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所長ブログ

Director's Blog

レジリエントな子ども

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チャイルド・リサーチ・ネットは、子どもに関する様々な課題を議論し解決法を見出してゆくことを目的とした「CRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)」という専門家グループによる活動を行っています。現在はコロナ禍のためにリアルなイベントや会合は中断していますが、いままでは年に一回一堂に会してカンファレンスを行ってきました。共通の課題についてのオンラインでの研究活動は、いまも続けています。

今年のCRNAの研究テーマは、新型コロナ時代における子どものウェル・ビーイングです。8カ国・地域(インドネシア、シンガポール、タイ、台湾、中国、日本、フィリピン、マレーシア)の子どもの専門家(保育学、発達心理学、幼児教育学、小児科学)が、コロナ禍における各国の子どもの課題(メンタルヘルス、休校、オンライン保育・授業)を探索し、それらに対する解決策を見出してゆこうというものです。

先日、各専門家から寄せられた子どもの課題に対する解決策を見出してゆく作業をする時に、子どもに期待するイメージを共有するための意見交換を行いました。議論を通じて、国ごとに分野や歴史が異なりますが、子どもへの想いはほぼ同じであることが確認され、次のような子ども像に意見がまとまりました。それは「幸福でレジリエントな子ども(Happy and Resilient Children)」です。

レジリエントということばに初めて出会う方もいると思います。日本語に訳すると心理学の領域では「精神的回復力」「立ち直り力」となります。一般的に、子どもに期待するイメージとしては「協調性がある」「独立心が高い」「共感性がある」といった特性がありますが、コロナ禍のように予期できない未来を生き抜いてゆく子どもへの期待が高まったために、このレジリエントという特性が選ばれたのだと思います。

会議の中で8カ国の専門家が「Happy and Resilient Children」に賛同を示してくれた時に、私はある写真を思い出しました。

ある写真とは、被爆後の長崎で亡くなった弟の遺骸を背負って、焼場の前に立つ少年の有名な写真です*1。この下唇をかみしめた少年の表情には、困難や不幸に耐えながらも、負けずに前に進もうとする意志(レジリエンス)が感じられます。少年の顔が伝えるメッセージには、それを見る人の文化や歴史の違いを透徹する力があることは、アウシュビッツなどの世界の悲劇の舞台を歴訪し、平和への思いを込めたエッセーを書いた以下のアメリカの作家*2の言葉にも現れています。
「この写真を見た人は、想像を超えた喪失を前にした日本人の気高さを特徴づける尊厳、克己心と意志を見出すのだと思う。私と妻はこの写真を見つめたまま長い時間立ち尽くしていた」(筆者訳)
コロナ禍に立ち向かっている私たちも、この少年の表情に現れたレジリエントな気持ちをもちたいものだと思います。


  • *1 https://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/gokaito-h19sk-shonen.html
  • *2 Thomas H. Cook, Even Darkness Sings: From Auschwitz to Hiroshima: Finding Hope in the Saddest Places on Earth. Pegasus Books, NY, 2018.
    "In this photograph, it seemed to me, one saw the dignity, stoicism, and will to go on the face of unimaginable loss that has so characterized and ennobled the Japanese people since the war. Susan and I stared at this photograph for a long time."
 
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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