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所長ブログ

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発達障害は本当に増えているのか?

榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

2016年8月26日掲載
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発達障害に関するほとんどの書物、講演、ウェブサイトで、発達障害が近年増えていることが当然の事実として語られています。確かに、私のよく知っている障害児医療センターでも、かつては多かった脳性まひやてんかんなどの子どもの受診率が激減し、発達障害の子どもが受診の大部分を占めているといったことを聞くと、本当に増えているのかなと思います。私が細々と続けている小児神経外来でも、てんかんや脳性まひの子どもは1割以下にまで減っていますので、発達障害の受診者が増えていることは間違いありません。

それでも私の心のどこかに、本当は増えていないのではないか、というささやきが聞こえるのです。

ささやきは気まぐれではなく、それなりの根拠から生じています。

第一に、発達障害はまだ十分にその原因は分かっていないのですが、世界中の研究者が、遺伝子が関連していることをほぼ認めているという事実があります。自閉症スペクトラムや注意欠陥多動性障害では、ゲノムワイドアソシエーションスタディ(genome-wide association study: GWAS)、という大掛かりな遺伝子研究が行われています。1,000人近い、診断が確実な自閉症スペクトラムや注意欠陥多動性障害の人から遺伝子サンプル(血液、頬粘膜など)を提供してもらい、そのゲノム(遺伝子)配列を、多数の定型発達の方と比較するのです。その結果複数の候補遺伝子が見つかってきています。

人の遺伝子配列は、数十年で変化するものではありません。発達障害が遺伝子によるものだとすれば、最近になって増えるということはありえないのです。

もっとも、最近は遺伝子を構成する高分子化合物であるデオキシリボ核酸(DNA)に化学的な結合が起こることで、遺伝子自体は変化しなくても、遺伝子情報の発現(たんぱく質の合成)が変化することがわかってきており、それが発達障害増加の原因だ、といっている研究者もいるのは事実ですが・・・。

最近肥満が増えている、あるいはがんが増えているという場合には、多くは国や大きな研究機関が長年行っている疫学調査がその根拠となります。しかし発達障害については、経年的な疫学調査はまだないのです。

もう一つの根拠は、発達障害という診断名が、過剰につけられているという現状です。私の外来に、幼少時に自閉症スペクトラムという診断をうけた子どもがよく受診されます。多くは親御さんが診断に疑問をもって来られるのですが、私の外来に自閉症スペクトラムという診断に関する「セカンドオピニオン」を求めて受診される子どもの数割は、自閉症スペクトラムではなく、気質で説明できたり、発達の個人差の中に含まれる子どもたちなのです。

私の診断が甘いのかもしれませんが、言葉の遅れや集団に入りにくい、あるいはちょっとしたこだわりがあると、すぐに自閉症スペクトラムと診断名をつけてしまう専門家が、自閉症スペクトラムを含む発達障害を「増やしている」のではないかというささやきが聞こえてくるのです。

発達障害の外来受診者の増加の真の原因は、発達障害の社会的認識が増えたことと、一部は過剰診断なのではないか、というのが私の偽らざる感想です。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学副学長。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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