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所長ブログ

Director's Blog

遊びとスポーツ

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2018年2月16日掲載
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2年後に東京オリンピックを控え、日本中の老若男女のスポーツへの熱気が高まっています。スポーツは、体力増強や健康増進にも役立つ活動であるだけではなく、認知能力や心理状態にも良い影響を与えることが知られています。本ブログでも、運動経験が認知テストに良い影響を与える事について取り上げたことがあります(所長ブログ:運動すると頭が良くなる!)が、確かにスポーツは観てもやっても楽しく、身体にとってもまた脳にとっても良いといういいことずくめの身体活動といえます。

学校教育の「体育」以外の身体活動にあたるのが、子どもの外遊びです。私の外来を受診されるお子さんには初診時に必ず聞くことがあります。本人の理解度や社会性を確認するための質問の一部ですが、「何の遊びが好き?」という質問です。「ゲーム」という回答も多いのですが、結構多いのが「鬼ごっこ」という回答です。単純な鬼ごっこだけではなく、そのバリエーションの「高おに」とか「色おに」と答える子もいます。単純なルールで、スリルと興奮が伴う鬼ごっこは、子どもの心を引きつけてやまない外遊びなのでしょう。私も小学生時代に、鬼ごっこのバリエーションである「水雷艦長」に夢中になっていた記憶があります。ご年配の読者にも、遊んだ記憶のある方がいるのではないでしょうか。ルールを知らない方のために簡単に説明すると、まず子どもたちは2群に分かれます。それぞれのグループに艦長役が一人、そして数名ずつが駆逐艦と水雷役になります。敵の駆逐艦に味方の艦長がタッチされると負けですが、逆に水雷は駆逐艦にタッチして駆逐艦を沈めることができる、というルールです。敵味方、そして何の役であるのか帽子をかぶったりして分かるようにして遊ぶのですが、単純な鬼ごっこと違って、仲間同士のチームワークが試されるところが面白く、興奮して遊んだ記憶があります。

こうした興奮するほどの楽しさと身体活動が伴った外遊びに比べて、体育の時間に義務としてする身体活動には必ずしも楽しさは伴いません。駆けっこが速かったり、跳び箱の高い段が飛べたり、逆上がりがうまい子どもは、自己肯定感が得られるかもしれませんが、うまくできない子どもにとってはつらい経験でしかありません。私の子どもの一人は、縄跳びがうまくできず、担任の教師から、親が一緒に練習するようにいわれ、放課後開放された校庭に出かけて一緒に練習したことがあります。うまくできない本人も、指導する私も全く楽しくなかった思い出だけが残っています。縄跳びではなく、逆上がりができない子どもには、親との練習ではなく、鉄棒の前に置いて逆上がりをしやすくする逆上がり支援ボードでの練習が待っています。逆上がりや縄跳びができなくっても一生何の損もしないのに、などという不遜な考えをもつのは私だけでしょうか。

さて、こうした子ども時代のスポーツなどの身体活動経験が、青年期以降のスポーツなどの身体活動の習慣にどのように影響するか検討したカナダでの研究があります。小学5~6年生の子どもを、スポーツクラブなどの指導者のいるスポーツ活動をしているグループ「専門的スポーツ群」と、指導者のいない雑多な身体活動をしているグループ「多種スポーツ群」に分け、5年間追跡調査を行い、どの位余暇活動としてスポーツをしているか調べたのです。その結果、予想に反して、青年期になると「多種スポーツ群」の方が「専門的スポーツ群」より10~30%、スポーツによる身体活動量が多かったのです。

専門的スポーツ群には厳しい指導があり、また一部の子どもは上達が芳しくなくドロップアウトしてしまうなどの試練があるために、青年期以降になると却ってスポーツ活動から身を引いてしまうのではないか、というのが私の推論です。やって観て楽しむアマチュアスポーツと、厳しい鍛錬と競争がつきもののアスリートの行うスポーツは、別のものなのでしょう。


参考文献
  • François Gallant, Jennifer L. O'Loughlin, Jennifer Brunet, Catherine M. Sabiston, Mathieu Bélanger. Childhood Sports Participation and Adolescent Sport Profile. Pediatrics. December 2017, VOLUME 140 / ISSUE 6.
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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