「この疾患は主に次のように特徴づけられる。(1)最初下肢と腰部の筋力低下に始まり、上肢へ進行性に広がる。(2)ほとんどの麻痺した筋は大きさが増加する。(3)麻痺筋の間質結合組織の増加。より進行期には線維組織と脂肪球の多量の産生。」
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) については、『デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する分子治療のこころみ』武田伸一,吉村まどか 国立精神・神経センター神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 にわかりやすい要約が書かれていますので、抜粋して説明のために引用します。
『DMDはもっとも頻度の高い筋ジストロフィーです。ほとんどが男児のみに発症しますが、その割合は男児出生約3500人に一人と言われています。男性には一つ、女性には二つある、性染色体であるX染色体上には、筋肉の細胞(筋細胞) の骨組み(細胞骨格) をつくるジストロフィンというタンパク質の遺伝子があります。遺伝子の異常で、ジストロフィンがほとんど作れなくなるのがDMDです。ジストロフィンは筋細胞の骨格を保っているので、DMDでは筋細胞がその形を保てなくなり、容易に壊れるようになります。その結果、筋細胞は崩壊・再生を繰り返し、筋肉としての働きが出来なくなり、筋力低下、筋萎縮を来たします。DMDの症状は幼児期の起立・歩行障害から始まり、10歳前後で歩くことが出来なくなります。筋力低下による呼吸障害や、同じく筋肉で出来ている心臓の機能障害が死因になることが多く、患者さんは20歳程度で死亡されることが多かったのですが、最近は医療器具や薬物などの医学の進歩により30代、40代まで存命される患者さんもいらっしゃいます。残念ながら、この病気の根本的な治療法はまだ発見されていません。しかし最近、分子生物学の進歩により様々な技術が治療に応用できるようになり、加えて筋肉の構造や機能、病気の成り立ちが解明され、全く新しい治療法が考案されるようになりました。(デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する分子治療のこころみ 武田伸一,吉村まどか 国立精神・神経センター神経研究所 遺伝子疾患治療研究部より許可を得て抜粋引用) 』
13例はすべて孤発例で、彼は筋ジストロフィーが遺伝する事までは気づきませんでした。デュシェンヌはまた、筋肉の電気刺激に関して、麻痺には、電気刺激に反応する新しい麻痺と反応に乏しい古い麻痺があり、電気で刺激をくり返すことにより筋力が回復しうるとした「局所通電について」という著作(1855-1872年)を残しています。そんな彼は1862年にThe Mechanism of Human Facial Expression という人間の感情と表情に関する著作を残しています。これは「写真」を医学書に用いた最初の出版物だそうです。この著書の中で、デュシェンヌは人間の顔に電極を当てて顔面の筋肉を収縮させることで様々な表情を作ることが出来ることを写真で記録しました。
この写真は頬骨筋に電極を当てて作られた電気仕掛けの人工的な笑顔ですが、俗に言う「目が笑っていない」凍った笑顔になっています。しかし電気仕掛けでも人の顔面に表情を作り出すことが可能であることを実証したことは偉大な業績で、やがてくる『楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいのである』 といった、ジェームスとランゲの提唱した感情の身体起源説につながる考え方が生まれる基になったとも思われます。
人は楽しいから笑うのでしょうか?それとも笑うから楽しい感情がわいてくるのでしょうか?人間機械説とジェームス=ランゲ説、さらには人間の感情の起源に関するさまざまな考え方については、また後ほど詳しく述べることになります。