クリ二クラウンは笑いとユーモア溢れるコミュニケーションの世界を
創造し、病気のこどものQOL向上に貢献しています。
クリニクラウンオランダ財団と
日本クリニクラウン協会が共用する
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はじめに
赤い鼻をした、道化師たちが病棟を闊歩する・・と聞けば、何かのイベントが院内で開催されるのか?と誤解される方が大半だと思います。ところがこれが小児病棟の日常的な光景だとしたら、皆さんは容易にそのことを受け入れられますか。そのことを歓迎する?あるいはNO?あなたの意見はいかがでしょうか。病棟の空気を優しさいっぱいに変え、闘病生活を送るこどもの療育環境改善を目指す、クリ二クラウンの活動をご紹介させていただきます。
始めに、クリ二クラウンとはいったい何かお伝えしたいと思います。クリ二クラウンは、病院を意味する「クリニック」と道化師をさす「クラウン」を合わせた造語で、日本語に訳す時は『臨床道化師』と呼ばれます。一言で言えば、入院生活をおくるこどもの病室を定期的に訪問し、遊びやユーモアを届け、こどもが笑顔になれる環境を創造する道化師、それがクリニクラウンというわけです。
病院を訪問する道化師(日本の現状)
次に病院と道化師をめぐる日本の現状について考えてみたいと思います。現在、日本の病院において、クラウンが定期的に訪問し活動しているという実例はまだまだ少ないのが現状です。その理由として、第一にクラウンそのものの認知度が低いこと、またクラウンに期待する役割が娯楽的な側面のみになっていることがあげられます。第二に、病院は治療の場であり、笑いや遊びの必要性が重要視されるにいたっていないこと等があげられ、笑いや遊びが必要だと感じていても、それらを病院の正規のサービスとして取り入れることの難しさがあります。ただし最近では、疾患のみを診る医療から、一人ひとりのライフデザインを考慮した医療スタイルへの転換や、治療に患者側の意見が反映されるという考え方、あるいはQOLを高めることを目標とした医療が行なわれるようになってきました。
そのような状況を受けて道化師が行う社会活動の意義も少ずつ認知されています。私たちはクリニクラウンの活動を定着させることにより、こどもにとっての遊びや笑顔の重要性を、こどもの権利の選択肢の一つとして社会に広めていきたいと考え協会を3年前に発足させました。
今回のリポートを通じ臨床現場において、医者や看護師、教師などと連携しながら闘病中のこどもに対してかかわるコミュニケーションのスペシャリスト=クリニクラウン(臨床道化師)の理解が深まれば幸いです。
すべてのこどもにこども時間を
- こどもは闘病生活を過ごしながらも、成長し続けます -
気ぜわしい現代社会の中で、今こどもに本当に必要なものは何か?それを私たちは、こどもがこどもらしくいられる時間、つまり『こども時間』と呼んでいます。
こどもがこども本来の生きる力を取り戻し、希望を持って将来の展望を描くためには、今この瞬間がいきいきと輝いている必要があります。こどもは一人ひとり、成長や発達のスピードが違います。だからこそ、クリニクラウンは単に笑顔になることを決して急がせずじっくりこどもとかかわることを何よりも大切にしています。
クリニクラウンの概況
Ⅰ.クリニクラウン(臨床道化師)とは
病院を意味する「クリニック」と道化師をさす「クラウン」を合わせた造語です。クリニクラウンは、入院生活を送るこどもの病室を定期的に訪問し、遊びや関わり(コミュニケーション)を通して、こどもたちの成長をサポートし、笑顔を育む道化師のことです。
クリニクラウンは、優れた表現者であると同時に、こどもとの接し方、こどもの心理、保健衛生や病院の規則にも精通したスペシャリストです。活動の主役はあくまで「こども」。病気の治療のために様々な制限の中で入院生活をしているこどもたちが、おもいきり笑い、主体的に遊ぶことのできる環境をつくること、それがクリニクラウンの役割です。
※日本ではクリニクラウンを臨床道化師と訳しています。臨床=Clinicalという意味ですがクリニクラウンのイメージを最も表現する言葉としてこのような解釈を用います。
Ⅱ.クリニクラウンの役割
― 活動の主役は 『こども』 ―
クリニクラウンはこどもの健やかな成長を全力で応援しています!
