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教育と脳-システム情報論の立場から-

要旨:

Youngのシステム・情報論の考えを利用すれば、「考える」「憶える」「まねる」など、教育に関係する多くの心の基本的なプログラムを組み合わせて出来た「学ぶ」プログラムを使って、子ども達は学んでいるのである。したがって、教育は、子ども達の「学ぶ」心のプログラムをうまく働かすようにしなければならない。子どもの人格とか能力は、最近の考えでは、遺伝子で決まるものは、約50%にしか過ぎず、約20%は胎児環境、約20%が生まれてからの生活環境、特に育児・保育・教育である。したがって、育児・保育を含めた広い意味での教育は、子どもの心の発達にとって、極めて重要である。更なる脳科学の研究が求められる。

子どもは、御存知の様に、脳を働かして学んでいる。それは極めて複雑な仕組みであるが、Youngのシステム・情報論の考えを利用すれば、比較的理解しやすく、教育問題の解決への洞察も得る事が出来る。簡単に言えば、「考える」「憶える」「まねる」など、教育に関係する多くの心の基本的なプログラムを組組み合わせて出来た「学ぶ」プログラムを使って、子ども達は学んでいると考えれば良いのである。したがって、教育は、子ども達の「学ぶ」心のプログラムをうまく働かすようにしなければならない。

 

I 脳とその働きをシステム・情報論の立場から捉えるとは

受胎が成立すると、一個の受精卵は、進化の歴史の中で獲得した遺伝子の情報に基づく指令によって、細胞が分裂と増殖を繰り返し、そして分化する事によって、脳を含めた体というシステムと、それを機能させるプログラムを自己組織化する。すなわち、自然に自分で作るのである。その結果子どもは、基本的な心と体のプログラムを、脳の中にもって生まれて来る。

心のプログラムは、大脳を働かせて、知・情・意の心の状態を作るものであり、体のプログラムは、体を働かせて、生理機能や運動機能を発揮するものである。その存在は、教育の影響のない、胎児・新生児の行動をみれば明らかである。

この考えは、人間を機械論的に見て、脳をコンピュータに対比する立場である。子ども達は生活情報によって、この脳のプログラムを働かせ、考えたり、学んだりすると共に、体も働かして生きているのである。胎児・新生児に見られる行動の、基本的なプログラムは、単一遺伝子によって決まるとは考えにくいが、限られた数の遺伝子によると言う事が出来る。

ここで言う体のシステムとは、脳を含めた体で、それを細胞・組織・臓器とを組み合わせたシステムと考えるのである。そして体は、心臓・血管などを組合せた循環器系、肺・気道・肋間筋・横隔膜などを組合せた呼吸系、骨・関節筋などを組み合わせた運動系、そして、大脳・小脳・脊髄、それから出ている末梢神経(体性神経系と自律神経系)などを組み合わせた神経系などと、色々な臓器系を組み合わせて、統合したシステムである事は、どなたも理解されよう。

この体というシステムの中心となるのは、神経系の、脳(大脳・小脳)と脊髄で、生きて行く為に、体を構成する全ての機能系を支配する体のプログラムと共に、社会を作り、文化と共に、より良く生きて行くための知・情・意の心のプログラムも、大脳皮質、特に前頭葉を中心に持っていると考えられる。

脊髄は、大脳の一部で、脊椎の中を長く伸びているものであり、身体各部の感覚器(目・耳・鼻・舌・皮膚など)によって、情報を集めて大脳に送り、そこで処理して、指令としての情報を身体各部に送るプログラムを持っている。小脳は、体の運動を円滑に行うために、大脳と情報のやりとりをして、必要な情報を処理するプログラムを持っていて、われわれの行動、をより良いものにしている。

さて、プログラムによって働かされるのは、神経系を構成しているニューロン(神経細胞)のネットワークであって、ニューロンの突起や軸素が、シナップスを介し、他のニューロンと連絡して、立体的な網の目構造に形成されている。特に脳は、人間の全ての営みの為に、多種多様なニューロンのネットワーク・システムを組み合わせた複雑なシステムであり、それを働かすプログラムを持った、ひとつの臓器に位置付けられている。その中で軸素がのびて、体性神経の運動神経として、筋肉などに関係して体を動かすプログラム、また、自律神経も別のシステムを作り、色々な臓器も機能させる体のプログラムを持っているのである。

