被害者の年齢や性別にかかわらず、性的虐待が重罪とみなされるのは、性的虐待が被害者の「人」としての尊厳を踏みにじる行為であるばかりでなく、被害者の人生全体に大きな精神的な傷跡を残すことが分かっているからです。極端な例ですが、2021年6月にアメリカでは、4人の少女に性的虐待を29回にわたって行った男性に対して275年の拘禁刑が言い渡されています*1。精神的な傷跡についても多数の追跡調査が行われており、小児期に性的虐待を受けた女性は、成人してからもうつや自殺が、虐待歴のない女性に比べて有意に増加していることが知られています*2。
男児への男性成人からの性的虐待には、女児への虐待には見られない特徴があることも分かっています。男児の性的虐待経験者は、いまだに社会の中にある偏見から、同性愛者とみなされることが怖くてカミングアウトしにくいこと分かっています。もちろん成人してから、うつをはじめとするメンタルヘルスの問題が大きく、また自殺率も高くなります*3。
性的虐待が比較的少ない日本では、こうした事実が社会的により広く認知されていません。それは、最近大きな話題になっている大きな芸能プロダクションでの多数の性的虐待への対応に見ることができます。
すでに亡くなった性的虐待の犯人の名前を冠した芸能プロダクションの責任者は、社名を変更しないと発表していますが、世界の常識に従えば重犯罪を犯した犯人の名前を社名として存続させるということは、まさに性的虐待の意味についての社会的感受性が欠如しているための行動としか言いようがありません。
今回の大量性的虐待事件は、もちろん虐待を受けた男児の人生に大きな傷跡を残していますが、さらにこうした事件が広く報道され、それを視聴した性的虐待の正確な意味を理解できないような大勢の子どもたちにも、この世界にいる大人に対する信頼感を損なう大きな負の影響を与えています。
子どものQOLや健全なメンタルヘルスの発達を願い活動している身として、今回の事件とその対応については満腔の怒りを感じます。
- *1 Oregon man gets 'unheard of' 275-year sentence for child sex crimes
https://www.foxnews.com/us/oregon-man-gets-unheard-of-275-year-sentence-for-child-sex-crimes - *2 Francesca Bentivegna, Praveetha Patalay. The impact of sexual violence in mid-adolescence on mental health: a UK population-based longitudinal study. Lancet Psychiatry 2022;9: 874-83.
https:/doi.org/10.1016/S2215-0366(22)00271-1 - *3 Reece, RM and Christian CW, Eds. Child Abuse-Medical Diagnosis & Management. American Academy of Pediatrics刊、2009, p275.