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チャイルド・ライフ・スペシャリストの今日的役割

積 かおり (中京女子大学児童学科 助手)

2003年10月31日掲載

要旨:

CLS(Child Life Specialist)は、子どもとの関わりに遊びを重要視し、遊びを媒介として子どもたちと信頼関係を築き心理社会的な面からの援助を行う。この方法は、しばしば臨床心理士などの行うプレイセラピーと混同されがちだが、CLSの行う遊びは、「対症療法」ではなく、予防的観点からの遊びの提供であり、子どもの持つ潜在的な伸びる力やレジリエンシー(resiliency:弾力性、回復力)を引き出す「治癒的遊び」である。つまり、大人が必要と判断した治療(セラピー)を目的とした遊びではなく、病院という非日常的な環境に「日常的な環境」を作り出すことが大前提で、子どもが自発的に遊ぶことに意義がある。


はじめに


昨今の医療技術のめざましい進歩は予後不良とされていた病の治療も可能にし、生存率を格段に高めてきました。しかし、躍進した医療技術による治療(cure)に比べて、患者を一人の人間として見、身体的な面だけでなく精神的な面からもサポートするトータルな「ケア」は置き去りにされてきてしまったのが現状です。

しかし、ここ数年の間に、「インフォームド・コンセント」という言葉がごく一般的に使われるようになったことからもわかるように、患者(治療を受ける側)が主体となる医療の必要性が叫ばれてきました。さらに、「病院」という場所が単に治療目的のためにだけあるのではなく、「生活の場」として捉えられるようになってきたことに伴い、QOL、いわゆる生活の質の向上にも目が向けられるようになってきました。

今回ここでは、「チャイルド・ライフ」という、北米の主な小児病院・小児科病棟で実践されている子ども支援のプログラムについて紹介します。

病院に入院している子どもは、検査や治療のために身体的苦痛や制限・我慢を強いられているだけでなく、当惑・不安・恐怖など様々な心理的混乱と向き合っています。この「負の体験」が、後に深刻な心の問題となって露呈することがあります。チャイルド・ライフ・プログラムは、子どもがこの「負の体験」と向き合い、さらに少しでもプラスの体験として乗り越え、その後の成長・発達を遂げられるように援助することを目標としています。

チャイルド・ライフ理念の根底に流れるものは、子どもにとって生活そのものである遊びを提供することによって医療現場のノーマライゼーション(常態化)を図り、子どもを一人の人間として尊重するという姿勢です。

チャイルド・ライフ・プログラムが生まれた研究背景/歴史

アメリカの病院における遊びのプログラムの始まりは、早いもので1917年にさかのぼります。しかし、「チャイルド・ライフ・プログラム」として、入院する子どもたちを心理社会的な視点から支援する活動が北米の病院で活発に始まったのは20世紀半ば、エマ・プランク(Emma Plank)、メアリー・ブルックス(Mary Brooks)らの先駆的な活動によってです。これらの活動を後押ししたのは、スピッツ(Spitz)のホスピタリズムに関する研究、ボウルビー(Bowlby)の母子分離の影響に関する研究、また、ロバートソン(Robertson)、ヴァーノン(Vernon)、プルー(Prugh)らの入院経験が子どもにもたらす影響の研究などで、いずれも医療を経験する子どもたちに心理的なケアが必要であることを示唆しています。

1967年には、現在のChild Life Councilの前身であるAssociation for the Care of Children's Healthが設立され、1970年代には、アメリカ及びカナダの小児科学会がそれぞれ、チャイルド・ライフ・プログラムが有益なプログラムであるとの声明を出しました。

1988年には、ゲイナード(Gaynard)らによって、チャイルド・ライフ・プログラム及びチャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下CLSとする)によるサポートが、手術を受けた子どもたちに良い効果をもたらしたことが、術後経過の生理的反応などによって科学的に証明されています。

プログラムの活動を担うCLSは、病院などストレスを生む場所において、発達心理・家族関係・臨床心理学などの研究と実践に基づいて、子どもとその家族を精神的な面から援助します。