脳は、感覚器から情報を取り込んで伝達、さらに処理し、生きていく為に、ニューロンで情報を電気信号に変え、ニューロンのネットワークの流れの中で、その突起である樹状突起や軸系の先端まで伝えられ、シナップスを介して、次のニューロンに伝えられる。このシナップスでは、電気信号は、化学信号に変えられて、次のニューロンに伝えられるのである。したがって、情報は、ニューロンのネットワークの中を、ニューロンからニューロンへと、電気信号と化学信号と交替させ、変化しながら流れて、そのプログラムを作動させているのである。電気信号は、全てのプログラム、すなわちニューロンのネットワークシステムにおいて共通であるが、化学信号は、脳のそれぞれの場に局在するプログラムによって異なる。すなわち、詳細は別に綴るが、ニューロンのネットワークシステムの課す役割によって異なる。化学信号は、アセチル、カテコールアミン(ドーパミン・ノルエピネフリン・エピネフリン)、セロトニン・GABAなどにより、プログラムの目的によって異なった化学物質で伝えられているのである。

呼吸・循環な生存に必須のプログラムは脳幹にあるが、上述の様な行動に関係する重要なプログラムの存在するところは、大脳の表面にある皮質である。皮質の構造は特殊で、「モデュラリティ」と「階層性」を示す。「モデュラリティ」とは、機能的な単位であるモデュール、コンピュータのプログラムの構成部品(小さなプログラム)に対応する様なものであるが、脳組織では、コラム(径0.5mmの皮質を構成する円堆構造)に当ると考えられる。

コラムが集まって、夫々の機能を分担する大脳皮質の領野ができ、領野が集まって、前頭葉・後頭葉などの、4つの脳葉が出来て、色々な働きを分担している。しかし、大脳の脳葉や領野が、それぞれの機能を分担すると言っても、それが機能するには、脳全体のサポートが必要である。

プログラムについていえば、コラムには夫々基本的なニューロンのネットワークとプログラムがあり、領野に組み合わされると、そこにあるネットワークとプログラムも組み合わされ、脳葉になると、同じように更に大きく組合されると考えれば良い、と言える。

その結果、例えば、前頭葉には、感覚や記憶をもとに行動を組立てるプログラムが存在する。頭頂葉は体性感覚と触覚と運動による空間的な視覚の情報処理に関係するプログラムがあり、側頭葉は聴覚と形態的な視覚情報(色や形)の処理と記憶に関係するプログラムがある。また、後頭葉は視覚情報処理に関係するプログラムがあるなどが代表である。

どの脳葉にも、生後よく発達する連合野がある。すなわち、育てられる事により、遺伝的に作られる基本的なニューロンのネットワークとそのプログラムを組み合わせたり、さらに、その組み合わせをスクラプ・アンド・ビルトしたりして、生後の生活に対応する事が出来るように、複雑なニューロンのネットワークとそのプログラムを作るのである。すなわち、必要な情報の連合、記憶を引き出したり、感覚と運動を統合するなどのプログラムを作る事によって、連合野は、高次の脳機能に関係しているのである。具体的に言えば、そこのプログラムで、視覚・聴覚、さらには觸覚などから取り込んだ運動や体徃感覚(触覚と深部感覚)などの情報を処理して、行動を起こさせているのである。

前頭葉の連合野は、特に重要で、ここに知性の心のニューロンのネットワークとそのプログラムがあると考えられている。また、本能や情動などの心のネットワークとプログラムは、ある意味、根源的なもので、大脳辺縁系・視床下部系にある。また、何々したいという様な意欲の心のプログラムは後述するように、リウォーディングシステムと関係して組織化されたもので、この脳底部にあるのである。

