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【イギリスの子育て・教育レポート】 第17回 子どもを叱るとき、イギリスの先生はどうする?

橋村 美穂子

2017年6月 9日掲載

要旨:

今回は、「イギリスの先生の叱り方」を取り上げる。昔はイギリスの学校でも先生が子どもに体罰を加えることがあったが、1986年以降、法律で禁止された。現在は、各学校が独自に規則や罰則のルールを決めている。息子の学校では、「罰則規定」のような形ではなく、授業態度や生活態度を望ましい方向に導くという観点でガイドラインが作られ、「叱り方」だけでなく、「ほめ方」も盛り込まれている。このガイドラインには「何を叱るか」、「どう叱るか」が細かく記載されている。子どもが叱られる行動は、ものを投げることや授業中のおしゃべりは比較的軽度なものとして、暴力やいじめは重大なものとして記されている。また、叱り方は口頭での「注意」から、「タイムアウト」という教室外に出される罰則まで5段階に分けられている。イギリスでは、先生の叱り方のルールが決められ、先生やスタッフ間、子どもとも共有されていること、また、叱り方のルールはサッカーのイエローカードやレッドカードの仕組みに似ていて、子どもにもわかりやすいところがよいと感じた。

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この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

子どもを叱るって難しいですよね。乳幼児は乳幼児なりの、小学生には小学生なりの難しさがあります。子どもが何歳になっても叱り方には悩むので、子育ての永遠のテーマかもしれません。

前回の第16回では「子どものしつけ」を取り上げました。保護者が子どもを「しつけからたたく」という行為を目撃したことで、ふと「イギリスの先生はどのように叱っているのだろう?」という疑問が沸き上がりました。そこで今回は、「イギリスの先生の子どもの叱り方」を取り上げます。

昔はイギリスでもステッキや棒、定規でお尻や手をたたく体罰があった

まず、イギリスの先生の叱り方の歴史や、現在の叱り方の状況を簡単に見ていきます。

「子どもをたたいてしつける」という行為に対しては、日本に比べて厳しい見方をするイギリス。実は、イギリスでも昔は先生による体罰がありました。籐製のステッキや木製の棒、定規でお尻や手をたたくのが一般的だったそうです。しかし、1986年に公立学校においては法律で体罰が禁止されました。その背景には、1980年代後半から児童虐待が大きな社会問題となったこと、さらに国連の児童権利条約などの宣言が出され、体罰廃止が国際的な動きとなったことがあると言います。しかし、一方で、保護者や先生、一般の人々の間で体罰を容認する意見も一定数存在し、その復活を望む声も依然として強いそうです (1)

「何を叱るか」、「どう叱るか」を細かく決めたマニュアルがある?!

では、現在、学校の先生はどのような形で子どもを叱るのでしょうか。イギリス政府のホームページによると、各学校が独自に規則や罰則のルールを決め、それに従って行っていると言います (2)。確認したところ、息子の学校にもありました。ただ、それは「罰則規定」のような厳しい形ではありません。授業態度・生活態度を望ましい方向に導くという観点から作られたガイドラインです。ですから、ここには「叱り方」だけでなく、「ほめ方」も盛り込まれています

このガイドラインには、「何を叱るか」「どう叱るか」が細かく記載されています。まるで、「叱り方マニュアル」のようです。具体的に記載するのは、子どもや家庭とはもちろん、先生や学校のスタッフの間でも共有するため、また公平性を保つためだと言います。

「何を叱るか」、つまり子どもが叱られる行動とは、ものを投げる、授業中のおしゃべり、ノートやテキストへの落書きなどの比較的軽度なものから、先生の指示に従わない、いじめ、差別的な発言など重大なもの、さらに、暴力や傲慢な態度、学校から逃げ出すなどの一時停学や退学になるものまで、程度別に記載されています。

また、「どう叱るか」、つまり、先生の叱り方にも5つの段階があります。初めは「注意(Reminder)」、次は「警告(Warning)」、その後は「タイムアウト(Time out)」と呼ばれる、教室外に出される罰則へと段階が上がっていきます。子どもにもこのルールをわかりやすく説明するために、ポスターが作られ、教室や体育館に貼ってあります(写真1)。とはいえ、実際はどのように叱っているのか、普段は見ることができません。そこで今回は、息子に取材してみたのですが、興味深い回答が返ってきました。

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写真1 教室に貼ってある「先生の叱り方」の表。
教室ではホワイトボード(日本でいう黒板)の下に貼ってあるそう。

3回目は「警告」、4回目は「タイムアウト」になる

代表的な叱り方である、「注意」、「警告」、「タイムアウト」の前の段階として、先生が顔の表情で指し示したり、教室内で座る場所を変えられるなどがあります。しかし、それでも収まらないときは、写真1の表にある叱り方に移行します。

●1段階目:注意(Reminder)
まず、「注意」を受けるとき、先生に「これは『注意』です(This is your reminder.)」と顔を見て言われるそうです。平均して1日に約3~4回、先生がこの「注意」をすると言います。先生が最も「注意」することは、授業中のおしゃべり。日本のような講義型の席順とは違い、5~6人のグループ単位の島(アイランド)型で座るので、この話しやすい環境も、よく「注意」される理由かもしれません。