CLSの資格は、チャイルド・ライフ・カウンシルの行う認定試験にパスすることによって与えられます。受験資格は、チャイルド・ライフ・プログラムを運営する上で必要不可欠な分野(子どもの発達・心理・家族関係・医学など)を10単位以上取得し、さらにCLSの認定資格を持つ者(Certified Child Life Specialist, CCLS)の下で480時間以上の実習を行うと得られます。

最近では、修士号以上を持つCLSの需要が増えてきており、より高度な専門性が求められてきている証拠と言えるでしょう。

ヨーロッパ、その他地域の取り組み

ヨーロッパでも、病院にいる子どもたちへの心理社会的ケアは充実しています。

心理面をサポートする専門家として、イギリスのホスピタル・プレイ・スペシャリスト、スウェーデンのプレイ・セラピストと呼ばれる専門家がそれぞれ、CLSと同等の役割を担って活動しています。現在イギリスでは、小児科を有する96%の病院がプレイ・スペシャリストを雇用し、その割合は子ども10~15人に一人となっています。スウェーデンでは、小児科のある病院のすべてにプレイ・セラピー科が設けられています。これは、入院する子どもに幼稚園、学童保育余暇センターと同様の活動の機会を与えることが法律によって義務付けられているからです。

ヨーロッパ全土の取り組みとして、1988年にThe European Association for Children in Hospital (EACH) という組織が設立され、現在14のヨーロッパ諸国が加盟しています。

日本での取り組み

病院にいる子どもたちの心理的ケアの重要性を指摘する声の高まりと共に、最近注目されて来たのが「医療保育士」(「病棟保育士」とも呼ばれる)で、厚生労働省は昨年春、プレイルームを設け保育士を採用した場合の診療報酬を上げるよう、保険医療制度を改正しました。

名称に「医療」とつくところから、医療行為(与薬や吸引など)を行う保育士と誤解されたり、検査時の補助など看護師のアシスタント的役割を担わされていることもあるようですが、原則的には、小児科病棟において入院加療中の子どもたちに保育を行う保育士のことを指します。病院という高度かつ専門的技術が求められる現場での保育士の資質を高めるために、1997年、保育職を中心として医師・看護師・心理士などの関連領域の専門職による全国医療保育研究会(現全国医療保育学会)も生まれました。(全国各病院の病棟保育士の活動は、雑誌「小児看護」2001年3月~2002年3月号に詳しく連載されています。)

このように、病院にいる子どもたちの心理的ケアについて、組織として問題提起や啓発に取り組む団体も出てきました。1998年には、「こどもの病院環境&プレイセラピーネットワーク」(略称: NPHC)が、医療・看護・福祉・保育・教育環境の向上、並びに上記EACHが制定した「病院のこども憲章」(EACH CHARTER )履行のための事業を行うことを目的として設立されています。

CLSの資格は、現在のところ日本で取得することは難しく、有資格者も数人という状況ですが、2000年には、日本チャイルド・ライフ研究会が組織され、チャイルド・ライフの名称も少しずつですが浸透してきているようです。

チャイルド・ライフ・スペシャリストの役割

チャイルド・ライフ・プログラムは次の二点を大きな目標としています。

(1) 医療経験に伴うストレスや不安に子どもが向き合うのを援助すること
(2) 入院中、及び退院後も視野に入れた子どもの発達を促進すること

この二つの目標は、以下の具体的方法によって実践されます。

1:発達やニーズに合った遊びやアクティビティの提供

病院が治療だけを目的とした場なのではなく、「生活の場」として捉えられるならば、子どもにとっての生活そのものである「遊びの機会」を確保することは、子どもの権利を守るための必須条件であり、病院として最低の義務であると考えます。

また単純に、病院の中で何か一つでも楽しい経験があれば、それは病院に対するプラスの記憶として残り、トラウマになりがちな「痛い」「怖い」思いばかりの「負の体験」を修正するきっかけとなるでしょう。

