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所長ブログ

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何か変だよ、日本のインクルーシブ教育(8) 悲しくなる日本の現状

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2021年2月12日掲載
ある地方紙に次のような記事がありました(*2020年9月8日付 沖縄タイムズ
小学校のクラス担任を務める女性教員が、普通学級と一緒に授業を受けていた特別支援学級の児童が騒いだ際「うるさいと思う人、邪魔だと思う人は手を挙げてください」と普通学級の児童に挙手を求めていたことが7日、分かった。手を挙げない児童に「あなたも支援学級に行きなさい」とも発言。教員の言動を受け、普通学級の児童一人が4日間、学校を休んだ。
この記事からわかることは、この教員が特別支援学級の児童の行動を単なる「邪魔」だとみなし、さらに支援学級は教師の言うことを聞かない児童がいくところだと、決め付けていることです。以前このブログで紹介した、多動傾向のある児童の親に向かって「このような子どもは他の児童の迷惑になるから支援学級に行きなさい」と言ったある校長先生と同じ考え方です。障害のあるなしにかかわらず、子どもを差別しないという「インクルーシブ教育」の基本に反するこうした考え方が、今でも残っているのだと悲しくなります。

2020年は、国連の「障害者の権利に関する条約」を批准した日本において、その精神が活かされているか国連の障害者権利委員会により審査される年(コロナのため延期)であるにもかかわらず、まだこんな心ない教員がいるのか、でもこうしたことは例外的なことであって欲しいと思いながら、この記事を読んでいました。

しかし最近になって、本ブログの読者から以下のようなメールをいただきました(個人情報を守るために一部内容を省略・変更しています。また投稿された方から許可を得ています)。

この方には難病をもつ普通学級に通う小学生のお子さんがいます。難病で手足の不自由や弱視があり、また体力が弱いのですが、身体的自立はしていて、話すこともできるので、ほぼ健常者と変わらない生活が送れることから地元の普通学級に通っています。就学前から地区の特別支援教育係に相談をしてきており、そこで支援級への入学を勧められたそうですが、支援級までの通学に困難があるために、一番近い小学校の普通学級を選び、そこに決めたそうです。ただ弱視があることなどから、教育委員会に支援員の要請やタブレット端末の使用などをお願いしたところ、以下のメールにあるような対応をされ、苦慮されてメールをくださいました。

タブレット端末を使用した学習を学校内で生かしていければと、教育委員会には支援員の要請やIPADの使用許可等をお願いしていますが、教育委員会からは「支援級を断った人に支援はできません」「◯◯ちゃん1人にだけ特別扱いはできない」「できる出来ないではなく能力で判断しているのに、能力がないのを親が認めないのはおかしい」等と言われ、全く支援がない状態が2年以上続いています。榊原先生が地方自治体の第三者委員会をされているという記事を拝見し、藁にもすがる思いでご連絡いたしました。地区の障碍(ママ)者差別解消法の相談窓口等へも連絡しましたが、「内容を確認し、本当であれば是正するよう勧告します」とのコメントだけで具体的な問題解決には至りませんでした。
同じような境遇の親仲間に話を聞くと、支援をする立場の人間から「このIQでどうして普通級にいきたいのですか?」などの発言を受け、絶望している親御さんが沢山います。どうぞお力をお貸しください。
この悲痛なメールを見て胸が痛むとともに、怒りが湧いてきます。お子さんの入学先については、保護者と教育委員会の意見が一致しない場合は、都道府県の「教育支援委員会」で審議されることになっており、このメールをくださった方のお子さんがどのような経緯で普通学級に就学されたのかは、メールからは定かではありませんが、普通学級に在籍することになったのは事実です。その上で、お子さんの障害に対して「合理的な配慮」がなされるはずですが、それを「教育委員会の意見に従わなかった」という理由で受け付けなかったというのです。これは学校側が「合理的な配慮」を正当な理由なく行わなかったことになり、子どもの基本的人権である教育を受ける権利を侵害した行為と言って良いと思います。正当な理由もなく、教育委員会の意見に従わなかったからという一種の嫌がらせ、あるいはいじめに近い文言を返していることには、開いた口が塞がりません。さらに学校からは、以前私がこのブログで述べた「〇〇ちゃんだけ特別扱いはできません」という決まり切った口上が述べられています。

こうした状況は、やはり教育行政がインクルーシブではなく、子どもを分けて教育する方が良いのだという信念に支えられているとしか説明のしようがありません。そして以前ご紹介したように、文部科学省も以下のような方針をだしてそれを認めているのです。

個々の子どもの障害の状態や教育的ニーズ、学校や地域の実情等を十分に考慮することなく、すべての子どもに対して同じ場での教育を行おうとすることは、同じ場で学ぶという意味では平等であるが、実際に学習活動に参加できていなければ、子どもには、健全な発達や適切な教育のための機会を平等に与えることにならず、そのことが、将来、その子どもが社会参加することを難しくする可能性がある。
(「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」2012年文部科学省初等中等教育分科会)

このような状態で、今年度に延期された国連の障害者権利委員会による条約批准国に対する審査で、日本はインクルーシブ教育を行なっていますと主張するつもりなのでしょうか?


参考:
*沖縄タイムズ「『邪魔だと思う人は手を挙げて』支援学級の子に不適切発言 先生怖いと休む子も」(2020年9月8日付)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/628830

*文部科学省初等中等教育分科会「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(2012年)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321669.htm
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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