●2段階目:警告(Warning)
「注意」を2回続けて受けた子がさらに先生から叱られる場合、3回目は「注意」でなく「警告」に変わります。これは写真1を見ていただくとおわかりのように、黄色の顔マークが書いてあります。サッカーの「イエローカード」のような意味です。先生は「これは『警告』です(This is your warning.)」と言います。息子によると、1日に1~2回程度、あるそうです。

●3~5段階目:タイムアウト(Time out)
「警告」を受けても行動が改まらない場合は「5分間のタイムアウト」に変わります。表には、赤色の顔マークが書いてあります。サッカーの「レッドカード」のような意味です。タイムアウトとは、叱られた児童が自分の教室を一定時間離れ、他のクラスに行くという罰則。例えば、「警告」の後も態度が変わらないと「5分間、教室を離れなさい(Leave the room for five minutes.)」と先生に言われます。基本的には1つ上の学年の教室に行くことになっているので、5年生なら6年生の教室に行き、5分間過ごします。5分経ったら、その教室の先生に元の教室に戻ってよいか確認して戻るそうです。タイムアウトを受けて5年生の息子の教室にやってくる4年生の「常連さん」もいるそうです。頻度は、1日1人程度ですが、多い日には3~4人来るときもあるそうです。

他のクラスに5分間行っただけで、行動が改まるのか疑問だったのですが、息子によると、たいていの児童はしょんぼりした様子で(反省して?!)教室に戻ってくると言います。自分の教室とは全く違う勉強をしている所に行くので、少しクールダウンするのでしょうか。

このタイムアウトにはレベルがあり、最も軽いのは前述した「5分間教室を離れる」ですが、4段階目は「その授業が終わるまで教室を離れる」、最も重い罰則である5段階目は「休み時間や昼食後の休憩に自由に遊べないこと」だそうです。ただ、この4、5段階目は普段、先生は使うことはないそうです。このほか、何度もこのような事態が繰り返される場合は、家庭あてに手紙が送られたり、学校の書類に記録されたりするなどの対処もなされます。

さらに、このガイドラインには、「叱る際に先生が絶対に行わないこと」も記載されていました。それは、「大人の目の届かないところに行かせること」「廊下に立たせること」「よくない行いをした子どもの名前を黒板に書くこと」の3つです。

信号機のような「グリーン、アンバー、レッド」のルール

他の学校の叱り方はどうなのでしょうか。イギリスの小学校でティーチングアシスタントをしていた友人によると、以前働いていた学校にはタイムアウトがあったけれど、現在、自身のお子さんが通う小学校では、タイムアウトはなく、代わりに「グリーン、アンバー(琥珀色)、レッド」というルールがあると言います。これもサッカーのイエローカード、レッドカードに似た仕組みです。信号機とも似ています。毎週月曜にリセットされるルールで、月曜の朝は全員「グリーン」から始まります。3回警告を受けると「アンバー」になるそうです。その後、警告を受けると「レッド」に変わり、校長先生の部屋に呼ばれます。ただ、「レッド」をもらうことはめったにないそうです。なぜなら、「アンバー」になるのを子どもたちは恐れており、自制するためだそうです。イエローカードを想起させ、子どもの心に残りやすいからかもしれません。

一方で、学習や宿題をがんばった、友だちと協力した、助けたといったよいことをすると「グリーン」から「シルバー」に変わり、さらによい行いが続けば「ゴールド」になるそうです。罰だけでなく、自分次第でご褒美にも変わるところがいいですね。


叱り方のルールがあると、とてもうまくいっているように聞こえますが、課題もあります。先生によっては、子ども側の言い分を聞こうとせず、決められたルールに沿って、頭ごなしに叱る先生もいる、と前述の友人は言います。先日、息子もそのような体験をしてしょんぼりして帰ってきました。サッカーのシュートが決まったときにうれしくてつい、「よっしゃー!」と日本語で言ったことが先生には英語の侮辱用語に聞こえたようで、「注意」を通り越し、一発で「警告」をもらったそうです。誤解される日本語を使ったのもよくなかったのですが、日本語であるという理由を説明しようとしても先生はまったく聞こうとしなかったとか。明確なルールがあっても、その細かい運用部分は先生ごとに違い、そのときの状況によって判断が難しいところがあります。

日本の学校では、叱り方については、個々の先生に委ねられているようですが、イギリスの学校では、①先生の叱り方のルールが決められ、先生やスタッフ間、また子どもとも共有されていること、②叱り方のルールは、サッカーのイエローカードやレッドカードの仕組みに似ていて、子どもにもわかりやすいところがよいと感じました。「事前にルールを決め、紙に書いて子どもと共有する」「イエローカードやレッドカードを用意してみる」などのアイディアは、家庭でも効果があるかもしれませんね。

次回は「日本人補習校」を取り上げます。お楽しみに。


<参考文献>

筆者プロフィール

橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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