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カナダのデイキャンプ

要旨:

デイキャンプは、子どもが親元を離れて過ごす体験だ。親は自分たちが与えることのできない経験をキャンプで積むこと、友人を作ること、技術を身につけること、そして自信をつけることを子どもに望んでいる。専門家が着目するキャンプの利点は、1)子どもたちが、成績のプレッシャーを感じることなく様々な活動を通して学べる、2)チームワークを育み、他人や自分自身に対して責任を持つことが教えられる、3)スタッフの監督下で子どもたちに新しいことに挑戦させられる、4)集団に属する意識や家族から離れた自分を発見する機会を子どもたちに与えられる、などがある。デイキャンプとは子どもを育てる「村」そのものなのだ。

デイキャンプ

 

デイキャンプは、子どもが親元を離れて過ごす体験だ。3歳の子どもが参加するキャンプもあるが、たいていのキャンプは6~8歳から16歳までの子どもを対象とする。キャンプは7、8月の夏休みやその他の長期休暇中に開催され、キャンプ中のプログラムはおおよそ9時半から4時半までに設定されている。デイキャンプには様々な種類があり、提供されるプログラムはキャンプごとに異なるため、費用も千差万別だ。送迎バスや食事の有無、日帰りか泊りがけのキャンプになるか、などで変わってくる。キャンプへの公的あるいは民間の資金援助額、プログラムの期間、設備、施設の広さ、指導者によるトレーニングなどの要素も親にかかる負担を大きく左右する。キャンプの期間は1週間から4週間。1週につき50~600ドルを支払う。1週間にかかる額は、例として1)バスケットボールキャンプ - 250ドル、2)グレンイーグル*ゴルフキャンプ - 300ドル、3)ヤマハ音楽キャンプ - 250ドル、4)アンジェラの乗馬体験キャンプ - 500ドル、5)オンタリオ科学館キャンプ - 325ドル、6)オシャワでの水泳・スポーツキャンプ - 130ドル、7)ハーバーフロントのサマーキャンプ - 50ドル(為替レート-1カナダドル=約102円)があげられる。訳注: * トロント郊外のゴルフコース

具体例―夏季キャンプ


ハーバーフロントコミュニティセンターは公的資金援助を受け、6~12歳の子どもを対象にキャンプを、13~16歳の少年・少女にはリーダーシップ育成キャンプを開いている。両キャンプとも4週間で費用は200ドル。保護者は子どもに弁当を持たせてキャンプに参加させる。週15ドル追加すれば、毎日一時間の延長サービスが受けられる。トロントスター紙のフレッシュエアー基金から助成金も付与されている。同キャンプを監督しているのはネダ・スキフィック(児童・青少年・成人向けプログラムマネジャー)。レクリエーションとリーダーシップ育成トレーニングの学位をブロック大学で取得している他、キャンプに関連するコースをいくつか受講した。卒業後は、移民用のプログラムに従事、その後ハーバーフロントコミュニティセンターに就職して6年になる。アシスタントの大半は、キャンプ経験が豊富な大学生である。

10~12歳の子ども達、アレックス、カイラ、リアム、ロバート、ブリアナ、レイアにキャンプでの経験を話してもらった。カイラが、センターでの一日の始まりを説明してくれた。「まずジムに行って、(年齢別の)グループごとに集まるの。」「でも誰かを叩いたりして悪いことすると、下の(年下の)グループに移らされる」とブリアナが補足。次は、センターの周りをジョギングしてから、スポーツ、工作や手芸、劇、音楽、校外学習などの活動が始まる。ロバートが一番好きなのは水泳、リアムは進んで科学館に通った。アレックスは、科学館で自転車をこいで発電し電球を点灯させたことを覚えている。ロバートは料理 (クッキーを焼いたり、ピザを作ったり) が嫌いだが、キャンプに来ている女の子たちは料理するのはとてもかっこいいことと思っていた。レイアが好きな活動は、発表会、水を一杯に入れた風船をぶつけ合うウォーターファイト、それにリバーダル牧場に行くことだ。ブリアナは両親と一緒に休暇旅行に出かけたため、最終日の見せ場で演技する姿を両親に披露できなかった。「キャンプ初日はどんな気持だったか覚えている?」と子ども達に尋ねてみた。カイラは、お母さんと離れたくなかったけれどあなたなら大丈夫と母親が言ってくれたという。ロバートは怖いわけではなかったが、キャンプを気に入るかどうかは分からなかったと言った。レイアとブリアナの2人は、キャンプなんて退屈だろうと思っていたことを認めたが、実際は違っていた。知り合いが誰もいなくても、みんなに話しかけてまわっていた少女をブリアナは覚えている。その様子を見ていたたまれない気持ちになったという。自分が怒ったときは、ある友達が手をさしのべて落着かせてくれたとブリアナ。プログラムの終わりに、カウンセラーとキャンプ参加者の電話番号が記載されたイヤーブックを受け取ったが、誰も電話をかけたりはしていないようだ。ブリアナによると、ブリアナの通う学校には多数のキャンプ仲間がいた。デイキャンプに子どもを参加させるよう日本の親たちに勧めるかと尋ねると、子どもたちはきっぱりと「もちろん、勧めます」と答えてくれた。否定的な面に目を向けさせたのはロバートだった。「カウンセラーは公平でないことがある。」それに対して、「新しいことに出会える。」「いろんなことが学べるし、新鮮な空気の中で遊べてとても楽しいよ」。「テレビを見るだけでなく、友だちもたくさん作れるよ」など、他の子どもたちは口をそろえてキャンプの魅力を語ってくれた。

