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何か(ものすごく!)変だよ、日本のインクルーシブ教育(11) 文部科学大臣の反論にため息

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前回のブログで私は、「理論的には日本のとる道は2つしかない、分離教育を改善するか、条約批准をやめて世界の中で孤立した道を歩むしかない」とちょっと啖呵を切ってみました。

甘かったです!政府にはそのどちらでもない奥の手があったのです。

国連の障害者権利委員会の監査結果を受けて文部科学大臣は、すぐに大臣会見で文科省の立場を説明しました*1

大臣は、(現行の)特別支援教育を中止することは考えていない旨の発言をし、国連の監査結果(勧告)を受け入れないことを表明しました。

監査結果を受け入れなくても罰則はありませんから、私が前回書いた甘い二者択一ではなく、勧告を受け入れずに受け流すという方針が示されたのです。しかし、日本の「特別支援教育」がインクルーシブ教育とは異なるものであるという事実への言及はありません。

もっとも新任の文科大臣が、インクルーシブ教育と日本の特別支援教育のどこが異なっているのか、本当に理解されているのか甚だ疑問です。というのも大臣が前述の発言に引き続いて、今年の4月に文科省が出した通知の撤回を求められたことに触れました。特別支援学級に在籍する児童生徒が通常の学級で学ぶ時間(交流授業)を週の半分以下にとどめるよう、文科省が求めたことを、国連の障害者権利委員会は危惧し、通知の撤回を求めた監査内容に対しても、通知はインクルーシブ教育を推進するものであり、「撤回を求められたのは大変遺憾」と反論しています。

これはインクルーシブ教育の基本を理解している国連の委員会にとっては、正に「???」な答弁です。特別支援学級の児童生徒が通常の学級で学ぶ(交流授業)は、インクルーシブ教育の骨幹であるわけですから、それを制限することがインクルーシブ教育を推進するとする見解や、「撤回を求められたのは大変遺憾」という強い反論に対して、委員会のメンバーは面食らったのではないでしょうか。

日本でのインクルーシブ教育の発展を願う私にとっては、正にため息が出るような悲惨な状況のように思えます。大臣はもともと文科省の方針の代弁者ですから、大臣個人に対しては何も感じませんが、日本のインクルーシブ教育について実際に知っている文科省のお役人は、こうした矛盾した方針を続けてゆくことに対して、内心の痛みを感じないのでしょうか?




筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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