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所長ブログ

Director's Blog

ゲームで集中力が高まる?!

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2019年2月 8日掲載
ゲームといえば、子どもの前頭葉の働きを低下させるとか、ゲーム依存症のきっかけになるということで、多くの子育て中の親や、教育や発達の専門家からは忌避される存在です。前者の「ゲーム脳」理論については、現在ではその信憑性に疑問がもたれていますが、後者は世界保健機関(WHO)も正式に診断名として認定するようになってきています。依存症まで行かなくても、ゲームに費やす時間が家庭での学習時間に食い込んでいる状況からなんとか脱出したいと思っている親は多いと思います。

そんなゲームを使って、注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもの集中力を改善することができるという驚きの研究成果が、シンガポールの研究者によって発表されました。南洋理工大学のLim助教授は、集中してゲームをすることによってADHDの不注意症状を長期間にわたって軽快させることができるという実験結果を権威のある国際学術雑誌に発表しています。

では、これは我が子のゲーム依存に悩む親にとって朗報、と喜ぶのはまだ時期尚早です。Lim教授が治療に使用したゲームは、見かけは普通のゲームです。画面をみると、小鳥が森の中のルートから外れないようにコントロールするゲームであることが分かります。ところが普通の家庭用のゲームと異なり、コントローラーがありません。代わりにプレーしている子どもの前頭部に脳波の電極のついたバンドが装着され、そこからコンピューターに配線がされています。そうです、Lim先生が開発したこのゲーム機は、脳波の変化でゲームをコントロールする仕組みが組み込まれているのです。

私たちが集中する時には、脳の前頭葉の一部が特に強く活性化されます。活性化された部分の脳波は周波数が高くなります。脳波の電極をつけてゲームをスタートすると、最初のうちは思ったとおりにゲームは進行しません。ところが、いろいろな方法で意識を集中すると、小鳥がルートから外れずに歩いて行くことに子どもは自然に気がつくのです。そして、経験を積むことによって、画面の小鳥の動きがコントロールできるようになるのです。Lim先生は、このゲームを8週間にわたって24回、ADHDの診断のついている子どもに遊ばせました。ゲームなので子どもは喜んで意識を集中させて遊ぶことができるのです。

Lim先生は、ゲームを開始する前と後で、子どもの集中力の検査を行いましたが、その結果は全く予期しないものでした。なんと、ゲームを続けることによって、集中力が有意に高まったのです。さらにこの効果は一時的なものではなく、24週間経っても保たれているのです。実験を重ねたLim先生は、このゲームをADHDの治療に使えるかも知れないという発表を学会で報告し、また学術雑誌に投稿しました。

数年前の小児神経学の国際学会で、私は偶然このLim先生の発表を聞きびっくりしましたが、効果はきっと一時的なものだろうと、大して気にしませんでした。昨年東京で行われた国際学会で、さらに研究を深めたLim先生の発表に出会い、効果が持続することを知ったのです。

Lim先生のゲームによる集中力強化法が、ADHDの治療に応用できるかどうか、まだはっきりとはわかりません。ただもしかすると、将来ADHDの治療(訓練)法として臨床で広く使われるようになるかも知れません。

新しい発見は、たいてい常識では考えられないところにあるからです。


参考文献
  • Lim CG, Lee TS, Guan C, Fung DSS, Zhao Y, et al. (2012) A Brain-Computer Interface Based Attention Training Program for Treating Attention Deficit Hyperactivity Disorder. PLoS ONE 7(10): e46692. doi:10.1371/journal.pone.0046692
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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