クリニクラウンの役割は「入院しているこどもたちがこども本来の生きる力を取り戻し、笑顔になれる環境を創造する」ことです。クリニクラウンはこどもと心を通わせて遊ぶことにより人と関わることへの喜びを伝えます。
私たち日本クリニクラウン協会では、こどもが笑顔になれる環境づくりのためにこどもの成長に欠かせない3つの要素の実現と充実を目標に活動をしています。
<こどもの成長に欠かせない3要素>
・想像力を刺激する「遊び」
・自主性、能動性を育む「発見」
・家族や友達、学校など「社会的環境」
3要素の充実をめざしクリニクラウンは病院を訪問します。
こどもは家族や地域、学校の友だちなど、他者との関わりの中で、様々な体験や発見をし、その関係性を深めることでいきいきとした生活を送ります。しかし、入院生活が長くなると、こどもの成長に大切な出会いや遊ぶことが制限されてしまいます。治療が優先となる病院の中では、必然的にこどもがこどもらしい時間を過ごすことが難しくなります。
そこでクリニクラウンは、遊びや会話による相互のコミュニケーションを通じ、「わ~すごい」という驚きを届けます。遊びながら「これなに?」「やってみたい」という気持ちが起き、こどもの想像力を育みます。また、遊びの中から生まれてくる瞬間のひらめきや新鮮な発見を大切にしています。「こんなことをクリニクラウンにしてみよう」といったこどもの自発性や、訪問後も「楽しかった!」「今度会ったときはこうしよう」というこども自身の能動性を引き出します。人が人に出会い、心を通わせて関わる、その中でこどもたちの成長を支えているのがクリニクラウンです。
私たちのミッション
「To improve the well-being of sick children by the use of clowning」
クラウニングを用いて病気のこどもを幸せにする
Ⅲ.基本原則
<クリニクラウンの外見>
クリニクラウンは、派手なメイクをしたりフリルのついた衣装を着たりはしません。訪問する時に、常に衣装が清潔に保たれていることや容易に手や指の消毒ができること、メイクによって病室のカーテンやシーツを汚さないこと、作られた表情によってコミュニケーションを阻害する恐れを回避する工夫がなされています。また、どのクリニクラウンも活動するときは象徴的な赤い鼻をつけています。鼻をつけている時をノーズオンと言い、この時はクリニクラウンとして行動します。カンファレンスなどで医療スタッフや保護者と大人として話をする時は鼻を取ってノーズオフの状態になります。
<二人一組>
クリニクラウンが病院訪問する時の最小単位は二人一組になります。これはクリニクラウンが自分のパフォーマンスを見せるために存在しているのではなく、コミュニケーションの世界をつくるために訪問していることに関係しています。入院中のこどもたちは病院という環境での生活のため、楽しむことや他者と関わることへのモチベーションが低下せざるを得ない状況に陥ります。そこで、クリニクラウン同士の関係性や遊びに触れることにより、ゲームでは味わえない人と関わることの楽しさを体験してもらうことができます。 また、たとえ教育されたクリニクラウンであっても活動が密室化することを避けるため、お互いの行動を確認しあう効果もあります。
<専門教育と遵守規定>
クリニクラウンになるためには現在、日本クリニクラウン協会が主催するオーディション、養成トレーニング、臨床研修、臨床道化師認定試験の全てをパスする必要があります。
クリニクラウンは優れた表現者であると同時にこどもの心理、疾患、保健衛生の基礎知識、医療者との関わり方等を学ぶ必要があり、こどもの権利を守る擁護者としての責任と誇りを持ち、協会が定める倫理規定や病院訪問の原則がまとめられたガイドラインを遵守して活動をしています。また、毎年、健康診断書、個人の病歴をまとめた既往歴証明書の提出を医療機関に行い、派遣先から要求があった場合は毎回の訪問時に記入される病院訪問報告書の開示も行っています。
<定期的な訪問>
クリニクラウンにとって大切なのはこどもの気持ちを理解し、誰かと関わろうとする能動性を引き出すことです。それを可能にするのが、定期的な訪問による相互の信頼です。「また来たよ!」「じゃあ、またね...」その期待感と安心感が、心の安らぐ関係性を促すことになるのです。定期的な関わりができるからこそ、会いたいと思う期待感を育てることができ、同時に一回のコンタクトで全てのことをやり切ろうと焦らずに関わることが出来ます。クリニクラウンに会っている時間だけが充実するのではなく、人と関わるコミュニケーションそのものに関心をもってもらえるような演出がクリニクラウン特有のアプローチと言えます。
Ⅳ.クリニクラウンという存在
