CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 理学療法の現場より~琵琶湖から吹く風~ > 第5回 こころに残った講演-ミラーニューロンから見えてきたもの-

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

第5回 こころに残った講演-ミラーニューロンから見えてきたもの-

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

2008年8月 8日掲載

要旨:

他者の動作・脳内の動きが、鏡(ミラー)に写すように自身の脳内で反映する「ミラーニューロン」の働きについて書かれています。ミラーシステムの働きにより、ヒトには生まれつき他者の動作を模倣し学習する能力が備わっていますが、環境によってその進行具合は異なり、肢体不自由な子どもは、自由な模倣が叶わないという環境要因があります。子どもたちの生得的プログラム(アクション)発動に必要な“ほどよい”(折り合いのついた)働きかけと非定型なからだが作り出す身体違和や生じる困難さを理解し、子どもたちに寄り添った支援こそが小児ハビリテーションを実現することこそが、わが国に於ける神経発達学的アプローチの発展への近道であると筆者が主張しています。
6月にクロアチアの首都ザグレブで開催された第20回European Academy Childhood Disability Meetingに参加しました。この学会は毎年ヨーロッパの中で行なわれており、前回のオランダ大会に引き続き2回目の参加になります。その中でパルマ大学Vittorio Gallese教授の講演『Mirror Neurons Embodied Simulation Motor Cognition Hypothesis』で使われていた1枚のスライドがどうしても気になりました。今回はそのスライドを基にお話しいたします。

Gallese教授はRizzolatti教授(Rizzolatti et al. 1996)らと共に、マカクザルの下前頭皮質に電極を設置し神経細胞の活動を記録していた際に、ヒトがサルのエサを拾う行動を見たマカクザルが、同様の行動を示す特異なニューロンを発見しました。このように、他者の動作・脳内の動きが、鏡(ミラー)に写すように自身の脳内で反映することを「ミラーニューロン」と言います。ミラーニューロンが細胞単位で研究されている唯一の動物がマカクザルであり、マカクザルにおいて、ミラーニューロンは下前頭回(F5領域)と下頭頂葉で発見されています。このミラーニューロンが記録された下前頭回(F5領域)は、ヒトの発話性の言語野であるブローカ野に相当する位置にあります。そのため、「言語はミラーニューロンを使った模倣から生まれたのではないか」という解釈もありました。その後の研究で、頭頂連合野や側頭連合野にもミラーニューロンが見出され、これらが形成するシステム(ミラーシステム)が学習やコミュニケーションの基礎ではないかと考えられるようになりました。ミラーシステムの働きにより、口で教えられるより、他者の動作を見ればすぐにできたり、覚えられたりするのです。新生児が、まさにその「ミラーニューロン」の学習を示しているスライドがありますので、ご紹介します。
(スライドは、Gallese教授から頂いたものをそのまま掲載いたします。)

report_07_05_1.jpg    (前)乳児の目の前でピースサインを出す。         (後)その1秒後に同じピースサインを出した乳児。

Gallese教授は講演の中で、ミラーリングの個体発生1)に関して、「胎児期における胎児の指吸いや顔を撫でるような動きの運動中枢がやがて出生後に視覚領域になる。そのような手の顔や口へ接触性がスライドに示すような大人のジェスチャーを模倣する準備となり、出生後の一生を特徴付ける"相互的な振舞い"を可能にする神経のリソースに寄与する」と述べています。つまり、上述のスライドでも証明されるように、ヒトには生まれつき他者の動作を模倣し学習する能力が備わっているということです。このことは、子どもたちのリハビリテーションを行う上でも運動や動作をわかりやすく見せることの重要性を示唆するものであります。