キャンプの成り立ち

1800年代後半に、YMCA、ガールガイド(スカウト)、ボーイスカウト、宗教団体などのグループがカナダのオンタリオ州に滞在型キャンプを設立した。同州に広がる250,000以上の湖と深い森は、プログラムの目玉である環境理解教室、自然体験プログラム、カヌーなどに理想的な環境である。第二次世界大戦後、滞在型キャンプの施設数は大幅に増え、提供されるプログラムの種類もここ40年間で増大した。特定のスポーツ、演劇、音楽、それぞれの子どものペースに応じた勉強、などを特徴とする専門性の強いキャンプもあれば、食事や薬、障害のための補助などの要請に対応したキャンプや宗教を柱にしたキャンプもある。オンタリオ州キャンプ協会公認の夏季滞在型およびデイキャンプは300近くまで展開し(そのうちデイキャンプは87)、協会が設けた衛生、スタッフの資格保持とトレーニング経験、管理など400以上の基準を満たしている。地域が定めた衛生、監督、安全性の基準を満たしていても、同協会から認定を受けていないキャンプは数百に及ぶ。

キャンプの需要 - 統計から


働いている親は非常に高い割合で日中の児童保育施設を求めていることがオタワ州のコリン・リンドセイ研究室の統計データから明らかになった。

16歳未満の子どもを持つ二人親家庭のうち75%が両親とも働いている。(図1)


report_02_65_1.gif一番下が16歳未満の子どもを持つ、配偶者のいる女性のうち77.9%が働いている。(図2)

report_02_65_2.gif図1. 16歳未満の子どもを持つ両親のいる家庭

A 両親とも働いている
B 親のうち一人のみ働いている。もしくはどちらも働いていない。

図2. 一番下が16歳未満の子どもを持つ両親のいる家庭

C 母親が働いている
D 母親が働いていない

子どもの世話で中心的な役割を担うのはたいてい母親である。『カナダの女性』(カナダ統計局から2004年に出版された男女別報告書)によると、労働人口構成における女性の数は増えている。(労働人口とは賃金を受け取り働いている者の人口と定義)

15歳以上の女性のうち58%が労働人口に属する。1976年の42%から上昇。
女性は労働人口の47%を占める。1976年代の37%から上昇。
一人親家庭の女性のうち68%が働いている。1976年の50%未満から上昇。
一番下の子どもが3~5歳の女性のうち70%が働いている。1976年の37%から上昇。
雇用されている女性のうち37%が管理職に就いている。1987年の30%から上昇。但し、下級の管理職であることが多い。
女性労働人口の27%がパートタイムで働いている。男性の場合パートタイムで働く比率は11%。(2004年)
パートタイムで働く人の70%が女性である。この数値は70年代から変わっていない。
配偶者と同居する女性の割合が減少。一方、一人暮らしの女性が増加。カナダでは、障害を持つ人の過半数は女性である。

保護者の意見


プレイセラピストのカトリーナは、保育サービスを必要としているだけでなく、9歳の息子ジェレミー君に家庭では与えることができない野外経験をさせたいと思っている。そのためにデイキャンプに週200ドル払っている。カトリーナは特定の分野で技能を教える専門キャンプを選んだ。専門キャンプには、サーカスキャンプ、セーリングキャンプ、サッカーキャンプ、トロント島自然キャンプなどがある。息子が知らない人と交わりながら未知の状況で自信をつけ、新しい技術と知識を獲得することをカトリーナは願っている。初参加のキャンプではずっと一人でいたが、カウンセラーとも少しずつうちとけて、未知の状況も以前より進んで受け入れるようになり、恐怖や戸惑いも軽減したようだ。仲間はずれにならないようにいつも気を配ってくれるカウンセラーは自分にとって最高の親友だ、とジェレミーは語る。ジェレミーはロープ登りが一番好きだ。木の幹に生えるコケから方角を知る術や先住民の習慣を学んだという。


