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所長ブログ

Director's Blog

何か変だよ、日本の教育(6) 不登校をめぐって①

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コロナ禍を契機に、一気に30万人に達した不登校児*1の言説に対し、私の中では「何か変だ」という気持ちが強くなっています。これから3回に渡って不登校にまつわる何が変なのかを書いてみたいと思います。

以前からそうした「何か変だ」感はありましたが、最近SNSで目にしたニュースの記事*2を見て、もう黙ってはいられなくなったのです。その契機となったニュース記事では、ある不登校専門の外来を開設している内科医の意見が紹介されていました。その医師は、受診した不登校を主訴とする子どもの98.5%が「何らかの精神疾患を原因としている」というのです。

45年前に逆戻り

この記事を見て、私は強いデジャビュ(既視感:どこかで見た感じ)を感じました。それは45年前、私が小児科医になった頃の感覚です。当時「不登校」は「登校拒否」あるいは「学校不安症」などと呼ばれており、れっきとした病気と考えられていたのです。英語でも学校不安症を表すスクールフォビア(school phobia)という診断名があり、その背景に父子の親子関係の問題などがあると言われていたのです。当時私の勤務していた病院では、登校拒否症の子どもを治療すべく、かなり長い間入院してもらい、心理士や小児神経専門医が病気として治療していたのです。

時は過ぎ、「登校拒否」という診断名は、実態を表していないということで使われなくなり、現在では診断名ではなく、状態を表す「不登校」という名称で呼ばれるようになりました。また背景に精神疾患がある場合も多いが、不登校になる理由には様々なものがあることが認識されるようになったのです。これは不登校を訴えて私の外来を受診する子どもを多数見た私自身の実感であり、また不登校の子どもと対面してきたフリースクールの教員などの実感とも合致したものでした。アメリカの小児科の教科書*3では、不登校は子ども全体の1~2%とかかれており、その約半数に不安障害などの精神疾患がある(子ども全体の0.5~1%)とは書かれています。しかし前述の医師は「全体の数や割合は分かりませんが、これまで私がクリニックで診療した130人の不登校児(強い行きしぶりも含む)のうち98.5%が何らかの精神疾患を原因としていました」とした上で、「不登校には多くの精神疾患が隠れており、不登校そのものを精神疾患の『症状』ととらえる視点が必要」と述べており、ほぼ全てに精神疾患があることをほのめかすようにも聞こえかねない意見には同意できません。

先日、滋賀県の不登校の子どもに関わるNPOが、不登校状態になっている多数の子どもにアンケート調査を行い、何が原因で不登校になったかを答えてもらう調査*4をしました。その結果、3割の子どもが教師との関係(先生が怖いなど)を挙げており(重複回答あり)、回答としては最も多かったのです。その中には確かに不安障害とみなすことのできる子どもも入っているとは思いますが、前述の医師の記事は、それを読んだ多くの人に「不登校は精神疾患だ」という先入観を抱かせる危険性をはらんでいると思います。



  • *1 文部科学省「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm
  • *2 日刊ゲンダイDIGITAL、「不登校は心の病気です」日本初の不登校専門クリニック院長がずばり! 治療法はあるのか? 2024年3月10日
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/336983
  • *3 Robert M. Kliegman, 2007. Nelson's Textbook of Pediatrics. 18th edition. Philadelphia, PA: Saunders.
  • *4 毎日新聞、「不登校のきっかけ、最多は「先生」 文部科学省と違う結果に」2023年11月15日

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠如多動症、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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