さらに遠藤利彦氏は、共著「子どもが『こころ』に気づくとき」(ミネルヴァ書房 (1998))の中で「生得的プログラム2)とは、環境とは独立にただ成熟に伴って自然と解凍されるものではない。むしろ、環境に依存し、環境との交互作用において、はじめて意味をなすようなプログラムのことであり、そのことでスカー(Scarr,1992)は遺伝と環境の関係に関して独自の見解を打ち出している。それによれば、発達は"ほど良い""平均的に期待される"環境下にあるとき、主に生得的なプログラムにしたがって進行するのだという(環境は、生得的プログラムの一種のトリガーとして機能し、また生得的プログラムが発動すると、今後はそれに合致するよう、選択・調整されるようになる)。逆にいえば、その平均的に期待される、ほどほどの環境さえも剥奪された状況では、生得的なプログラムが十分に展開することなく、発達にいちじるしい歪みが生じてしまうということである。こうした考えは、生得的な遺伝的要因に相対的に重きを置くものといえるが、環境要因にもある一定の役割をもたせるという意味では興味深い。遠藤は、このスカーの見解を、あらゆる発達現象に適応して考えようとは思わないが、少なくとも、タイミングの違いはあれ、ほとんどの子が"やがて"もつに至るような「心の理論」3)自他理解のかなりの部分に当てはめてよいのではないかと考えている。」と述べています。

また船橋敦彦氏は、当事者への支援にあたって肢体不自由「者」を『非定型なからだ』を持つ人達として捉え、非定型として生きることを認めつつ、非定型として生きるが故に生じる困難さを支援するべきであると述べています。

つまり、この2つの引用から、次のことが言えるのではないでしょうか。生まれつき備わっている「ミラーニューロン」の働きで他者の脳内の動きを読み模倣し学習する能力にほとんどの子が当てはまるが、環境によってその進行具合が異なります。たとえば、肢体不自由な子どもは、自由な模倣が叶わないという環境要因があり、たとえ生来備わっていたとしても「ミラーニューロン」の学習能力を存分に発揮させることができないかもしれません。しかし、その環境要因での困難性を私たちは支援してくべきなのです。

大変うれしいことに、本コラムの執筆中に三菱財団から研究助成金の決定通知が届き、「多目的電動移動機器(Multilocomotor)を用いての早期移動経験が子どもたちのこころ発達にどのように影響を与えるか」について、念願の研究が始められることになりました。身体障害をもった子どもたちにも、このようなミラーリングを含む生得的なプログラムが存在しているか否かは議論の余地があるかもしれませんが、"自らの想像裡において"子どもたちの"心"を語り、その語りに応じるように種々の具体的な働きかけを行うことこそが生得的なプログラムのトリガーを引くことにつながるのではないでしょうか。

子どもたちの生得的プログラム(アクション)発動に必要な"ほどよい"(折り合いのついた)働きかけと非定型なからだが作り出す身体違和や生じる困難さを理解し、子どもたちに寄り添った支援こそが小児ハビリテーションを実現することこそが、わが国に於ける神経発達学的アプローチの発展への近道であると思う。
__________________________________________________________

1) Ontogenesis of mirroring:東京女子医科大学 乳児行動学講座 小西行郎 教授は、近赤外線光トポグラフィーを用いて哺乳時の脳活動を計測したところ視覚野の活動が高まっていると報告している。新生児期においては哺乳に重要な口唇周囲の感覚を脳の最も大きな領域である視覚野が行っており、その後の視覚情報との競合により視覚野は視覚情報だけの処理に使われる。先天的な視覚障害者は指先で点字を読んでいるときに視覚野が活動していることも知られている。また第1回 新・赤ちゃん学国際シンポジウムでウプサラ大学のホフステン教授が赤ちゃんの舌出し模倣(ミラーリング)を紹介されている。

2) 生得的プログラム:我われヒトも進化の過程のなかで獲得してきた遺伝プログラムを持っています。最新の研究ではでMarianne Barbu-Roth et al.(ICIS 2008) Neonatal Stepping in Relation to Approaching and Receding Terrestrial Optic Flows で生後3日目の赤ちゃんを空中で支えた状態で床面に視覚流動を起こさせる映像を見せると下肢の足踏みが出現し、順方向と逆方向では下肢の運動軌跡が異なる。新生児の運動コントロールのためには視覚情報の重要性と同様に原始歩行と独立歩行の連続を強調しています。

3) 心の理論:自分が他者に心的状態を帰属することで、人の行為の原因を相手の心の働き、信念や欲求、情動、意図などにその原因を求めます。つまり、直接外からは見えない相手の心を仮定して、その働きに原因を求めることです。

筆者プロフィール

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

1982年 理学療法士免許取得
1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務
1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務
1988年ー 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務
兼務
関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師
同志社大学「こころの生涯発達研究センター」共同プロジェクト研究員

このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP