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わが国の幼保の一元化における戦後過程と今後の課題について

要旨:

近年のわが国における保育制度政策が関心をもたれるようになったきっかけは、1989年度合計特殊出生率のいわゆる“1.57ショック”であった。その後、少子化対策として国を挙げてさまざまな施策が実施されてきた。本稿では少子化をむかえて子ども達の健やかな育ちを守る立場から、幼稚園が普及した大正期からの保育制度政策-特に、幼保一元化に関する歴史的変遷を理解し、今後の課題を考察することを目的とする。

近年のわが国における保育制度政策が関心をもたれるようになったきっかけは、1989年度合計特殊出生率のいわゆる"1.57ショック"であった。その後、少子化対策として国を挙げてさまざまな施策が実施されてきた。1994年の「エンゼルプラン」の策定からはじまり、04年の「子ども・子育て応援プラン」の策定まで、10年以上にわたり少子化対策が実施されてきた。同時に幼稚園・保育所等の乳幼児保育施設の見直しが行われるようになってきた。

 

その背景には、都市化、核家族化、女性の社会進出、家庭生活の多様化などがあり、待機児対策等地域の多様なニーズに十分に応える対応が重要になってきている。

 

少子化をむかえて、子ども達の健やかな育ちを守る立場から、幼稚園が普及した大正期からの保育制度政策-特に、幼保一元化に関する歴史的変遷を理解し、今後の課題を考察する事が重要であると考える。

 

I.幼保の一元化の戦後過程と現状

 

1.戦後から現在までの過程

 

戦後、保育園は、家庭育児が強調され、保育園要求が抑制される。乳幼児の原則は福祉と教育の不離一体であり、保育制度は一元化の方向へ進むべきと考えられた。また、幼稚園は、マスコミが5歳児就園の義務化の声を取り上げたことから幼稚園ブームが到来した。

 

そこで、文部省・厚生省は、幼稚園を中心に幼児教育の振興を進めることとなる。これまでどおり二元化行政を推し進める方針で、一元化論議に対する態度を示す。これを主張しつつ、保育園での幼児の保育については、「教育に関する事項を含み保育と分離することはできない」と教育的機能を認める内容であった。これにより保育園、幼稚園、それぞれの施設の普及と機能充実の歩みを加速させたと考えられる。

 

家庭対策として1980年代「老親の扶養と子どもの保育と躾」は家庭の責任であると主張し、「乳児保育は家庭で」と強調し、乳児保育の切り捨てと4、5歳児の集団保育を「時代の要請」としての「保育一元化」を強調した。結果的に幼稚園寄りの、とりわけ私立幼稚園行政依存の一元化構想が出され、保育園は幼保一元化反対という論理を強調した。また、臨調(臨時行政調査会)が保育園の抑制&保育料の値上げを主張し、その背景に保育園・幼稚園の経費比較、公費負担比較が強調され、保育園の経費や公費助成は幼稚園に比べ「高くて」「手厚すぎる」として両園を対立させる論調が見られる結果となり、経費の安い方、公費不安の少ない方に合わせるという財政効率優先の視点より、一元化論が主張されはじめた。

 

また、1990年代に入り、待機児童問題が社会問題化し、日本の保育政策は従来の保育所抑制政策では対応できなくなり、保育園活用政策への転換がはかられた。

 

1994年12月、文部・厚生・労働・建設4大臣合意で「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」が広報され、自治体による5カ年事業を柱とするエンゼルプランづくりが提唱される。計画は、入所待機児童への対応を図るために低年齢児保育や延長保育の促進、一時保育事業や子育て支援センターの拡大、保育料の軽減、放課後児童クラブの充実などであった。

 

1999年に少子化対策推進関係官僚会議が設置され、大蔵・文部・厚生・労働・建設・自治6大臣合意で「新エンゼルプラン」がまとめられる。

 

2001年4月に発足した小泉内閣では、仕事と子育ての両立支援策について「待機児童ゼロ作戦-最小コストで最良・最大のサービス」を打ち出し、地方分権改革推進会議では「幼稚園・保育園の連携・共用化」の取り組み推進を理由に「幼稚園と保育園の一元化」など制度自体の抜本的見直しに論議を広げた。

 

2.幼稚園・保育園の共用化政策

 

1996年幼稚園・保育園問題では、「少子化時代に子どもや家庭の多様なニーズに応えるために「幼稚園・保育園の連携強化およびこれからに係る施設の総合化を図り、幼稚園・保育園等施設の共用化を確立する」ことが指摘される。そして、1997年に、幼稚園教育について、幼稚園における通常の保育時間(1日4時間)を超えた「預かり保育」を、文部省は「預かり保育推進事業」として予算化し、幼稚園の「保育所化」という傾向が進む。さらに、1998年には、文部省は厚生省と共同で、幼稚園と保育園の施設の共用化について「幼稚園・保育園の合築・併設・同一施設内設置などで施設・運営を共用化する際、保育上支障のない限り、その施設および施設について相互に共用することができる」とした。

 

さらに、2001年文科省は「預かり保育」を「幼稚園における子育て支援」として位置付け、いっそうの推進を強調し、さらに「幼稚園と保育園の連携の推進」では施設の共有化を掲げた。

 

「三位一体改革」の一環として、国の保育所運営費や施設整備補助金など関係補助負担金を削減・一般財源化するという目的を達成させるために、「最低基準」を緩和し、財源をかけない保育園、幼稚園制度として一元化することで、幼保の行政のすべてを安上がりにして自治体の運用に任せていくことを画策していると考えられる。つまり、この一元化の政策の主張には、「財政効率」のみを追求し、これまで積み上げてきた「保育実践の歩み」や「子どもにとってどんな保育施設が望ましいか」といった視点はまったくみられない。このような経過のなか、総合施設の創設は、現行の保育園・幼稚園制度はとりあえずそのままで、以下の「3つの政策」目標の実現のための枠組みづくりに着手することを意味し、この点を見ずに総合施設構想を評価することができない。3つの政策 1)保育園・幼稚園の基準を比較して緩やかな水準以下で制度統一=一元化をすすめる。 2)最低基準を緩和する。 3)保育所の国庫補助負担金の廃止・一般財源化を図る。

 

一元化に隠された本当のねらいである構造改革、規制緩和政策の主張をよく見ると、一元化は規制緩和実現のための理由付けにすぎない。本当の目的は、「保育所調理室義務付けの廃止に象徴される最低基準の規制緩和」・「保育所運営費等の補助負担金の見直し・一般財源化」にある。つまり、最低基準に示されている内容について、国が財政的に担保を与えるという現行制度そのものを見直すことが必要であると強調している。「国による最低基準の義務付け」自体を自治体への規制と捉え、自治体の裁量(自己責任)で施策を行えるように、最低基準を緩和・廃止するという発想である。

 

このように、今日の政府内で進められている一元化は、最低基準や市町村の入所責任を「規制緩和」するということで、保育所制度それ自体を解体することにあるといえる。その意味では、保育園を公的責任のあいまいな幼稚園制度に一元化するというのが本音といえる。

 

総合施設設置にかかわる基本方針については、2003年末より、厚生労働省・文部科学省において議論が進められた。具体的な制度の設計を示して、厚労省現行の保育所の保育携帯や調理室等の設備の基準設定を前提にしつつ、現行の幼保の職員基準の再検討等や条件付直接入所方式の導入等を示していたが、いずれにしても、現行の保育園、幼稚園とは別に新たに総合施設を設置する必要性は見られない。

 

そして、「認定こども園法案」(正式名称「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律案」)が成立した(2006年10月施行)。

 

認定こども園は保護者の就労の有無にかかわらず、就学前の児童すべてを対象とする。3~5歳児は教育と保育が半々で、午前中は本来の幼稚園的な教育を実施する。その後、夕方までは預かり保育。0~2歳児は保育中心で、一日中保育を実施。これには未就園児の短時間保育などを含む予定だ。預かり時間も原則8時間とするという。早朝と夜間には託児サービスも実施し、就労を支援する。子育て相談や集いの場の提供など地域の子育て支援活動もおこなう。

 

認定こども園は幼稚園、保育所と別個の「第3の施設」ではない。幼稚園には保育を、保育所には教育機能を付加する。その機能に着目して、こども園として認定する。

 

認定こども園には4つの類型があるが、幼保連携型、幼稚園型、保育所型は本来の機能を残しながら、別の機能を付加する。それぞれの設置基準を満たしているので、人員、設備、校舎、園庭などは足並みがそろっている。

 

問題は地域独自型だ。地域独自型は現在の無認可保育所などが認定を受ける可能性がある。地域独自型を増やそうとして認定基準をゆるめると、ひどい設備のこども園が誕生してしまう可能性がある。とくに地価の高い都市部では、ビル内の一角で運営している無認可保育所も多い。それがそのまま、認定こども園になるのは問題が多い。

 

II.幼保一元化の課題

 

まず、総合施設化、幼保育一元化の問題を、もっと国民的関心を高めて議論し、施設を展開していくことが必要ではないのかと考える。政府が経済的効率を優先し、子どもというこれからの社会を担う存在を、保育=サービスとしてみなし、自治体任せにしているようにしか思えない。三位一体と唱えた構造改革は、保育にまで侵食し、人と人、しかも子どもが含まれるこの問題を、厚生労働省と文部科学省がそれぞれに保育所保育指針と幼稚園教育要領という、クラス運営の基準となるマニュアルが来年それぞれ改定されるのに、自治体に保育所と幼稚園の一元化、総合施設化を任せてよいのだろうか。それぞれの園はそれに対し、どのように対処していくのだろうか。

 

その中で総合施設となる「認定こども園」ができ、保護者、保育士・幼稚園教諭共々が混乱をきたしている中で、うまく機能すると思えない。

 

1日8時間の預かり時間のうち、3~5歳児に教育4時間、保育4時間を実施してくれて料金がそれほど変わらないならば、保育8時間よりも保護者はトクな気がする。認定こども園はそれぞれの類型で母体が異なり、利用料金の体系も違う。あまり格差が出ないようにする工夫も必要だ。幼稚園に通う園児の保護者に出ている就園奨励費は幼稚園型のこども園に通う人にしか出ない。保育所型のこども園は直接入所方式で、利用料も園が独自に決める。国会の法案審議でも、こまかい認定基準は明らかにならなかった。モデル事業も2005年度に30カ所弱で実施したにすぎない。新しい少子化対策として盛り込むため、拙速に進めた感は否めない。また、地域独自型の認定は慎重であるべきだ。幼稚園型や保育所型の実績を見極めてから、条件の整った無認可保育所などから限定して認定していく方がよいと考える。

 

保育がサービス化され、保護者と園によって直接契約をするという制度のなか、保育料が十分支払えない家庭の子どもはどうするのだろうか。入所したくてもできない状況は、子どもの権利条約に反しているのではないか。その改革によって推進され、各園任せの経営による保育が成立してしまった場合、保育の質は一気に低下し、子どものための福祉的機能・就学前教育がないがしろにされてしまわないかが危惧される。

 

 

参考文献
・大阪保育研究所編『「幼保一元化」と認定こども園』2006,かもがわ出版
・蒲原 基道・小田 豊・神長 美津子・篠原 孝子編著『幼稚園・保育所・認定こども園から広げる子育て支援ネットワーク』2006,東洋館出版社
・認定こども園法研究会『認定こども園法の解説―就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律』2006,中央法規出版
・発達(特集:認定こども園の可能性)第108号 2006,ミネルヴァ書房
・厚生労働問題研究会『厚生労働特集:認定こども園について平成18年8月号』2006,中央法規出版
・中山 徹・杉山 隆一・保育行財政研究会編著『幼保一元化―現状と課題』2004,自治体研究所
・鈴木祥蔵著 『「保育一元化」への提言 人権保育確立のために』2000, 明石書店
・森田明美著 『幼稚園が変わる 保育所が変わる―自治体発:地域で育てる保育一元化』2000,明石書店

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