「遊び」は、大人と子どもにとってはその質がまったく異なり、成長・発達過程にある子どもにとっては、身体・情緒・社会性の発達を促し、自律性を養い創造性を育む上で不可欠な、まさに「仕事」なのです。

遊びやアクティビティを提供する上で、2つの大事なポイントがあります。

一つ目は、子どもたちが「安心して遊べること」です。

例えば、遊ぶ場所と時間が確保されていても、病院という場所で安全が守られていなくては元も子もありません。そして、子どもが周りの目に怯えながら遊んでいるようでは遊びのもたらす効果は半減してしまいます。アメリカの病院にあるプレイルームの入り口には、写真のようなサインが掲げてあることが多くあります。



report_02_01_1.jpgプレイルームにおいて、触診や痛みを伴う処置はもちろんのこと、簡単な処置・検査でさえも、子どもの許し無しには絶対に行ってはならないことが書かれています。

遊びのもたらす効果を最大限に生かすために、CLSはプレイルームは「遊ぶ部屋、安らぐ部屋」というルールを徹底し、「子どもが本来の姿に戻れる場所」として守ります。

二つ目は、子どもたちが「能動的に遊べること」です。

受け身でいることを強いられる病院で、子どもたちは主体性や積極性を失い自尊心を奪われていきます。そんな状況の中で、子どもが自身の選択によって遊び、その世界に没頭すること自体に癒しの効果があり、自己性を回復する一助となります。

遊びには感情表出や浄化作用としての効果もあり、その子のニーズを見極めた上で、遊びの素材や形態などを工夫することも求められます。

また、言語能力が未熟なために気持ちを言葉で言い表せない幼児などは特に「ごっこ遊び」で、抑圧された感情を吐き出すことがあります。

CLSが重視している遊びの一つにメディカルプレイ(病院ごっこ)というものがあります。人形やおもちゃの医療器具などを使って医師や看護師になりきったりするごっこ遊びです。また、病院でよく使われる消耗品(ガーゼ、アルコール綿、バンドエイドなど)を使って作品を使ったりすることも、メディカルプレイの一種です。

なぜ、入院している子どもにとって、メディカルプレイが大事なのでしょうか?

入院している子どもは、概して「される」という受け身の体験ばかりしています。「血圧を測られる」「血を採られる」「レントゲンを撮られる」「洋服を脱がされる」 ― このように「される」体験を、人形などに再現し「する」側に立つことで、子どもは自分が受けた検査や治療に対する克服感や自己の有能感を高めて自分自身を癒しているのです。また、ごっこ遊びの最中は、役割を演じることや人形を通して自分の気持ちを吐露することが多く、CLSはこの遊びを観察することによって、子どもが「された」経験に対してどのような認識を持っているか、間違った知識を持っていないか、などを知る機会となります。

このように、CLSは、子どもとの関わりに遊びを重要視し、遊びを媒介として子どもたちと信頼関係を築き心理社会的な面からの援助を行います。この方法は、しばしば臨床心理士などの行うプレイセラピーと混同されがちですが、CLSの行う遊びは、「対症療法」ではなく、予防的観点からの遊びの提供であり、子どもの持つ潜在的な伸びる力やレジリエンシー(resiliency:弾力性、回復力)を引き出す「治癒的遊び(therapeutic play)」であるのです。つまり、大人が必要と判断した治療(セラピー)を目的とした遊びではなく、病院という非日常的な環境に「日常的な環境」を作り出すことが大前提で、子どもが自発的に遊ぶことに意義があります。

2:交流、ふれあい

医師や看護師などの治療を担うスタッフは、職務上患部に目が行きがちで、検査や処置を迅速に遂行するために子どもたちとゆっくり話す時間は限られてきます。しかし、治療を担うスタッフが大部分を占める病院という場所で、病気や怪我以外の部分の自分を見てくれて、治療以外のことを話せる相手がいたらどんなに気が紛れることでしょう。