爾後、プログラムの組み合わせを論する場合があるが、その基盤にはニューロンのネットワークの組み合わせがあると理解して頂きたい。

少し具体的に考えてみよう。胎児が手足を動かすのは、手足がシステムとして形成されると、その体のプログラムは脳の運動野と脊椎に形成されて、何等かの刺激で、それが働いて反射的に動かすのである。しかし、生まれてから、自分の意志によって、手足を動かすのは、連合野が発達して、第一次感覚野、運動野など皮質にある色々なプログラム、さらには、知性や意欲のプログラムともリンクして、生後、成長・発達と共に出来た複雑なプログラムの支配で作動するからである。

その代表は、胎児期から見られるステッピング反射の発達を見れば明らかである。この反射は、新生児を支えて足先を固い板に軽く当てると出現して、下肢を歩く様に動かす。したがって、歩くプログラムが存在するといえよう。この反射は、胎児期すでに何等かの刺激で反射的に現れるが、脳に続く背髄にあるプログラムで行われている。しかし、ステッピング反射は生後間もなく消える。大脳のプログラムからの抑制によって、プログラムが止まるからである。恐らく、3次元の空間知機能や体制感覚のプログラムが充分に機能していないからである。

1年過ぎて、子どもが成長・発達し、3次元の空間認知ができ、自らの体重を支える事が可能になり、筋肉や関節の体性感覚が発達すると共に、大脳前頭葉の皮質にある知性のプログラムなどのコントロールも関係して、大脳皮質にある、運動の歩くプログラムを使い、自分の意志でトコトコと歩く様になるのである。そうなる為には、前頭葉や側頭葉の連合野の発達が必要なのである。

その子どもが、保育園・幼稚園に行って、スキップしたり、ダンスするのは、前頭葉を中心として、色々な関係する連合野の発達により、組織化された脳の心のプログラム、すなわち高度の精神機能、「考える」「まねる」「憶える」などの「学ぶ」プログラムを使って可能になるのである。すなわち、外の情報により、ステッピング反射のプログラムを中心にいくつかのプログラムを組み合わせたり、変更したりして出来たプログラムで行う様になるのである。

また、胎児の吸啜も、正に体のプログラムの一つであり、反射的・突発的、さらに自動的に発現するが、生後、乳児が母親の乳房を求めて行う吸啜は、大脳皮質、特に知性や意欲のプログラムを中心に、関係する運動野のプログラムと組み合わされる事によってコントロールされて作動しているのである。

精神・心理機能に関係する心のプログラムも同じと考えられる。少なくとも筆者には、認知心理学の示すように、皮質構造のモデュラリティに対応して、心のモデュール(機能単位)があると言える。胎児・新生児の心は、心のモジュールの夫々の発現と考えられる。心のモジュールとは、われわれの心の機能を構成している心の機能単位で、それを作り出すニューロンのシステムを働かせる心の基本的なプログラムがあると考えるのである。

われわれの持っているような、胎児・新生児期以後の心は、それが組み合わされて作動し、われわれが体験するような心が現れているのである。心の基本的なプログラムも、遺伝子によって決まっているもので、それが生後に育てられる中で、より複雑な心に対応する、心のプログラムが組織化され、知性のプログラムなどのコントロールに入ると考えられるのである。

例えば、胎児の顔がニンマリと微笑する事がある。それは、胎児期にすでに、「うれしい」とか「楽しい」とかの、心のプログラムと、これに対応する表情筋のプログラムが組合わされて、セットとして存在する事を意味しよう。生後、赤ちゃんが母親にあやされて笑うとか、父親の高い高いで笑うのは、前頭葉を中心とする知性のプログラムとリンクして、複雑なプログラムが構成され、それによってコントロールされて笑うのである。さらに、心が発達して、学童が漫画で笑う、大学生や社会人が落語で笑う様になるのも、胎児期の微笑のプログラムが、同じように、さらに高度な精神機能のプログラムとリンクして、より複雑な、高度な心のプログラムが組織化されていて、それによって、胎児の微笑のプログラムが作動して笑うのである。

さらには、乳幼児期の「基本的信頼」"basic trust"の形成、あるいは、3、4歳になって、他人の行動を見て、その人の心を理解する「心の理論」 "theory of mind"の確立は、優しい子育てによって、胎児期・新生児期の基本的な心のプログラムが、お互いに組み合わされ、複雑な高度な情神とリンクすると共に、他の心のプログラムとも組織化されて、コントロールされるようになった結果と理解出来よう。
このような心の発達は、胎児期・乳幼児期の育つ姿で見ると、大脳皮質に分散システムとしてバラバラにある、心と体のプログラムが連合野の発達と共に、大脳皮質、さらには、前頭前野の知性のプログラムの支配下に入り、集中システムになると理解される。この様な考え方は、脳の可塑性、組織構造の変化によっても支持されよう。

