような声なき声を伝えることで、私たちの手はやさしくなれます。また、子どもの気持ちを家族に即時的」2) に伝えることは子どもたちの気持ちに立った見方を共有することにつながり、無理な介入を避けることにつながります。

しかし、私たち支援スタッフができることには限界があります。成年期を迎えたお母さんとの話しの中で、「子どもの時に通っていた通園センターからの帰り道にこのまま前の車に突っ込んでしまおうと思ったことが何度もあった。」との声を聞きました。さらに、その様な気持ちは一人だけではなく多くのお母さんが持っていることを知り、表面的な問題しか聞けていなかった事に恥ずかしさを感じました。病院で週に一回しか出会えていない私には、日々の介護に追われているお母さんたちの気持ちを完全に理解することなど到底できません。しかし、子どもたちの潜在性や笑顔を引き出すお手伝いはできるように思います。そのために、子どもたちの機能障害だけに目を向けるのではなく、子どもと家族の幸せを考えた支援体制(社会的システム)の確立が急務であると思います。

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1) 腹臥位用クッション:ウレタンスポンジを子どもの状態に合わせて作ります。自ら姿勢を変えることができない子どもの場合、仰向け・うつ伏せ・お座りなど最低でも3種類の姿勢を取れるようにします。幸ちゃんの場合、日常姿勢は仰向け中心の姿勢であるため、その他の姿勢としてうつ伏せを選択しました。私たちでも同じ姿勢のみで過ごすことは大変苦痛であることは想像できると思います。また呼吸機能や消化器系(誤嚥・胃食道逆流現象)に問題を持っている子どもたちにも有効であります。 

2) 即時的:例えば子どもの気持ちをアフレコの様に伝えることです。そのことを繰り返すことで、周りの人たちは子どもたちの声なき声を察することが出来るようになります。

筆者プロフィール

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

1982年 理学療法士免許取得
1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務
1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務
1988年ー 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務
兼務
関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師
同志社大学「こころの生涯発達研究センター」共同プロジェクト研究員

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