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自閉症をテーマにした幼児向け番組「パブロ」の紹介

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以前の記事では、米国における自閉症に対するスティグマ撲滅運動として、セサミストリートの取り組みを紹介した。今回は、自閉症をテーマにしたイギリスの新しい幼児番組「パブロ(Pablo)」について述べる。パブロは、2017年よりBBC製作の幼児向けテレビネットワーク、CBeebiesにおいて放映されているが、2018年春より米国の子ども向けチャンネル(ABC Kids, Universal Kids)でも紹介されている。

パブロは自閉症をもつキャラクターを出演させた最初のアニメーション(Paper Owl Films社制作)である。その中心となったのは、「Thomas and Friends (きかんしゃトーマスとなかまたち)」の脚本家アンドリュー・ブレンナー(Andrew Brenner)である。「パブロ」の脚本を書くために、自閉症についての多くの情報を集め、当事者からも話を聞いたことが述べられている。特にキャスト(声優)たちが皆自閉症児(者)であることから、彼らからも実際の体験談などを集め、脚本に生かしている。主人公の少年パブロを演ずる11歳のジェイクはアスペルガー症候群と診断されている。この番組を通して自閉症者のものの見方の特徴や優れた点を周りの人に理解してもらいたいという願いが、インタビューの中で紹介されている(https://www.youtube.com/watch?v=i-TvtabUo1c)。

それでは、パブロの番組の中ではどのような内容が取り上げられているのだろうか。それぞれのエピソードは、自閉症である5歳児のパブロが初めての体験あるいは困難な状況に遭遇し、仲間たちの助けを得ながらそれを解決していくという筋書きになっている。テーマとなっているのは、自閉症児によく見られる日常生活上の困難や不安である。たとえば今まで自分が経験したことがない匂い、音への不安、感覚へのこだわり、コミュニケーションの困難さなどが具体的に描かれている。また自閉症児だけでなく、定型発達児にも共通する課題(例:散髪を嫌がる、偏食)のテーマも含まれている。何か問題が起きたときに、その問題に対処するために、パブロはマジッククレヨンで絵を描き、架空の動物で満たされたカラフルな「アートワールド」に入るという設定になっている。そこでは、毎回登場する6匹の動物キャラクターが、パブロの人格と自閉症の特性の一面を表している。

番組の最初と最後は、アニメーションではなくパブロと母親が人物として登場する。たとえばあるエピソードでは、パブロと母親がバス停でバスを待つが、定刻になってもバスが来ず、パブロを不安にさせるという設定であった。パブロが描く「アートワールド」の中でも、パブロとその仲間たちがバスを待つが、物知りでバスのルートや時刻表などに周知したキリンのキャラクタードレイフは、定刻通りにバスが到着しないことに対して非常に不安になる。これはパブロ自身に内在する自閉症の特徴を表現している。オランウータンのキャラクタータングはその状況に対応するために、周りの意見や様子を伺わずに独断で行動する。これもパブロの特徴の一部であると考えられる。タングはマジッククレヨンでバスを描き、運転し始める。運転に慣れていないタングのバスは、左右に揺れ、危ないだけでなく、目的地と全く異なるところへ行ってしまう。危機感を抱いたドレイフは、タングに元のバス停に戻るように指示する。そして待っていたバスがようやく到着する。その後、実写のパブロと母親のシーンに戻る。そこでもバスがやっと遅れて到着し、母親とパブロがバスに乗車し、終結する。

それでは、「パブロ」に登場する自閉症の特徴をよく表しているそれぞれの動物たちを紹介する。(実際の動物たちの映像は、こちらを参照 https://www.youtube.com/watch?v=lw3QLzTq4LMreport_02_243_01.jpg
Source: Paper Owl Films
(左からドレイフ、タング、マウス、パブロ、レン、ラマ、ノア)

マウス(ネズミ)
マウスは秩序と一貫性を好み、散らかることを嫌がる完璧主義。音や匂いにも非常に敏感で、よく両手で耳をふさいでいる。自分のことを三人称で話す。

ノアサウルスまたはノア(恐竜)
穏やかで親切なミニ恐竜。会話に苦労するが、空間やパターンの認識力、順序立て、算数などが得意。コミュニケーションにおいては、空気を読み取ったり、表情を読み取るのが苦手。

タング(オランウータン)
お茶目で元気一杯なオランウータン。ダンスが好き。周りの人への愛と優しさに満ち溢れているが、ノアと同様、空気を読み取ったり、表情を読み取るのが苦手。さらに彼自身の大袈裟な性格も手伝って、時々騒動を起こしてしまうことがある。

レン(鳥)
エネルギーにあふれているが、集中力に欠けている。羽ばたきは、不満を感じる時に気を落ち着かせ、興奮している時に快適な気持ちを増幅させるという働きをもっている。

ラマ
思慮深く、優しい動物だが、直接的な愛情表現が苦手。言葉を発するのが困難で、オウム返し(エコラリア)が多くみられる。キラキラしたボタンなど、モノの細部に興味をもっている。

ドレイフ(キリン)
頭がよく、物知り。お気に入りのフレーズは「in point of fact (実際のところ)」である。周りに説明するのが好き。いつも自信にあふれて話をするが、心の内側では不安をもち、感受性が強い。

終わりに

以前に紹介したセサミストリートでは自閉症児をもつ母親が制作に携わったように、今回の事例でもキャスト(声優)たちの全てが自閉症(児)者というのは、注目に値すると考える。自閉症児(者)が日常生活のどのような出来事に困難を感じるかについて、丁寧に描かれているため、彼らの世界観、特に感性やコミュニケーションの違いなどについて理解する手がかりを与えてくれると考える。また子どもたちになじみ深いクレヨン画をアニメーションに使用していること、中心となる登場人物が毎回同じであること、会話のテンポがゆっくりかつ明快であることを考慮すると、就学前教育の教材として、発達に即した番組であると思われる。

視聴者である子どもたちやその家族の感想や意見については、筆者の知る限りデータはまだ報告されていない。ただアメリカのABC Kidsでは、春には毎日放映されていたのが、現在は放送されていないことから、視聴者が限定されていることが推測される。Universal Kidsでも週1回の放映である。視聴者から広くフィードバックを集め、自閉症児とその家族、一般の子どもたちからどのような意見が得られるのか、分析していくことが大切であろう。そのような作業と研究の積み重ねにより、今後自閉症をテーマにした質の高いテレビ番組がますます紹介されていくことを心より願っている。


筆者プロフィール
report_porter_noriko_02.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

金沢市出身。1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、国際結婚を経て1998年に渡米。2008年にミズーリ州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。現職はワシントン州立大学人間発達学科のインストラクター。2015年より安倍フェロ-として日本における調査研究を実施。テキサス大学医学部の精神医学行動科学学部客員研究員。立命館大学の人間科学研究所客員協力研究員。
保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の子育て比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。
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