笑い発作を起こすのは、神経科、脳外科分野でいくつかの病気が知られており、また脳外科手術の最中に脳のどこを刺激すると笑い発作が起こったかが記録されています。それらによりますと、前頭葉の連合野上部を刺激すると、患者自身にはなぜか分からないけれど急に面白くなって笑い出した、また別に、側頭葉連合野を刺激すると楽しい思い出とともに笑いがこみ上げた等の記載があります。これらの脳外科的な証拠の中で一番はっきりと笑いの中枢を指し示しているのは視床下部過誤腫という病気です。(視床下部過誤腫については、独立行政法人国立病院機構 西新潟中央病院ホームページでわかりやすく解説されているのでリンクを貼らせていただきました。)
私からも下の図を使って解説させて頂きますと、脳の中心部に視床下部という体の恒常性を保つ事に関係する脳神経核の集まる場所があります。視床下部には、体温を調節したり、睡眠のリズムを作ったり、私たちの体の状態をコントロールする脳神経の中枢が多数存在しています。視床下部の前方には脳下垂体という場所があり、体の状態を一定に保ったり、子孫を残していくための大切な機能をつかさどるホルモンの分泌を行っています。視床下部には脳下垂体からのホルモン分泌を調節する機能が集結しています。この視床下部の後方に位置する乳頭体という場所のすぐ近くに、本来の脳の組織ではない別の組織が紛れ込むことがあります。視床下部過誤腫と呼ばれるこの病気は、視床下部にある本来の脳神経核ではない大型の神経細胞や小型グリア細胞が、通常には存在しない場所に形成異常となった病変です。この異所性の組織が原因で患者には笑い発作とてんかん、思春期早発症(10歳以前に早く大人への変化が始まる)が起こります。患児には精神発達遅滞や多動や過激などの行動異常を伴う場合も有ります。視床下部過誤腫のできる脳の場所を下の図に「笑いのつぼ」として描き込みました。この部分が笑いの神経中枢である別の証拠としては、1934年に脳外科医のフェルスターが報告した、第3脳室の手術中に第3脳室の底部の出血をふき取るたびに、患者は大声で爆笑したことがあげられます。
10歳以前の子どもが、笑いが止まらないほど楽しいことが有るわけでもないのに、けいれんを伴う笑い発作を起こしたり、急に大人の体型になったりする場合は、視床下部の過誤腫である場合もあります。視床下部の乳頭体付近には、少なくとも一つの脳内の笑いの中枢が存在することを、下記の図から理解していただくために、今回はこの病気を取り上げました。

図は脳の中心部を拡大して、視床下部の神経核群をわかりやすく浮き彫りにして描いています。笑ったお日様マークの場所が笑いの中枢だと著者は考えています。