CHILD RESEARCH NET

HOME
このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

第4回 今の私の関心事

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

2008年7月11日掲載

要旨:

子どもたちが浴槽の中ではリラックスできるのに、身体を洗おうとすると緊張が高まってしてしまうようです。自分で何かをしようとすると意思に反して緊張してしまい身体が動かなくなってしまうのが、脳に損傷を受けた子どもが示す一つの 様相です。筆者は子どもたちと向き合うなかで、環境に適応するために必要以上の努力をしていることを思い知らされました。障害を持つ子どもたちは自分の重さや姿勢の不安定さから起こる恐怖心に適応するため、緊張して硬くなるようです。本稿ではその補助器具としてTherasuitを紹介し、TheraSuitを装着することで動きのある支持性を補うことが適度な緊張感を保ちながら姿勢コントロールや動き方を学習することにつながります。
子どもたちが浴槽の中ではリラックスできるのに、身体を洗おうとすると筋緊張が高まってしてしまう。抱っこしているときは機嫌が良いのに、ベッドに寝かせると反り返ってしまう。自分で何かをしようとすると意思に反して緊張してしまい身体が動かなくなってしまう。これらは脳に損傷を受けた子どもが示す一つの様相です。しかし、本当に中枢神経系の損傷という文脈だけでこれらの現象を理解してよいのでしょうか。

私は子どもたちに向き合うなかで、環境に適応するために必要以上の努力をしていることを思い知らされました。それらは自分の重さや姿勢の不安定さから起こる恐怖心などです。そのため身体の部分で力が入るところを硬くして何とか適応しようとします。そのような行為が日々の生活のなか幾度ともなく繰り返されるため、筋群の間にアンバランスが生じ、拮抗する筋群は筋力低下を起こします。私はTheraSuitとSpiderに出合うまで子どもたちのことを理解できても有効な解決策を見出すことが出来ませんでした。

そんな中、昨年ミシガン州にあるPediatric Fitness CenterでTheraSuitの講習会を受講しました。

TheraSuitは、子どもたちが着る軟性の服で、それは『巨人の星』の主人公、星飛馬が幼年時代に身に着けていた『大リーグ養成ギプス』の様なものです。脳性まひ児は、筋緊張にアンバランスを持っています。例えば、早産低出生体重児の多くは腹部の筋肉が働かないため体幹が不安定になってしまいます。そのため姿勢保持をするため手足に過剰な力を入れてしまいます。しかしそのような状態が長く続けば、脳は手足に力を入れ続けることを命令し、力を抜くことができなくなるだけではなく、多様性(複雑性)のある動きができなくなります。TheraSuitに取り付けられたゴムベルトはそのような子どもたちの筋肉の代わりを果たしてくれます。その考え方はPostural Control Support Systemと相通じるところがあり、脳性まひを持つ子どもたちの治療に新たな展開をもたらすものと期待しています。

TheraSuitの原型は1960年代のソビエト連邦と米国の宇宙テクノロジーが出発点であります。宇宙空間には重力が無いために長期滞在では筋力やバランス能力が低下します。そのため宇宙服の中に筋力を維持するための様々な工夫がなされていました。その技術がソビエト連邦の崩壊後、ロシア航空宇宙局とロシア科学アカデミーによって脳性まひ児の社会復帰に活用されることになりました。Siemionowa博士とロシア科学アカデミー小児科研究所で作製した、新しいスーツ-LK-92"ADELI"は、その後ポーランドとアメリカで改良がなされ、2002年からPediatric Fitness CenterでTheraSuitとSpiderと共に講習会を受講した上で販売されています。この治療方法はアメリカを中心に現在、世界130施設で行なわれていますが、日本では当センターが唯一です。

report_07_04_1_a.jpg
ADELI 92を装着しているKaya

report_07_04_2.jpg運動発達の過程の中で例えれば、赤ちゃんは立ちしゃがみを繰り返し行ないながら、その運動を知覚し、膝の曲げ伸ばしに必要な力の調整やバランスの取り方を学習します。そのとき適度な精神的緊張感(ハラハラ・ドキドキ)は、身体知覚を育むことに働きます。しかし脳性まひ持つ子どもたちは、精神的緊張感が恐怖心につながり余分な緊張として身体を硬く動きを制限する方向に働いてしてしまいます。TheraSuitを装着することで動きのある支持性を補うことが適度な緊張感を保ちながら姿勢コントロールや動き方を学習することにつながります。

今まで立位姿勢では下肢が棒のようになっていた子どもたちが、力を抜きながら立ちしゃがみを繰り返す姿を見るたびに子どもたちの潜在性に驚かされます。

しかしTheraSuitは、脊柱の側彎、股関節の亜脱臼、呼吸機能や心臓に問題がある子どもたちには使用できません。またスーツを装着するだけで心拍数は20%上昇するなど常時装着するものではありません。またPediatric Fitness Center で行なわれている集中訓練は、ホットパック(湿性の温熱療法で、疼痛の緩和や筋のリラックスを目的とする)とマッサージから始まり、関節可動域訓練、筋力強化、TheraSuitおよびSpiderまで1回のセッションが約3時間であり、開業権のない日本では、アメリカと同様の内容を行うことは現時点では困難に思います。しかしこの方法は小児の治療体系に少なからず影響を及ぼすものと確信しています。

「障害者はできないのではない。社会が彼らをできないと思って、できなくさせているのだ」(K, SHRIVER)の言葉のように、専門家は子どもたちに障害種別というラベルを貼り、既存の治療体系の中で子どもたちをより正常に近づけようと努力します。しかし一度立ち止まって子どもたちと触れ合うと多くのことを語ってくれます。

『熱願冷諦』故 岡崎英彦 先生の言葉を肝に銘じ、日常で感じたことを発信し続け、より良い支援方法の創成に寄与できれば幸いです。

report_07_04_3.jpg

TheraSuitとSpiderを用いての立仕
瑠菜ちゃん6歳(当センターにて)

筆者プロフィール

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

1982年 理学療法士免許取得
1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務
1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務
1988年ー 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務
兼務
関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師
同志社大学「こころの生涯発達研究センター」共同プロジェクト研究員

このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP