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問いを学ぶ ― 子ども大学かわごえ③ 「なぜ?」の授業が始まった

要旨:

子ども大学かわごえの学生募集は2009年2月20日から始まり、116人の入学者があった。本稿では、入学式、そして3月20日から行われた授業の様子を紹介する。子ども大学は「はてな学」「生き方学」「ふるさと学」の授業を行うが、今回は初年度ということで、まずは「はてな学」だけを行うことにし、大学教授3名がそれぞれ45分の授業を行った。子どもや保護者からは、学習内容への深い興味の促進や、家族の会話の糸口となったという感想が聞かれ、いくつかの課題を残しつつ次につながる意義のある活動となった。

応募者が殺到し入学者を増やす

子ども大学かわごえは小学4年生から6年生までを対象にしていますが、「大学」なので小学生でも「学生」と呼ぶことにしています。その学生募集が2009年2月20日から始まりました。

 

募集にあたって、子ども大学の趣旨に賛同する川越市と鶴ヶ島市の教育委員会が全面的に協力、管内の小学4年生~6年生1万1000人に対して、学校を通して募集のチラシを配布してくれました。


募集人員は50人を予定し、ファックスと電子メールで受け付け、先着順に入学者を決めるという方針を取りましたが、募集開始と同時に応募が殺到し、3日間で120人に達しました。


このため「子ども大学で学びたがっている子どもを制限するのは教育上よくない」と判断し、120人全員を受け入れることにしました。この中には対象外の中学生からも応募がありましたので、結局、入学手続きをしたのは116人でした。学費は入学金と授業料合わせて1000円です。登下校の安全確保のために保護者同伴を原則とし、保護者も一緒に授業を受けてもよいことにしました。

 

入学式に手づくり角帽を授与

入学式は3月14日(土)午後2時から川越市的場にある東京国際大学第1キャンパスの広い階段教室で行われました。あいにく小雨が降り、強い風が吹く悪天候でしたが、1時半の受付開始前から大勢の親子が、期待に胸をふくらませてやってきました。「マナビィ」(学ぶ蜂)君という着ぐるみ人形が特別出演し、受付付近で愛嬌をふりまきます。この人形は今秋、埼玉で開催される文科省主催の第21回生涯学習フェスティバルのマスコットです。


2時前に新入生が式場に入場、そのあと保護者が後ろの席に座りました。壇上にはブルーの校旗と校歌が掲げられ、江夏健一理事長、遠藤克弥学長、酒井一郎事務局長が黄色い房のついた角帽、黒いガウン姿で椅子に並び、大学の入学式らしい厳かな雰囲気。 


式は川越少年少女合唱団の合唱で始まりました。白いベレーに紺のブレザー姿の70人が「ふるさと」「さくらさくら」「荒城の月」を、創立50年の実績がにじむ美しいハーモニーで合唱して新入生を祝いました。


report_02_85_1.jpg胸に赤い花をつけた来賓が祝辞。川越市の山浦秀男教育長は「大学の先生と夢をたくさん語り合ってください」、鶴ヶ島市の新井周平教育長は「いつでも"なぜ?"と考えながら生活してください」と新入生に呼びかけました。


また、あいさつに立った遠藤学長も「日本で初めての子ども大学への入学おめでとう。この大学で知らないことを知る楽しさを味わい、知ったことが自分たちの生活とどういう関係があるのかをよく考えましょう」と語りかけました。


ここで校歌が披露されました。作詞は子ども大学会員の小室志をりさん。日本童謡まつりのコンクールで三木露風賞を2度受賞している人です。歌詞は子ども大学の学部である「はてな学」「生き方学」「ふるさと学」を一番ずつ歌いこんだ素晴らしい内容。スペースの関係で全部紹介できませんが、一番には「はてなを学ぶ教室で なぜがわかるよ 教えてくれる きらめく知識 知らない世界へ 胸おどる」という詞が入っています。いずれ曲をつけることになっています。


report_02_85_2.jpgいよいよ学生証と角帽の授与です。マナビイ君が見守る中、新入生が一人一人、壇上に呼ばれ、学長から学生証が渡され、理事長から黒い角帽が被せられました。この角帽は若いスタッフの渋谷俊彦さんらがボール紙などでつくった本物そっくりのものです。小さな学生たちは少し照れながらも嬉しそうでした。


