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3. 笑わない子どもたち

要旨:

満足や幸せの感情を表現して笑うのは人類だけである。笑うことは人類が生きるために必要である。子どもの笑顔に大人は疲れを取れ、癒される。しかし、最近は笑わない子どもたちが増えている。それは「生きる力の弱い子ども」の増加を表し、成長後自殺の危険性が増加する恐れもある。子どもたちが笑顔を取り戻すような子育てを進めることから、将来の自殺者の増加に歯止めが掛かればと願う。

小児科医として20年以上働いていますが、同期生の医師たちと会うたびに『君は若いな!苦労していないんだろう?』といわれます。小児科医は概してベビーフェイスの医師が多く、しかも一年中子どもたちに囲まれてキャッキャと楽しく働いているので余り老け込まないのです。決して苦労がないわけではなく、多くの小児科医は朝から晩まで、そして晩から朝まで、昼夜の区別もなく働き続けています。夜更かしすると松果体からメラトニンが分泌されなくなり、脳内のセロトニンが減るから、イライラしてキレ易い子どもに育ちますよ!とか他人には指導していながら、自分自身が年中メラトニンとセロトニンの不足に悩んでいるのです。そんな小児科医の一番の楽しみは子どもたちの笑顔に接することが出来ることです。満面の微笑みに出会えば、勇気百倍ドーパミンの脳内シャワーにたちまち疲れも吹っ飛んで、全身が癒されてしまうのです。

 

ところが最近は笑わない子どもたちが増えました。外来で自分の順番が来て名前を呼ばれても、返事もせずに黙って診察室に入ってきます。黙って座ると誰とも目を合わせず、周囲をキョロキョロ見回しては珍しい医療器具などには直ぐに手を触れようとします。人より物の方に興味があるようです。ニコニコと微笑んでくれるのは4ヶ月児か6ヶ月児の、誰を見ても無差別に笑う子どもたちだけで、多少物心付くとほとんどの子どもたちが押し黙ってニコリともしなくなるのです。これは小児科医にとって大変なことです。私たちの若さの秘訣、天使の微笑みに癒される時間が無くなってしまったのです!

子どもがどうして笑わないかを考える前に、私は子どもの笑う意味を考えてみようと思います。人類は地球上で唯一の笑う生物だと言われています。サルやチンパンジーは笑わないのでしょうか?図書館で調べますと、類人猿には威嚇と服従のサインとしての笑いに似た顔の表情が見られ、脇腹をくすぐるとキャッキャ声を上げますが、いずれも人類の笑いのように愉快な気分を表現するための笑いとは異なるようです。どうして人類には笑いという行動が遺伝的に引き継がれる必要があったのでしょうか?私は人類が現在持っている能力には何一つ不必要な物は残されていないと考えています。人類の進化の歴史で笑うことが獲得されて伝承されたことの意義をじっくり考えていようと思います。これから連載を通じて、子育ての中で笑う事がとても大切なポイントになっていることに、読者の皆さんが気付いて下さればと願っています。

生まれたばかりの赤ちゃんは、おっぱいを飲んで満腹の時と、まどろんで眠り掛けているときに一人でニャーっと笑います。ただし正確には顔の筋肉を無意識に引きつらせているだけで「楽しいから笑う」とか「満足したから笑う」と言った感情の伴った笑いではありません。この微笑みを私たちは新生児の生理的あるいは反射的な微笑と呼んでいます。じつはこの新生児微笑はチンパンジーにもあることがわかっています。しかしチンパンジーでは新生児期のみに見られて成長と共に笑顔は消えて無くなるのです。チンパンジーは自分を不幸だと思っているのでしょうか?そんなことはありません。要するに新生児微笑は人類でも類人猿でも特別な感情を伴わずに神経反射として起きている一種の痙攣のような現象なのです。新生児期には無意識の痙攣のような、筋肉のひきつれ現象だった新生児微笑が、人類では満足や幸せの感情表現の笑いへと進化して、類人猿では消えてしまったのです。この人類だけがなぜ笑うのかについて、そして笑いが子育ての中で演じる重要な役割について、小児科医の目から見た世界初の(?)系統的な考察を書いてみたいと思っています。

私は人類が笑うことは『生きるために必要だから笑う』のだと考えています。これが進化論的な考え方です。笑わない子供の増加は『生きる力の弱い子ども』の増加を表しているように感じます。そして成長後に自殺という恐ろしい結末が訪れる危険性が増加していることだと思います。子どもたちが笑顔を取り戻すような子育てを進めることから、将来の自殺者の増加に歯止めが掛かれば良いなと願いながら記事を進めたいと思います。

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筆者プロフィール
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林 隆博 (西焼津こどもクリニック 院長)

1960年大阪に客家人の子で日本人として生まれ、幼少時は母方姓の今城を名乗る。父の帰化と共に林の姓を与えられ、林隆博となった。中国語圏では「リン・ロンポー」と呼ばれアルファベット語圏では「Leonpold Lin」と自己紹介している。仏教家の父に得道を与えられたが、母の意見でカトリックの中学校に入学し二重宗教を経験する。1978年大阪星光学院高校卒業。1984年国立鳥取大学医学部卒業、東京大学医学部付属病院小児科に入局し小林登教授の下で小児科学の研修を受ける。専門は子供のアレルギーと心理発達。1985年妻貴子と結婚。1990年西焼津こどもクリニック開設。男児2人女児2人の4児の父。著書『心のカルテ』1991年メディサイエンス社刊。2007年アトピー性皮膚炎の予防にビフィズス菌とアシドフィルス菌の菌体を用いる特許を取得。2008年より文芸活動を再開する。
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