チャイルド・ライフ・プログラムの中心は、子どもが没頭できる遊びやアクティビティの提供ですが、子どもみんなが「遊びたい!」という気持ちにあふれているわけではありません。体調や気分によっては遊ぶ気が起こらない子もいますし、思春期年齢の子どもにとっては「遊ぶ」なんて子どもじみていると思うこともあります。CLSの子どもへのアプローチは、時には静かにおしゃべりすることや、手持ち無沙汰でいる子どもに簡単な作業などの"仕事"を与えたり、同年齢の子どもたちが友だちになれるように橋渡しをしたりなど、退屈さを紛らわせたり気持ちが沈まないような配慮を行ったりすることも含まれます。治療にぐったりとなっている子どもが、「ただ手を握っていてほしい」と希望することもあります。

子どもが今何を求めているかを判断し、その子にとっていかにその状況を治癒的で前向きな方向にもっていくかに、CLSの専門性が発揮されます。

3:プリパレイション

CLSの行うプリパレイションは、「心理的予防注射」とも言われ、処置や検査に関する子どもの理解を促し、必要があればコーピング(対処法)のリハーサルを指します。人形やおもちゃの器具、適切であれば本物の器具を使いながら子どもがわかるように説明します。



report_02_01_2.jpg子どもの認知発達は段階を経て成熟していくもので、特に幼児や学童年齢児は、実際に見たり触れたり匂いをかいだりすることで理解を深めるのです。口頭で十分な説明がなされたとしても子どもの理解には限界があるのです。プリパレイションは、説明を行い処置に対する同意を得る(一般的に言われるインフォームド・コンセント)という医療スタッフから患者への一方通行的な介入ではなく、その過程において、子どもや家族の疑問に応えたり、不安や疑問と向き合ったりなどして、信頼関係を強化するように努力するプロセスであります。

日本でも、術前オリエンテーションとして、手術を控えた子どもと家族に紙芝居を見せながら麻酔導入マスクのことや、手術の前は飲食禁止であることを説明したりする病院が増えてきました。このように、子どもにとって親しみやすいツールを使いながら理解を促すことは、プリパレイションへの第一歩と言えるでしょう。

CLSが対応するプリパレイションというのは、広い意味で「心の準備をする」ことで、検査や処置に対してだけ行われるものではなく、適応することを求められるあらゆるtransition(変化)に対して行われるべきものです。

その例の一つに、アメリカの多くの子ども病院では、「スクール・リエントリー・プログラム(school re-entry program)」というのが行われています。治療を終えた子どもが学校に復帰するまでのプロセスがスムーズにいくように、CLSが中心となって手助けするものです。

特に、長期入院の後、あるいは外見上に以前とは大きな違いがある場合などは、学校にすんなりと復帰することは子どもにとって容易ではありません。「周りのお友だちは何て言うだろう?」「自分の病気のことを上手に説明できるかな」そんな不安をたくさん抱えています。化学療法によって髪の毛が抜けていたり、車椅子が手放せなくなったりなど、学校生活をスムーズに送るためには、クラスメイトの理解と協力が不可欠ですが、何も知らされないでいては、「先生はどうして、あの子だけ"ひいき"するのだろう?」「あの子は休んでばっかりいる」と誤解を生むかもしれません。

事前に子どもと相談した上で、CLSが子どもと共に学校に赴き、クラスのみんなに知っておいてもらいたいことを話し合ったり、みんなの疑問に答えたりします。高度な医学的説明が必要な時は看護師が同行することもあります。病気を隠すのではなく、理解してもらうことが大事だと考えるからです。

4:痛みへの非薬理的援助

何をされるのか全くわからないまま処置台の上に仰向けに寝かされることが、どんなに恐ろしいことか想像できるでしょうか?処置室にはたくさんの医療器具が雑然と並べられ、鼻をつく独特の匂いが充満しています。そんな中で、子どもは3、4人の白衣を着た大人に囲まれ、処置によっては押さえ付けられることもあるのです。「何が起こるかわからない」という恐怖感、仰向けに寝かされたり抑制されることによる身体コントロール感の喪失は、実際の痛み以上の痛みとして子どもは感じます。痛みというのは、脳がどのように痛みを感じているかによって個人差があり、「痛みの感じ方」は軽減することができます。