角帽を被った学生が席に着くと、再び川越少年少女合唱団が壇上に並び、合唱団出身の大野利可さんが、篠笛で「出会い」など自作の曲を静かに演奏。そして合唱団がにぎやかに「ラデッキー行進曲」を歌って新入生を励ましました。これはウィーンフィルハーモニー交響楽団のニューイヤーコンサートで最後に演奏されるおなじみの曲。指揮者の熊谷高三さんが座席に向かって合図すると、会場は力強い手拍子で元気が満ちあふれ、感動的なフィナーレでした。


最後に全員が壇上に上がり、記念撮影をして入学式は終了しました。外は雨も風もやみ、陽が差し始めていました。

「なぜ?」を解き明かす授業開始

授業は翌週の3月20日(金)から3日間、市内の3大学で順に行われました。子ども大学は「はてな学」「生き方学」「ふるさと学」の授業をしますが、今回は初年度ということで、まずは「はてな学」だけを行うことにしました。


あらかじめ酒井事務局長が3大学の知り合いの教授に会い、ドイツの子ども大学で行われている「なぜ」を主題とする授業テーマなどを紹介し、「このような内容を講義してもらえる先生を推薦してほしい」と頼んでおいたのです。その結果、子ども大学のねらいにぴったりの素晴らしい授業テーマと教授陣が揃いました。


◇20日(東洋大学工学部)①望月修教授「なぜ飛行機は空を飛ぶことができるのか?」②福井吉孝教授「なぜホタルとさかなは面白いのか?」

◇21日(尚美学園大学)①総合政策学部・五十子(いらこ)敬子教授「なぜ人のいのちを奪ってはいけないのか?」②総合政策学部・真下英二准教授「なぜ多数決で決めるのか?」

◇22日(東京国際大学)①人間社会学部・角山剛教授「なぜ電車の席は隅から埋まるのか?」②人間社会学部・大築勇喜嗣教授「どうしたら10分間でギリシャ神殿を描くことができるか?」


子どもたちの「なぜ?」に答える内容あり、生きる上で知っておいてほしいテーマあり、人間行動の不思議さを解き明かすテーマあり、大人でも聞きたいテーマです。


授業は45分。講義は30分で、あとは質問と感想文書きにあてることにしました。大学教授は普段90分授業をしているので、小学生相手に30分で話すには相当工夫がいります。そこで酒井事務局長はトップバッターの東洋大学工学部・望月修教授にリハーサルをお願いするほどの気の配りようでした。


report_02_85_3.jpg授業はスクリーンに画面を映し出してパワーポイントを使って行われました。小学校ではやっていない授業方法です。教授の中には、つい難しい言葉を使ってしまう人もいましたが、画面で短い説明文や写真、図を見せながら話すので、小学生たちには理解ができたようです。講義室の後ろに座った保護者たちも熱心にメモを取っていました。

紙飛行機あり、確率の数式あり

授業の一部を紹介しましょう。

 

「なぜ飛行機は空を飛ぶことができるのか?」を講義した望月教授は、画面で絵や写真を見せながら、動物の進化により始祖鳥が登場するところから始まって、人類が空を飛ぶことに挑戦する歴史、そして今日の航空機の発達まで話しました。先生は最後に、よく飛ぶ紙飛行機の折り方を教えました。子どもたちは休憩時間に廊下で飛ばし、空を飛ぶ気持ちを紙飛行機に託したのでした。


「なぜ多数決で決めるのか?」を講義した真下准教授は、途中でホワイトボードに多数決で望ましい結論が出る確率のΣが入った複雑・高度な数式を書き出したので、子どもたちは呆気にとられたようす。これはまさに大学の高等数学の授業です。ところが授業が終わったとたん、子どもたちは先生の周りに集ってきてノートを差し出し、数式を書いてもらったのです。まるで有名人のサイン会のようでした。


「なぜ電車の席はすみからうまるのか?」を講義した角山教授は、子ども2人に前に出てもらい、離れて立たせ、相手がこれ以上近づいて欲しくない地点に来たら「ストップ」と声をかける体験をさせ、人間の"個人空間"について説明しました。子どもたちは人間の心理の不思議さに感じ入ったようでした。


report_02_85_4.jpg最後に授業をした大築教授は、子ども3人を前に呼んで、黒板にギリシャ神殿を描かせました。屋根から始まって柱、土台へと、なぜ古代ギリシャ人はこういう建て方を考えたのかを順に説明しながら描き方を指導しました。席の子どもたちもそれを聞きながら紙に描きました。そして先生は「神殿はいろんな形が組み合わさって出来ています。これはギリシャ人のハーモニー(調和)と民主主義の精神を表したものです」と述べました。初めは描けるのかなと心配していた子どもたちですが、先生の指導よろしきを得て、みんな"さま"になる神殿を描ききったのでした。

                                        

授業は選択制で行われたので、選択授業が終わった学生には、修了証書がそのつど教授から授与されました。入学生は116人でしたが、インフルエンザなどで登校しなかった学生が7人いて、結局、第1期生は109人。3日間通して受講した学生は66人でした。

 

「すごく不思議」「なるほど」「おどろいた」

授業の最後に子どもたちが書いた感想文を読むと、先生は何を教え、子どもは何を学んだのかの一端が分かります。授業ごとに一人だけ感想文を紹介します。

 

○飛行機の授業「人が空を飛びたい!というあこがれをずっと持ち続けていたから、今ここに飛行機があるんだなぁと思うと、すごく不思議でおもしろい!」(6年女子)


○ホタルと魚の授業 「学校の裏に小畔川が流れているのに、どんな魚がいるか知らなかったので、勉強になりました。」(6年男子)


○人のいのちの授業 「人生はまだまだ続くから、その人の人生や自分の人生をうばってはいけない!ということを、いらこ先生はくわしくおしえてくれました。これからも、命、人生を大切にしていきたいです」(4年女子)


○多数決の授業 「多数決は、一番不満になる確率が低いことがわかり、なるほど!と思いました。授業の説明のしかたやすすめ方がおもしろかったです。とても楽しかったです」(5年女子)


○電車の席の授業 「場所や相手によって個人空間がちがうことがわかりました。こんど電車に乗ったときにしらべてみたいです」(5年女子)


○ギリシャ神殿の授業 「ギリシャ神殿が民主主義のしょうちょうなんておどろいた」(5年男子)

保護者の感想には「家に帰ってから、授業で聞いたことについて親子で話し合いました」というのがありました。講義の内容が家族の会話のテーマになったとは、嬉しいことです。これから家庭で知的会話が増えることでしょう。


一方、「授業時間が短かすぎる」という意見が多く見られました。これは私たち大学側も感じていたことであり、次回の検討課題(宿題)になりました。


今年度の授業計画について4月18日に教務委員会企画会議を開いて話し合いましたが、9月に学生募集を行い、10月から3月まで月一回、土曜日に「はてな学」6コマ、「生き方学」4コマ、「ふるさと学」2コマの授業を行う予定です。合宿によるサマースクールも計画しているところです。


NHKテレビ朝の連続ドラマで、川越を舞台にした「つばさ」が始まりました。子ども大学も「つばさ」を大きく広げて、川越から全国に飛翔したいものです。(おわり)

子ども大学かわごえホームページ: http://www.cuk.or.jp

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