II 進化論的に見た脳

脳の機能を進化論的に見る事は、個体発生は系統発生を繰り返すという考えからみて、理論的にも重要である。すなわち、胎児期・乳幼児期の脳発達は、脊椎動物、特に人間に見られる脳の進化の流れを追っている事になるのである。

脳の進化は、脊椎動物になって、呼吸・循環・消化吸収の「生きる」ためだけの旧脳から始まった。旧脳は、現在の脳幹に当る。それに、自らを守り、生存を確かなものにするため、たくましく生きるための本能や、情動の心のプログラムを持つ古い脳が、旧脳を覆うように進化した。すなわち、現在の大脳辺縁系・視床下部系である。そして「文化を創造し、環境に適応して、より良く、しかも、うまく生きるため」の新しい脳が、更にそれをカバーするように進化したのである。それが、大脳皮質、特に前頭葉である。

上述の、心の発達を、基本的な心と体のプログラムを組み合わせるプロセスとする考えは、この様な進化の過程を追っているのである。胎児・新生児に見られる、基本的な体のプログラムは、第一次運動野にあり、基本的な心のプログラムは、第一次感覚野・視覚野・聴覚野と共にある夫々の連合野にも、高度の精神機能に関係する基本的な心のプログラムがあると考えられる。それらは、遺伝子で決まる心と体の基本的なプログラムであって、育てられる中で、お互いに組み合わされて、大脳皮質のコントロールに入る。特に前頭前野に存在する知性のプログラムは、これらの組み合わされたプログラムを支配し、うまく作動させる事によって、文化創造の原動力が生まれるのである。


III 育児・保育・教育によって心の基本的なプログラムは組合される

胎児や新生児の持っている、生まれながらの基本的な心と体のプログラムを、連合野を発達させ、知性による集中システムにするのは、育児・保育・教育である。この教え育てる人間の営みの中で、色々な情報によって、大脳皮質に散在する基本的なプログラムは、活性化される中で組み合わされ、組織化される。その組織化された色々な複雑なプログラムによって、子どもは、その後の複雑な生活環境に対応が可能になるのである。

すなわち、育児・保育・教育が、分散システムとしてバラバラにある生まれながらの基本的なプログラムを、中枢性の集中システムとして、大脳皮質、すなわち、各葉の連合野、さらに前頭連合野の知性のプログラムにコントロールされる様になり、いかなる事態にも対応出来る複雑なプログラムになると言えるのである。このプロセスの中で、心と体のプログラムがお互いに相互作用している事も、忘れてはならない。

プログラムを働かせる情報は、「理性の情報」"logical information"と「感性の情報」 "sensitive information"に分けられるが、乳幼児期に起こる分散システムから中枢性の集中システムへの組織化には、「感性の情報」が重要であり、優しい育児・保育・教育によって行なわれると考えられる。学童期に入っての学校教育では、中枢性の集中システムになったプログラムを働かせる事になるので、「理性の情報」が重要となる。勿論、感性の情報と理性の情報とは表裏の関係にあり、前者は後者の機能を強化する事も忘れてはならない。この考えは、脳の進化からも支持されよう。

基本的なプログラムの組織化という考え方は、利根川らの(1987年・ノーベル医学賞)抗体産成に関わる免疫理論、さらには沢口・久保田(1986)の脳進化のコラム多重階層システム化仮説とも合い通じるものがある。上述の様に、大脳皮質のコラムには、モジュールとして、ニューロンのネットワークシステムと共に、それを働かせるプログラムもあるが、文化を含めた生存競争の陶汰圧によって、重層化、階層化して進化したと考える。上述の様に、系統発生は個体発生を繰り返すとすれば、プログラムの組み合わせによる集中システムへの組織化は、コラムの重層化・階層化により多重階層システムになることを意味しよう。これは、脳組織学的にもシナップ数の変動や髄鞘化の進展でも示されていると考えられるのである。

