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みんなで新型コロナウイルスを乗り越えよう!

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これを読んでいる全てのみなさんが、新型コロナウイルスによる肺炎のことを心配していると思います。コロナウイルスに感染しても、大部分は軽症ないしは中等症であることは知っていても、もしかして自分は命に関わる重症の肺炎になるのではないか、と心配されていると思います。

テレビや新聞等の報道で、重症の肺炎になると人工呼吸器が必要になること、またいっぺんに大勢の重症感染者が増える「オーバーシュート」が起こると、必要な人工呼吸器が足らなくなり、集中治療を受けられずに命を落とす人が出てくることも、湖北省やイタリアでの状況からご存知だと思います。

専門家が新型コロナウイルスはきちんとした知識のもとに「正しく恐れよう」と言っていますが、多くのみなさんはなぜ新型コロナウイルスによる肺炎が重症化すると人工呼吸器が必要になるのか、ご存知ないかもしれません。ここに新型コロナウイルス肺炎でなぜ人工呼吸器が必要になるのか分かりやすくご説明いたします。

みなさんの中には、どんな病気でも重症になれば人工呼吸器が必要になると思っておられる方がいるかと思いますが、それは正しくありません。

人工呼吸器が必要になるのは、大きく分けて二つの状態です。一つは自発呼吸が困難になった状態です。自発呼吸の中枢は脳にあり、そこから出た電気的な信号が神経を伝わって呼吸筋(肋間筋と横隔膜)を収縮させて自発呼吸は起こります。あまり縁起のよい話ではありませんが、脳から出ている自発呼吸の信号が止まると、私たちは息を引き取ります。亡くなる前に一時的に人工呼吸器をつけることがあるのは、自発呼吸がなくなってしまった状態をしのぐためです。脳から信号が出ていても、肝心の筋肉が収縮しないと、やはり自発呼吸は起こりません。筋肉の病気で人工呼吸器が必要になるのはそのためです。

さて新型コロナウイルス肺炎で、人工呼吸器が必要になるのは、自発呼吸がなくなるからではありません。コロナウイルスは肺で酸素を血液の中に取り込む肺胞の細胞に感染し、吸い込んだ空気がたまるべき肺胞やその周りが体液で満たされてしまうのです。いわば溺れて水を吸い込んでしまった状態です。呼吸筋を精一杯動かして、空気を吸い込み肺胞に送ろうとしても、粘っこい体液で満たされた肺胞の中まで空気が入って行かなくなってしまうのです。これが二つ目にあたる状態です。

努力呼吸で少し肺胞の中に空気が入っても、息を吐き出すとまた肺胞は体液で満たされてしまい、血液中に酸素が入っていきません。ここで人工呼吸器が登場します。新型コロナウイルス肺炎の治療に使用する人工呼吸器は、陽圧呼吸といって、息を吐き出した後にも、肺胞に圧力(陽圧)をかけて肺胞がつぶれてしまわないようにすることができるのです。患者自身の努力呼吸と人工呼吸器による陽圧で、肺胞がつぶれない状態を保ちながら、炎症が治るのを待つことになります。

私が小児科病棟に勤務していた頃、人工呼吸器を装着していた子どもは、上記の二つの理由で人工呼吸器をつけていました。前者は、脊髄性筋萎縮症という筋力低下によって自発呼吸ができなくなった子どもでした。後者は、新型コロナウイルス感染はもちろんありませんでしたが、未熟児で肺が膨らまない新生児呼吸促迫症候群により、重症新型コロナウイルス肺炎と同じく、陽圧人工呼吸器で肺胞がつぶれないようにしていました。

テレビなどで、日本の人工呼吸器の台数ではとても足らないという意見を言っている人を見かけます。十分ではありませんが、日本全体では成人用の人工呼吸器が22,254台あり、そのうち13,437台は待機中(コロナウイルス肺炎で使用できる)であることが、日本呼吸器療法医学会と日本臨床工学技士会が今年の2月に行った緊急調査で明らかになっています。そのうち、子ども用人工呼吸器は、8,695台あるということです。

正しい知識、正確な情報を知ることで、「正しく恐れ」て感染予防に努めれば、みんなで新型コロナウイルスの脅威に打ち勝つことができるのではないでしょうか。

参考文献:日本呼吸療法医学会・人工呼吸器およびECMO 装置の取扱台数等に関する緊急調査結果
http://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/info20200306.pdf

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新型コロナウイルスに関するQ&A~小児科医榊原洋一が答える(動画)

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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