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所長ブログ

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ワクチンの安全性

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年12月18日掲載
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一年間私たちを苦しめた新型コロナウイルスですが、少し希望が見えてきました。有効なワクチンが開発されてきたことです。すでにイギリスやロシアでは接種が開始され、アメリカや中国でも近日中に一般国民への接種が始まります。

ワクチンは確かに心強いニュースですが、これをお読みの方の中には、希望に胸を膨らませている方だけではなく、安全性が心配だ、という思いのある方もいると思いますので、本稿では、ワクチンの安全性について、説明したいと思います。

安全なワクチンとは何か
そもそも「安全なワクチン」とはどのようなものだとお思いでしょうか?
多くの方々が、それは「副作用がないこと」だと思っておられることでしょう。ですから新型コロナウイルスのワクチンの治験を受けた人の中に、副作用を示す人がいるという報道などを受けて、認可されたからといってすぐには接種を受けたくない、という方もおられるのではないでしょうか。マスコミに登場する専門家の中にも、有効性は分かったが安全性についてまだ確認されていないと慎重な意見を言う方が多いようです。

ワクチン接種によって起こる副作用を、「副反応」と呼んでいますが、現在世界中でその有効性と安全性が確認されて広く使われている麻疹、風疹、ポリオなどのワクチンも副反応はゼロではありません。接種部位が腫れる、リンパ節が腫れる、あるいは微熱が出るといった副反応がみられますが、その頻度は高いものの、軽度なので、それがあるからと言ってそのワクチンが安全ではないとは言えないことは、皆さんもご存知だと思います。例えば、広く乳幼児に接種されている麻疹・風疹混合ワクチンでは、37.5度から38.5度の発熱は7~10%、接種部位の腫脹に至っては20%の割合で起こっています。

では命に関わったり、後遺症が残るような重篤な副反応はどうでしょうか。例えば麻疹・風疹ワクチンでは、平成21年から25年までの間に、重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシー反応が25例、脳炎・脳症が15例報告されています。この間の接種総数は1600万件ですから、その頻度は40÷1600万で0.00025%になります。

こうした稀で重篤な副反応は、大勢の人がワクチンを受けて初めて分かるものです。現在認可された新型コロナウイルスワクチンは、すでに4万人位の人に治験として接種されており、重篤な副反応は報告されていませんが、例えば0.00025%の確率で副反応が起こると仮定すると40000x0.0000025=0.1となり、4万人に0.1人の出現率ですから、治験で接種した人のさらに10倍の人数に接種して初めて一人目の副反応が現れるのです。

現在の医学では残念ながらこうした稀で重篤な副反応を完全にゼロにすることはできません。そして麻疹・風疹混合ワクチンに見られる程度の重篤な副反応が起こるワクチンは、安全性の高いワクチンとみなされるのです。現在全世界で使われている「安全」とみなされているワクチンでさえ、稀ではあるが重篤な副反応が起こる可能性があるのです。

集団免疫とワクチン
こうした情報を皆さんにお伝えしたのは、稀な副反応を避けたいためにワクチン接種を敬遠される方が多数出てくると、パンデミックを終焉させるために必要な集団免疫を社会全体で成立させることが困難になるからです。感染性の強い麻疹、インフルエンザやポリオ、そして今回の新型コロナウイルスに対するワクチン接種の意義は、接種を受けた人を感染から守るだけではなく、社会全体に感染が蔓延するパンデミックを防ぐ、あるいはそれを終焉させるためであるということをしっかりと理解してください。

予防接種がまだなかった頃には年間に数千人(1951年には過去最多の9000人!)の子どもの命を奪っていた麻疹ですが、ワクチン接種率が98%となった現在は、死亡数は10~20人前後にまで減少しています。現在でも麻疹患者は出ていますが、98%の乳幼児が接種を受けるようになったために、集団免疫が成立しており、全国に広がることはありません。
9000人が亡くなった1951年には、届出された患者数だけでも現在の日本における新型コロナ感染者数を上回る20万人の麻疹感染者がいたのです。

集団免疫の成立によって、ワクチン未接種の免疫のない子どもも感染から守られると言うことも忘れてはなりません。

新型コロナウイルスのワクチンについても、集団免疫が成立すると言われている60%程度の人が接種によって免疫をもてば、未接種の人も守られます。新型コロナウイルスのワクチン接種には、未接種の人も含めた社会全体へのウイルスの拡散を防ぐ効果があるのです。自分は若いのでかかっても軽症だろうから、ワクチン接種は不要だと思っている方には、こうした事実を知っていただきたいと思います。軽症や無症状でも、他人に感染させる可能性はあるのです。

今後、日本でワクチン接種が開始されるまでに、イギリスやアメリカでの先行ワクチン接種を通して、重篤な副反応についての確実なデータが出てくると思います。しかしそれはすでに説明したように、「重篤な副反応ゼロ」ではなく、麻疹・風疹混合ワクチンで見られる程度の少なさで重篤な副作用が見られる可能性があること、さらにそれでもその程度なら「安全」とみなされるということなのです。4万人の治験で有効性と安全性が確認された現在わかっていることは、重篤な副反応は1/40000(=0.0025%)よりは低いだろうということだけです。

しかし、今後ワクチン接種が進んで、麻疹・風疹ワクチンに見られる程度の頻度の低さで重篤な副反応が見られた場合に、それがそのまま「ワクチンは危険だ」いうインフォデミック(情報の氾濫による社会混乱)につながることを私は医師として恐れています。
ぜひワクチンの安全性についての正しい認識をもって、冷静な判断の上でワクチン接種に臨んでいただきたいと思っています。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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