CLSは、痛みそのものを減らす薬理的技術は備えていませんが、非薬理的技法によって「痛みの感じ方」を和らげるように援助します。そのためには、上記のプリパレイションと関連して行うのが効果的です。プリパレイションによってこれから何が起こるか予測できると共に、コーピング(対処)法を事前に練習することができるからです。子どもはこのプリパレイションのプロセスに積極的に関わることによって、驚くほど前向きに対処することができます。

痛みを和らげる援助方法としては、前向きな言葉かけ、呼吸法・イメージ法などによるリラクゼーション、注意転換法などさまざまです。風車を吹いたりシャボン玉を吹いたりは簡単に行える呼吸調整法で、これは注意を処置だけに集中させるのではなく視覚的な注意転換を促す効果もあります。また、絵本を読んだり、音楽を聴いたり、視線を捉えるものを見せたり、感触に訴えるものによって、注意転換する方法もよく使われます。痛みを伴わなくとも、暗い部屋で行われる検査に対しては、懐中電灯を照らしたり、音楽を流したりなどの工夫がなされます。年齢が高くなると、自分の好きなイメージを頭の中に描いて緊張を緩めたりする方法も可能となります。同じ3分間でも、じっと痛みに耐える3分間と、注意を反らしながら耐える3分間では、長さの感じ方、痛みの感じ方が全く違うのです。

また、子どもが処置を受ける際に保護者を処置室の外で待たせている光景をしばしば目にしますが、痛いことを乗り越える子どもの最後の拠り所として、保護者の同伴入室は治療上支障がない限り、そして子どもが望むのならば付き添いを認められるべきです。

また、言葉かけとして、「すぐ終わるから」「痛くないから」などは、子どもを励ますためについ言ってしまいがちな言葉ですが、これは実際そうでなかった場合には嘘となるので、不信感を募らせてしまい逆効果です。

5:きょうだいたち(同朋)の心理的ケア

家族の一員が入院することによって、家族ダイナミックスは否応なく変化します。それが子どもであった場合、家庭を支える親が病院に泊り込んだり、頻繁な病院訪問などで、家族の生活がその子どもを中心に回り始め、生活パターンの変化は避けられません。

入院している子どものきょうだいは、さまざまな心理的葛藤を抱えています。「一体何が起こっているのだろう」という不安に始まり、「ぼくがあんなことを言ったから、お兄ちゃんは病気になってしまった」という罪悪感、「どうして私のことはだれも気にかけてくれないの」という寂しさや嫉妬、「私にも病気がうつるかもしれない」という怖れなど、誰にも相談できずに一人悩むきょうだいも少なくありません。そのような抑圧された気持ちが、不眠やチックなどの身体症状として現れたり、イライラや甘えが極度になるなど情緒不安定になったりというかたちで現れます。

残念ながら日本では感染防止の理由から、15歳以下の面会を制限している病院が少なくありません。面会に来られないきょうだいが、病棟の入り口で一人待たされているという光景もしばしばあることです。

CLSは、どうしても「2番目」になってしまいがちなきょうだいたちへの心理的ケアも重んじています。

その一つが、「シブ・ショップ(sib shop)」というきょうだいたちのための催しです。この催しでの中心はあくまでもきょうだいたちであり、彼らが中心となってお菓子を作ったり、ゲームなどをして楽しい時間を共有し、同じ境遇に置かれた子ども同士の交流を深めることが目的です。また、日ごろは話せない思いなどを話し合ったりする機会でもあります。

また、事故などの突然の出来事によって病院に運ばれた自分のきょうだいとICUなどの衝撃の強い場所で対面するきょうだいに対して、CLSがショックを緩和するためにプリパレイションを行うこともあります。特に、外見上の大きな変化(脱毛、四肢切断、火傷、顔貌変化、昏睡状態など)がある場合のプリパレイションは非常に大切で、よく心の準備をした上で面会することで、動揺はある程度抑えることができます。