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アクロバットな技を披露する9歳のジェレミー



ヘアスタイリストのキャロルと電気技師の夫は、時間的制約のため自分たちでは与えられない体験を娘達にさせたいと思っている。滞在型キャンプに参加させる経済的余裕はあるのだが、娘たちと毎晩いっしょに過ごしてその日の出来事を聞きたいのだ。三人の娘(現在12歳、15歳、17歳)は最初、近くの公園で開かれた野外での遊びや物作りを教えるデイキャンプから参加し、その後、テニスや演劇に特化したキャンプに行くようになった。17歳になったエミリーは、この夏はコーヒーショップでフルタイム勤務をする身だが、以前「ビーチ地区ミュージカル・ダンス・ドラマキャンプ」(現在の費用週200ドル。2週以上参加すると割安になる。)に参加し、卒業までの2年間はシニアリーダーとして活躍した。キャンプに参加することで、娘たちが自信をつけ、別の文化を背景に育った子どもたちとも知り合えるとキャロルは確信している。

専業主婦のリサと夫のラスは、8歳の息子の願い-ロイヤルサッカーデイキャンプに参加すること -を叶えてあげた。キャンプは一週間で125ドルかかる。ジェームズには弟と妹が一人ずついるが、キャンプに参加して友達と一緒に過ごすことを望んだ。帰宅すると毎日のように、キャンプで身に着けた技術を叔母や友達たちの前で披露した。ジミー(=ジェームス)は、リーダーが自分の努力を認めてくれていることを実感していた。子どもたちが練習で上手くプレーできた時は、泳ぎに連れて行ってくれたからだ。友達と一緒ではなく一人で参加していれば、ジミーはもっと多くの子ども達と仲良くなれていたのではないかとリサは思っている。

専門家の意見


教育者・著述家のミカエル・ブランドウェインは、『オンタリオキャンプ協会2006キャンプ案内』に、キャンプ参加で得られる5つの利点を挙げている。1. キャンププログラムの特徴である、体験・発見・小グループ活動を通じて、最高の学習効果が得られる。2. 成績評価を重視する学校での重圧から解放される。キャンプでは粘り強い前向きな行動が評価されている。3. 子どもたちが将来に備えるための鍵は「チームワーク」と「責任を持って自分で問題解決する力」である。キャンプでは、協力と歩み寄りがつねに求められる状況に子どもたちはおかれ、グループの仲間にも影響を及ぼす責任を果たすことを学習する。4. キャンプは広く浅い経験を勧めている。参加者は、一つのことに専念する必要はなく、幅広い活動に気軽に参加できる。興味や関心に従って多くの機会が与えられる。5. キャンプすなわち集団生活である。キャンプ参加者は仲間はずれをせず、仲間を進んで受け入れ、一人一人の違いを尊重するよう求められているため、キャンプ内のしきたりにより忠誠心を高め、健全な関係をつくることになる。

ボブ・ディッターは、ASAによるCamp, American Camp Association Resource for Families (2006年)で述べている。「子どもは遊びながら学ぶのだ。想像することにより夢を描けるようになり、見えないものが見えるようになる。確かにキャンプは友達を作り、楽しむためのものだが、自立してコミュニティの一員になる側面も持っている。キャンプの参加者が穏やかな態度で異議を唱える方法を学び、相違点を解決して共存する術を身につけることを願う。」

刊行誌Our Kids go to Camps (オンタリオ、2006年) には、次のような意見が寄せられている。「どこかに帰属しているということで、子どもに責任感が芽生える。学校や家庭の枠の外での自分を認識することを学ぶ。子ども達は親と学校の先生以外の大人を信頼すること、お手本とすることを学習する。自分の世話は自分でするようになる。子どもは、周囲に見守られて危険なことにもチャレンジできる。大人が見守ることで行動の範囲が拡大することから、キャンプは、自立を求める8~12歳の子どもにとって最適の環境だ。また、集団への帰属意識も身に着く。」

スタッフの訓練と参加者に対するスタッフの割合


キャンプのディレクターや主催者は、過去に野外教育、体育の指導、教師の経験を積んでいるか、専門分野を持つ場合がほとんどだ。子どもの時に参加してキャンプに興味を持ち始めた人が多い。同じキャンプに何年も参加し続けるベテラン参加者、大学生や高校生には準リーダーの役目に就かせる慣わしがある。準リーダーは、キャンプの前とキャンプ開催中に養成トレーニングを受ける。オンタリオキャンプ協会は、カウンセラーと7歳以下のキャンプ参加者の比率を1:8、参加者が8~16歳ならば1:12とするように勧めている。キャンプを選ぶ際、保護者が注目すべき点は次のようなものがある。1)ディレクターの教育歴と経験 2)ディレクターの目標 3)安全対策 4)スタッフのリピート率(キャンプ内の雰囲気がわかる) 5)プログラム内容 6)参加者がプログラム内の活動選択をする機会の多寡 7)ホームシック、いじめ、障害、健康管理施設などの対応方法の説明。 「子育ては村が総掛りでするものだ」とアフリカの諺にある。つまりデイキャンプとは子どもを育てる「村」そのものだ。

参考:

www.ourkids.net

www.CampParents.org

http://statcan.ca/Daily/English/060307/d060307a.htm

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