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Koby's Note -Honorary Director's Blog

子育ての本質を考えるのに良い本が出ました。- <スケッチ「親と子の50年」>(赤ちゃんとママ社)

5月中旬、出来たてホヤホヤの<スケッチ「親と子の50年」>という本を頂いた。著者の小山敦司さんが、わざわざ私の仕事場まで持って来て下さったのである。誠実なお人柄に心を打たれた。申し訳ないことに、引っ越したばかりで、新しい場所をお教えしてなかったので、旧い所においでいただくことになってしまい、ご迷惑をおかけしてしまった。

小山さんは、育児関係者ならば、どなたも御存知と思うが、1965年に創立社員として「赤ちゃんとママ社」を立ち上げ、育児問題を追求しながら、育児雑誌の編集ひと筋に仕事をされて来た方である。1981年からは社長、2008年からは最高顧問として、「赤ちゃんとママ社」をそれこそ赤ちゃんの時から育てた方なのである。大学では哲学を勉強されたそうで、書かれた本の素晴らしさが、それで理解出来たような気がする。内容に哲学があるのである。

本書は、全2章からなり、第1章は、スケッチ「親と子の50年」として、1955年から現在までを10年毎に分けて、子育て問題の歴史的展開を述べておられる。その前の1945年から1955年までの10年間は、敗戦後の混乱として、「虚無から混乱へ」というタイトルで、戦後前史として位置づけておられる。昭和ひと桁生まれとしては共感を覚える。

それからの10年毎のタイトルも良い。豊かな社会を築く基盤作りの1960年代を「変化と構築の時代」、急速に豊かになる中で中国の文化大革命、世界の大学紛争、日本の赤軍派活動などなどが起こった1970年代を「争乱と成長と」、日本の豊かさの蔭が見えはじめた1980年代を「子どもの受難 そして再生」、社会の明るさが蔭り、政治も混乱した1990年代を「失われた10年」、最後に2000年代を「21世紀はどうなる」としている。それぞれ時代毎に、社会を鋭く見つめ、子ども問題を洞察しておられるのに感銘を受ける。

問題という日本語を英語に直すと、"problem"、"question"、"issue" になるかと思うが、小山さんの視点は、勿論、幾何の問題のような"problem"でなく、質問するような問題の"question"でもなく、論争点になる問題の"issue"なのである。時代の移り変わりによって、子育てにどんな問題が社会に現われ、学者、実践家、そしてジャーナリストが、どのように考え、どのように論じたかが述べられ、子どもを中心にみる日本現代史として大変勉強になった。

第2章は、「50年目の子ども論」として、寺山修司の「書を捨てよ、町へ出よう」という言葉から始まり、「赤ちゃんに出会う」というタイトルで、育児書のあり方についての考えを冒頭に述べておられる。つづいて、情報のあふれた現代社会で起こった、あるいは起こっている子育て問題を、23のテーマに整理しておられる。現場で起こった子育て問題をいろいろと分析しているばかりでなく、いわゆる学者や研究者といわれる立場の人々の解釈や意見も加えておられ、大変勉強になる。

それぞれのテーマのタイトルは、冒頭の「赤ちゃんに出会う」から始まって、「子どもだましのやさしさ」、「やさしさにこだわって」、「親ができること、できないこと」、「育児はなぜ難しいと考えられるのか」、「マスコミがつくり出す病気」、「母性愛神話とは」、「どこからが大人?」、「子どもにとって時間とは」、「スピードが生み出す不幸」、「暮らしの不感症」、「もうひとつの少子化要因」、「人間は脳に何を求めるのか」、「人間の脳は迷うために存在する」、「子どもの才能」、「ヘンな時代のヘンな育児」、「さまざまな倫理的尺度」、「子どもにかかってきている制度疲労」、「格差社会はこうしてできあがっていく」、「今の教育に欠けていること」、「安心と安全、その違い」、「子どもを大切にするとは」、「生きることの意味」という23項目で、小山さんの広い意味での育児哲学が書かれている。ここにあえて23項目のタイトルを列記したのは、タイトルのコピーがいずれも意味深長で、読者の関心を引くに違いないと思ったからである。全ては読んでからのお楽しみという事にしたい。

本書の中には、見開き2ページで、10人の育児学者、または研究者といっても良い先生方のコメントが入っている。巷野悟郎、高山英男、平山宗宏、原ひろ子、汐見稔幸、渡辺久子、羽室俊子、大日向雅美、小西行郎の先生方である。私も仲間に入る光栄をいただいた。しかし、正直なところ、小山さんの原稿を読んでから書かせて頂きたかった。書いた内容が、余りにも恥ずかしいからである。

頂いた直後、さっと目を通してこれを書いた。小山さんの育児哲学のあり方に、強い感銘を受けたからである。そして、早速ブログの記事としてCRNで取り上げることにした。親であれ、実践家であれ、学者・研究者であれ、子育ての本質を考えようとする人にお読みになることをおすすめする。私も、これからひとつひとつじっくり読んで勉強することにしたい。
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