クリニクラウンis『スーパーこども』クリニクラウンはどのような存在なのか。協会ではクリニクラウンのことを、こどもを超えたスーパーこどもであると定義しています。つまりこどもよりもこどもらしい心と発想を持ったクリニクラウンに出会うことにより、こどもは驚きや、喜びそしてコミュニケーションを共有することができるのです。
Ⅴ.クリニクラウンの効果
クリニクラウンが目指す最大の効果は、こどもが人間に対して興味を持ち、自分自身を心から愛する気持ちを持ってもらうことです。自分に関心が無いということは、自分の将来の展望が描けないということです。それは、困難な状況にあるこどものモチベーションの低下を引き起こします。クリニクラウンはこどもが本来もっている生きる力を高める効果があります。
<療育環境の改善>
クリニクラウンが関わるのは、こどもだけではなく、医療スタッフや付き添いのご家族、清掃スタッフなど、病棟にいるすべての人々です。これは病院という環境をつくっているのが病棟にある設備や医療機器だけでなく、そこにいる人の存在が大きく影響しているという考えからきています。クリニクラウンは、様々な人との関わりを通じて、病棟内の人間関係や固定化した価値観をかき混ぜ、空気を動かします。そこにいるいろいろな立場の人がクリニクラウンと関わることによって「自然と笑顔になっている自分に気づいた」、クリニクラウンと踊るドクターを見て、「先生の違う一面が垣間見えた」など、その人自身がもっている自然体の表情が現れます。それは、緊張状態にあるこどもにもいえることで、他者との関係性が取りにくいと思われていたこどもがクリニクラウンと無邪気に遊んでいる様子を周りの大人が見て、あらためてその子が本来もっているこどもらしい表情を再認識するということもよく起こります。
人はそれぞれ多様な性格や表情をもっているものであり、意外な一面が見えることで、その人への見方も変わります。相手に対しての見方が変わると、関わりにも変化が生じ、病棟の空気が和らぎ、寛容な雰囲気を持つ場に変化していきます。このことが成長過程にあるこどもに、大人の目を気にして我慢するといったことをさせず、自己の確立を促すことにつながります。つまり病棟という空間にいる人同士をつなぐきっかけをクリニクラウンは創り、やがては療育環境の改善へとつながっていきます。
<逆転の発想>
クリニクラウンならではの効果として、逆転の発想があります。たとえば、病室に入りたいのにドアの開け方がわからず、押したり引いたりドアをたたいたりしているクリニクラウンを見て、こどもがベッドから降りてきて「そんなこともわからないの?」とドアを開けてくれたりします。長期入院しているこどもたちは、治療を受ける過程の中で、大人の意と反してケアを受けるプロ化していきます。これは適応力が高いこどもの特性の一つともいえますが、受身でいることが当たり前になってしまうと、こどもの成長に悪い影響を与えかねません。
ケアを受けることに慣れているこどもたちが逆にクリニクラウンの世話を焼き、自分の存在感を再発見することも逆転の発想を大切にするクリニクラウンの特長ともいえます。いつも教えられる立場のこどもたちがクリニクラウンに様々なことを教えたり、逆にドクターにクリニクラウンがコミカルな挨拶の仕方を教えたり、一般的に決めつけられた役割や立場を自由自在に変えることができるのがクリニクラウンです。病室にあった何の変哲もない日用品が太鼓やピアノに変わったり、ベッドを隔てているカーテンとダンスを踊ってみたりしながら、病院生活そのものに自由な発想やアイディアを提示し、新しいものの見方を伝えています。言い換えればこの状況をさかさまにすることが道化師本来の役目であり、入院しているこどもにとっては悲劇を喜劇に変える、あるいはネガティブをポジティブに転換するクリニクラウン最大の効果でもあるのです。
Ⅵ.クリニクラウンの基本スタンス
クリ二クラウンは訪問する前に医療スタッフとカンファレンスを行い、病棟の状況や検査、処置など必要最低限の情報を得てから病棟に行きます。クリ二クラウンは情報を得ても、こどもの「病気」の部分ではなく、こどもらしい側面と関わります。こどもたちにとってクリ二クラウンは安心して遊べる相手であり、主導権はこどもたち。入院中であっても安心してこどもらしさを発揮してもらいたい。こころの繋がりを築き、今、そこにいるこどもの瞬間と存在を大切にし、病気や、病院にいることを忘れさせるような時間を過ごすことを大切にしています。
病院という環境では治療が優先で、時にこどものQOLや情緒、感情の発達が後回しになってしまうことがあります。病院で生活するこどもたちのまわりは大人、そして指示を出す存在ばかりです。クリ二クラウンは、こどもたちが病院で関わる誰とも違います。医療関係者でも教育関係者、家族でもありません。スタッフが補えきれない部分をクリ二クラウンは病院、治療のルールに縛られない存在としてサポートしているのです。
クリニクラウンの鉄則!