幼児期に続く、学校教育では、高度な精神機能(考える・まねる・憶える・信ずる、さらに学ぶなど)のプログラムにより、教育の場で受ける情報、特に「理性の情報」中心に行われる。その時には、乳幼児期に中枢性に組織化された集中システムとしてのプログラムを働かせ、さらに、より良くしていくと考えられるのである。

教育では、学習意欲も考えなければならない。それを、脳科学の立場で考えれば、学習の場において、どのように学ぶ楽しみを求める心のプログラムを働かせるかを考えなければならない。それは前に述べた、リウォーディング・システムである。

細い電極をネズミの脳のある部分に刺し入れて、レバーを押せば弱い電流が流れるようにすると、ネズミはレバーを押す事を直ちに学び、押し続ける様になる。脳のある場所には、自己刺激によって、快楽などに関係する物質を出す場所、快楽中枢があるのである。リウォーディング・システムは、それを中心とする神経細胞のネットワークで、それを働かすのは意欲のプログラムである。それが柱となって、教育に関係するいろいろな心と体のプログラムのネットワークが組み合わされて、上述の学びのプログラムが、組織化されればよい。

その組織化は、決して単純ではないが、赤ちゃんの時から楽しくあそび、学ばせる事、さらには「あそび」「学び」を融合させる事は重要であろう。さらに、学習成果を褒める事を繰り返す事もある。これにも感性の情報の意義がある。

IV 脳科学の立場からより良い教育を考えよう

脳科学から教育を考えるためにシステム・情報論を用いて、筆者は少々独断的な考えを展開した。この考えでは、教育には脳全体が関係するが、「憶える」「考える」「信ずる」「まねる」などの、高度な精神機能のプログラムが組み合わされた「学ぶ」心のプログラムが中心となって、重要な役を果している事は間違いない。

特に、「まねる」心のプログラムは、教育にとって必要である。最近、言語中枢のブローカーにあるミラーニューロンシステムのプログラムが、摸倣にとって、重要と考えられる様になった。新生児でもまねる事、また言語機能とも関係する事は、教育における「まねる」プログラムの意義は大きい。

勿論、当然の事ながら、記憶のプログラムも同じように重要である事はどなたも理解されよう。記憶にも色々あって、いづれも教育に関係するが、この問題は割愛する。さらには、「信ずる」心のプログラムの重要性は、"1+1=2"を信じられなければ、算数は成り立たない事からも明らかであろう。

このような、教育に関係する高度な精神機能の心のプログラムをうまく作動させるには、どうしたら良いのであろうか。

プログラムを働かせるのは情報であり、それは、上述のように「感性の情報」と「理性の情報」とに分けられる。これらが、お互いに表裏の関係にある事は、母親がわが子に語りかけるマザーリースでも明らかである。母親がわが子に「いい子ね」と語りかける場合、「いい子」という情報は「理性の情報」であり、その声の独特のリズム・ピッチ・抑揚などは、「感性の情報」である。したがって、教育の場における、子ども達のコミュニケーションにも、優しさに関係する感性の情報にも、充分配慮する必要がある。

教育に関係する、上述の心のプログラム全てが、教え方、あそばせ方によってフル回転すれば、子どもは「学ぶ喜び一杯」になり、「あそぶ喜び一杯」にもなって、「生きる喜び一杯」"joie de vivre"になり、教育効果は上がる。それには、子ども達の心を読みとる、"sensitivity"(感受性)と、それに対して優しくやりとりする"interaction"(相互作用)、すなわち、子ども達への優しいまなざし、優しい勇気付け、そして、子ども達とのふれ合いも必要である事は、脳科学の立場からも言えよう。

まとめ

子どもの人格とか能力は、最近の考えでは、遺伝子で決まるものは、約50%にしか過ぎないという。約20%は胎児環境であり、約20%が生まれてからの生活環境、特に育児・保育・教育であるという。残りの10%を決める仕組みは未だ明らかはでない。したがって、育児・保育を含めた広い意味での教育は、子どもの心の発達にとって、極めて重要である。更なる脳科学の研究が求められる。

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