長期入院のために長くきょうだいたちと面会できない子どもとは、一緒に家族のアルバムを作ったり、映像や声を録音してテープを交換したり、手作りカードを作ったりなど、離れていても気持ちはつながっていることを実感できるアクティビティを取り入れたりします。

6:グリーフワーク(悲嘆のプロセス)の援助

死について語ることは、昔からタブーとされてきました。しかし必要以上に避けることで、死と直面した子どもは、気持ちのはけ口を見つけられず、浄化されることなく自分の中に悲しみや怒りをためこんでいってしまいます。

現在、日本の小児病院や小児科病棟では、ターミナル期にある子どもやそのきょうだいたちを援助する専門家やサポートする態勢は残念ながら全く整っていないのが現状です。

ターミナル期にある子どもと家族との関わりは非常にセンシティブな問題で、寄り添う心と共に冷静さ、さらに乗り越えられるようにサポートする高度で豊かな援助技術が要求されます。残されたきょうだいのグリーフワークを援助することは最も大切で、絵を描くこと、絵本を使って「死」について話すこと(アメリカには「死」を取り扱った絵本が多数あります)、混在する様々な感情を吐き出し整理できるように日記や手紙を書くことを奨励すること、適切であれば思い出をストレートに語ることなどで、悲しみのプロセスを援助します。大切なのは耳を傾けること、心に寄り添うこと、感情の浄化を促すことです。

また、最期の時間を家族で過ごせるような配慮はもちろんのこと、子どもの思い出の品を入れられるメモリーボックスを用意したり、希望があれば写真や手型、髪の毛を残したりするなど、専門職だからできるというのではなく、病院全体としての心配りがほしいものです。年に1回、家族や医療スタッフを招いてメモリアルデーを開催し、亡くなった子どもたちを偲ぶ機会を設けることなども、CLSが中心になって行います。

7:子ども・家族の代弁

最近日本の小児病院でも、子どもの心のケアを行う専門家として臨床心理士を配属している病院も増えて来ていますが、彼らは精神科や神経科、心療内科に所属している者が多く、子どもとの出会いは基本的に患者(多くはその親)が相談に訪れて来るか、医師の指示によって「面接」という形で始まります。この点が、子どもたちと日常的に関わるCLSと決定的に異なります。「面接」という決められた時間と場所の中での関わりでなく、活動の拠点を子どもと同じ場所にして日常的に関わることにより信頼関係を強化し、日々の観察やコミュニケーションからさまざまな情報が得られます。これは、ソーシャルワーカーにも言えることで、患者の方から相談室に出向き援助を求めるスタイルが定着している日本と違って、アメリカではソーシャルワーカーの方から心配事がないか、不安な点はないかなど積極的に働きかけます。ソーシャルワーカーもケアチームの一員として重要な役割を担っているからです。CLSは、子どもの発達の専門家として子どもの意見を代弁したり、意見を表明することをためらっている家族の声などを医療チームに届けます。

8:他職種との連携

日本は、医師がトップに立ち他職及び患者が追従するという父権主義による医療が伝統的な体制ですが、包括的なケアを提供するためには、それぞれの専門性が発揮されるチーム医療によるアプローチが不可欠です。チーム医療の体制が定着しているアメリカでは、定期的に多職種が参加するカンファレンスが開かれ、様々な視点からの意見や情報が交換されます。

子どもや家族と密に関わるCLSの視点もまた、治療を進めていく上で大事な情報源となります。日々の関わりで得られた情報は、カルテへの書き込みや会議などで他スタッフと共有されます。そして、またCLSも、必要な医学的情報を得て、子どもと関わる上で留意しなくてはならないことをチェックします。

また、院内研修として他職のスタッフや新人スタッフに対して、子どもの発達や心理学の概要、子どもとのコミュニケーションの取り方を講義したりもします。スタッフ全体が少しでも子どもにとって親しみやすい態度でケアに臨むことを目指します。 それぞれの職種の専門性が最大限に発揮され、また共通のゴールに向かって有機的に連携することで初めて包括的ケアは可能となります。