クリニクラウンはこどもの症状や病状にクローズアップするのではなく、こども自身の存在と瞬間にフォーカスする。
Ⅶ.活動実績の報告
2007年度のクリニクラウン病院派遣について
前年度に引き続き、関西は大阪府立母子保健総合医療センター、兵庫県立こども病院、近畿大学医学部附属病院。関東は日本大学医学部附属板橋病院、東京慈恵会医科大学附属病院へ派遣を行う。新規派遣先として、4月より京都府立医科大学附属病院(月2回)、8月より茨城県立こども病院(月1回)が加わった。1月より千葉県こども病院(月1回)へも派遣が始まる。2007年度は関西4病院、関東4病院の計8病院で派遣を行った。
(2008年度に入ってからは、新たに大阪大学医学部附属病院、岡山大学医学部附属病院、静岡県立こども病院、大阪市立総合医療センターなどが加わっている)
実際の訪問の様子
クリニクラウンの病棟訪問は、プレイルームやロビーにこどもたちを集めて、演技を披露をするのではなく、一人ひとりの部屋を個別に訪ね、こどもや家族と直接、遊んだり、対話をする。訪問時間は2~3時間、部屋数は10~15部屋(個室・総室を含む)。病院によっては2病棟を訪問する。1人のこどもに関わる時間は、様子や状況によって変化するがおよそ10~15分。
また、クリニクラウンはこどもだけなく、保護者や医療スタッフとも積極的にコミュニケーションを図る。病棟で出会うすべての人に関わり、その場に集う人とひとをつなぐ役割がある。1回の訪問でクリニクラウンが関わる人の数は、およそ40~60人にのぼる。
訪問病棟の特徴
クリニクラウンが訪問する病棟は、小児専門病院の血液疾患病棟や大学病院の小児病棟などである。現在では、ICUやNICUなどの訪問も増えている。特にNICUでは、外部からの訪問者がまれであるため、こどもたちのアクティブな反応を引き出すという面だけでなく、付き添いの保護者に対する緊張の緩和やストレスの軽減などの効果が上がっている。医療スタッフから、「クリニクラウンが来ることによって場が和み業務に集中できた」「こどもが熱心にクリニクラウンの動きを見ていた」「見たことのなかった表情がみれた」などの声が多数寄せられるようになった。集中治療室などへの入室が可能になったのは、クリニクラウンの徹底的な衛生管理と家族への配慮、そしてクリニクラウンの役割に対する医療スタッフの理解によるものである。
2007年度の派遣をふりかえって
クリニクラウンの訪問する病棟もICUやNICUなどに広がり、医療スタッフと毎回交わすカンファレンスも単に「こどもが笑った、楽しかった」といった訪問時における感想の共有化だけでなく、クリニクラウンとこどもが接触することにより発生する具体的な効果(対人恐怖がなくなった、医療スタッフとのコミュニケーションが円滑になった)の検証といった内容へと変化してきた。このことは、入院しているこどもの気分転換や遊び役の補完といった役目から、クリニクラウンが小児病棟における療育環境向上に参画し、医療者と保護者そしてこどものストレスマネジメントに貢献するというクリニクラウンの役目や存在そのものに対する大幅な意識の転換を意味している。クリニクラウンが病棟で豊かなコミュニケーションの世界を構築することにより、安心して身を委ねることができる療養空間の醸成に寄与できることが徐々に認められてきたと考える。 (Part II に続く、10月24日掲載予定)
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日本クリニクラウン協会のホームページ http://www.cliniclowns.jp/
ここで紹介した病院での活動以外にもインターネットを活用した「インターネットクリニクラウンfor children」という事業もスタートしています。詳しくはHPでご確認ください。