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食欲は学習するものではない

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不登校の理由は様々です。発達障害が不登校の原因になることもありますが、私の印象では、発達障害とは関係のない不登校の方が多いような気がします。

今回は、小学4年生のかわいそうな不登校の女の子について書きたいと思います。

私の診療室に入ってきたのは、大人しそうな細面の女児でした。緊張もあるのでしょうが、何か悲しげな表情が印象的でした。主訴は不登校と倦怠感(だるさ)でした。

4年生の夏休み明けから、学校に行けなくなったとのことでした。「学校は楽しい?」と聞くと「ううん」と頭を横に振ります。「勉強がいやなの?」と聞くと、また「ううん」と否定します。横から母親が「成績は悪くないんです」。

「先生が厳しいの?」と聞くと、初めて「うん」と首肯きました。そこで母親が、「教師が給食を完食しないと厳しく言うことが、不登校のきっかけです。給食の前に吐いてしまうようになりました」

この女の子は食が細く、給食を残してしまうので、担任の教師が「残さないように」と再三注意することで、だんだん登校するのが困難になってきました。不登校になったきっかけは、教師がクラス全員の前で「◯◯ちゃんが完食すればクラス全員完食になります。」と宣言したことでした。

この女の子の話を聞きながら、十数年前の同様の経験を思い出していました。その子は給食を食べるのが遅く、いつも最後になってしまうため、教師がほかの子に命じて、その子が食べているときに「××ちゃん頑張れ」と周りで応援させたのです。この子は不登校にはなりませんでしたが、ほぼ毎日給食の前に吐くようになってしまったのです。

もちろんこのような教師は例外だとは思いますし、こうした教師も熱心さが行き過ぎたのだとは思いますが、行き過ぎた食育に警鐘をならしている事例ではないでしょうか。

食欲は子ども一人ひとりの生物学的な特性であって、食事のマナーのように決して学習するものではないのです。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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