9:療養環境の整備

遊びへの援助だけでなく、プレイルームをきれいに整頓したり、おもちゃを消毒したりなど、子どもたちが気持ちよく安全に遊べるように清潔さを保ち、環境を整えることも、CLSの大事な仕事です。子どもの安全を守ることは、遊びを提供する上での大前提です。

病院という場所はそれだけで恐ろしいものです。その独特の「怖さ」を軽減し、少しでも暖かく明るい空間にするために、建築や改築の際に、CLSが子どもの視点に立って関わることも珍しい話ではありません。子ども・家族にとって真に優しい病院は、ハード面も整備されていなければならないのです。

アメリカやヨーロッパの小児病院は、ロビーで大きなマスコットが出迎えてくれたり、部屋・廊下・天井の壁には地元のアーティストによる絵が描かれていたり、明るく開放的な空間になっています。親が泊まれるためのソファベッドやシャワー、ゆっくりとコーヒーを飲めるくつろぎの場、リフレッシュできる中庭など、つらい状況に置かれているからこそ、子どもと家族を暖かく迎え入れる配慮の行き届いた空間が必要です。

日本でも、愛知県立小児保健医療総合センター、国立成育医療センター、宮城県立子ども病院など最近建てられた病院は、ハード面に子ども・家族中心医療の理念を取り入れた造りとなっています。

これからのチャイルド・ライフ

CLSは、子どもと関わるあらゆる分野で活躍しています。小児病院・小児科病棟だけにとどまらず、子どものためのホスピス(日本にはまだありません)、被虐待児のためのシェルターなどの施設、天災やテロなどによる被害地域などにおいて、また、親が病気や自殺、事故によって亡くなった子ども、年々増えている離婚に伴う家庭環境の複雑化に埋もれた子どもたちのケアなど、トラウマを生む可能性のある場所で子どもの気持ちに寄り添い、潜在的に備わった子どもの伸びようとする力、乗り越えようとする力を引き出しサポートするのがCLSです。

残念ながら、日本ではまだCLSの資格を持つ者が少なく、新しい専門職であるだけにその理念を実践する場所も確保されていないのが現状です。また医療体制や文化の違いからも、アメリカやヨーロッパのシステムをそのまま取り入れるだけが成功への鍵ではなく、一概に良いとは言えません。しかし、子どもが考えていること、感じていること、必要としていることに対して耳を傾ける「子どもの心に寄り添う」というマインドは確実に浸透していますし、そのスキルを備えた専門家への需要も確実に高まってきています。

時代の変化に伴って、子どもの置かれている環境はますます厳しく、ストレス度の高いものになっています。チャイルド・ライフの理念は、子どもケアのあらゆる環境で取り入れられていくことでしょう。


参考文献及びチャイルド・ライフに関する書籍
Gaynard, L. et al.: Psychosocial Care of Children in Hospitals - A Clinical Practice Manual -, Child Life Council, Inc., Rockville, 1990
Oremland, E.: Protecting the Emotional Development of the Ill Child, Psychosocial Press, Madison, 2000
Plank, E. N.: Working with Children in Hospitals, Press of Case Western Reserve University, Cleveland, 1971
Sourkes, B.M.: Armfuls of Time - The Psychological Experience of the Child with a Life-Threatening Illness -, University of Pittsburgh Press, Pittsburgh, 1995
Thompson, R.: Child Life in Hospitals - Theory and Practice -, Charles C Thomas Publisher, Springfield, 1981
田代順:小児がん病棟の子どもたち-医療人類学の視点から-、青弓社、2003
野村みどり編:プレイセラピー こどもの病院&教育環境 建築技術社、東京、1998
藤井あけみ:チャイルド・ライフの世界-こどもが主役の医療を求めて-、新教出版社、東京、2000
吉峯康博編:医療と子どもの人権、明石書店、東京、1998

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