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新しい時代に合わせたCRNの今後

要旨:

1996年CRNが登場した頃とは、「ネットワーク」という同じ言葉でも、その意味する内容は一新している。その変化の根底にある最大の要因は、科学技術の大革新である。一新された「新しい時代」の「ネットワーク」の具体的な内容とは何かを詳細に述べたうえで、21世紀を生きる子どもの研究を支援するCRNにとって、今こそ上記の「新しい時代」版の「ネットワーク」への脱皮が急務であると示唆している。

CRNが登場した頃とは,「ネットワーク」という同じ言葉でも,その意味する内容は一新している。その変化の根底にある最大の要因は,科学技術の大革新である。常に,人類は科学技術の進歩に対応したシステムを創造してきた。いわゆるイノベーションとは、「100台の馬車をつらねても鉄道にはならない」(シュンペーター)と指摘されるように、原理的転換を含まねばならない。21世紀に入ってからの10年足らずの間に、驚異的イノベーションの萌芽が登場している。シュンペーターの表現を使えば、CRNが鉄道(まさしく近代的陸上交通の最初のネットワーク)のようなイノベーションから取り残されて、罷り間違うと1,000台の馬車(確かに100台よりは高性能)づくりの方へ血道を上げ続けていく誘惑に溺れかねない。「馬車か、鉄道か」の両路線のいずれかを選択する岐路にさしかかっているのが現時点かも知れない。

では、冒頭にも述べたように、一新された「新しい時代」の「ネットワーク」の具体的な内容とは何かを以下に述べる。まず、ニューロン・ネットワークについて過去10年程の脳科学の進展とくに脳活動の可視化(たとえば、fMRI、PET、光卜ポグラフィーなど)を活用した全く新しい実証的研究の時代を迎えた。その結果、以前のニューロン・ネットワークヘの理解の範囲を遥かに超えた、新しい研究領域への爆発的拡大が起こっている。たとえば、ニューロン・ネットワークの可塑性やニューロン新生が、新治療法(リハビリテーションなど)を含めて実用的範囲にまで影響を及ぼすに至った。脳機能イメージングと呼ばれる可視化技術の本質は、多量の測定デ-夕(数値群)をコンピュータ処理(たとえば、コンピューター・トモグラフィー略称CTなど)した上で画面表示をする一種の仮想現実感誘発用アニメーション技術にほかならない。つまり、数値群(本質的に1次元の入力情報の集合)を、コンピュータのプログラムを使って3次元の空間モデルヘ並べ替え(変換)をした上で、たとえばCTの場合はモデル中の所望の仮想的断面図(2次元)を計算上でつくり出している。その画面表示された情報は、観察者の眼底にある網膜(視神経細胞の2次元配列)を介して2次元視覚情報入力として脳内ニューロン・ネットワークヘ移されていく。通常、CT映像は立体をスライスして何枚も連続して撮ることによって、観察者が複数枚の2次元の断面図から3次元の立体像を自ら脳裏に思い浮べながら復原化する作業をしている。その結果、生きた脳をスライスする疑似体験を通じて、容易に脳内ニューロン・ネットワークを3次元的にナビゲーションできるのが現在では当り前になった。しかも、このナビゲーションは2次元画面表示から3次元立体的表現への次元数の増加すなわち次元増(余剰次元へもつながる)を伴なうばかりでなく,やがて動画(時間の次元の追加)中心の動的なネットワーク活動の表現をベースとする新しい科学的研究へと発展していく"流れ"が形成されており、前述の脳の可塑性や新生ニューロンなどダイナミックに変化する脳のイメージの取り扱いには極めてよく合致する。

加えて、脳外における情報ネットワークの発展でも、今や動画(文字や音声に加えて)が扱える水準になってきた。それを支えた通信回線の高速化や動画記録の大容量化の進歩も目覚しい。しかも、2006年にCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)の代表格であるYouTube(動画投稿可能のインターネット・サービス)の爆発的普及、2007年のiPhone(タッチパネル方式入出力をもつ多機能型携帯電話)と、相次いで21世紀型イノベーションが出現し完全に日常化されている。たとえば、iPhoneのタッチパネル表示面を指先でなぞって部分拡大(ズーム)する感触に慣れると、実はそれが余剰次元のコンパクト化のシミュレーションにほかならないことに気付くのはあと一歩である。一方、CRNは、今や生活必需品化した携帯電話がまだ本格的普及をしていなかったモバイル化以前にルーツをもつシステムである。勿論、グーグルに代表されるネット検索サービスもなく、グーグルやマイクロソフトに比べてよりオープンなビジネス・モデルも存在しなかった。いわゆるWeb2.0と呼ばれるような新潮流へ「ネットワーク」の現実の内容が切り換ったことが決定的変化である。さらに最近注目されるのは、任天堂のWiiやFitなどに代表される身体運動と連動した情報入力方式であるが、2007年に登場し忽ち世界の家庭生活の場を席巻した。最初に述べた「馬車と鉄道」の選択に即していえば、イノベーションは、結局のところいずれもニューロン・ネットワークに根ざす人類の本源的な営みによって生み出されている。21世紀を生きる子どもの研究を支援するCRNにとって、今こそ上記の「新しい時代」版の「ネットワーク」への脱皮が急務ではなかろうか。

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