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論文・レポート

胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)と子ども

マレーネ・リッチー (理学士 / 看護学修士 / インターナショナルエデュケーター)

2008年8月29日掲載
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先日、リーダーズ・ダイジェスト2000年3月号を読んでいると、ボニー・バクストンが書いた記事、「社会の子ども」が目に入った。私は、「これよ!」思わず叫んでいた。「私たちが養子にした息子は、バクストンの娘さんのコレットと同じ胎児性アルコール・スペクトラム障害だったのだわ。」記事の中にあった乱用センターに連絡し、自分の電話番号を留守番電話に残した。数分後、バクストンから電話がかかってきた。私は、喫煙、盗みを働き、乱暴でキレやすい性格など、息子の5歳時の状況を打ち明けた。バクストンは「わかるわ。」と言ってくれた。バクストンが、私の息子の成長の過程での異常行動を一つ一つ繰り返し言い当ててくれている間、私は流れる涙をおさえることができなかった。バクストンが著書「壊れた天使」(Alfred A. Knopf, Canada, 2004)で記した娘のコレットと経緯が同じだった。私の息子はまだその生い立ちを語ることはできないので、コレットのことを書きたいと思う。

バクストン夫妻はコレットを3つのとき養子にした。児童養護施設にいたコレットのことは生後10ヶ月のときから知っていた。コレットは快活な子で動物が大好きだった。養子にしてから数ヵ月後、コレットは別の面を見せるようになった。盗みを始め、両親の目を見て嘘がつけるのだ。良心がないかのようだった。夫妻は共に高い教育を受けており、社会に貢献する立派な人物である。二人は逸脱行動への対処について調べ、ソーシャルワーカーや、心理士、精神科医らの援助を求めた。専門家は、「コレットが怠け者である」又は「養子にしたことと関係している。もっとよい育て方が必要だ。」と結論付けることがほとんどだった。(家の息子の場合も助けを求めると同じような結果に終わっていた。)コレットは学校では勉強についていけず、怒りっぽく見え、家でときどき乱暴をふるった。14歳を前に、学校をさぼりだし、ドラッグやセックス、アルコールに走るようになった。2年間の組織的治療を受けている間は安定していたものの、その後自宅に戻ると、問題行動が再び始まった。17歳になると、何日も家出し、ドラッグにふけり、ストリートキッドにお決まりの様々な問題行動に足をつっこんでいた。児童援助組織も、トロントにあるシックキッド病院の精神科医も頼りにならなかった。

そんな時に、バクストンはCBCの番組で、胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)の男性のインタビューを見たのだった。その男性の症状はコレットと全く同じだった。妊婦のアルコール摂取が胎児の脳に影響を及ぼすことは1973年にはすでに北アメリカの医療従事者の中で知られていたのにもかかわらず、コレットの症状をFASDと結びつけた専門家は一人もいなかったのだ。「私たちは娘の問題があの子自身や私たち夫婦の落ち度によるものではないとわかってホッとした。しかし、これまでずっと、できないことを『もっとうまくやるように』といわれ続けてきた娘の苦しみを思うと辛かった。」とバクストンは書いている。ちなみに、現在コレットは、ドラッグやアルコールへの依存はなくなり、落ち着いた生活を送っている。

FASDとはどういうものだろうか。正式名称は「胎児性アルコール・スペクトラム障害」と言い、子宮の中でアルコールによって悪影響を受けた人たちの様々な症状を指す。妊娠中の女性が飲酒すると、アルコールが胎盤を回って胎児の血流に入る。その結果、発達中の胎児の多くの部位、特に脳に影響を及ぼす。ダメージは永久的なものである。妊婦の夫や友人は、自分たちの態度や行動が、妊娠中のアルコール摂取を防げるということを自覚すべきである。FASDは予防可能なのだ。

トロントの聖ミカエル病院小児科医局長のニー・バロッジ博士は、カナダの憂慮すべき統計結果を報告した。それによると、「FASDと診断された子どもの90%が健康上の問題を抱える。61%が高校を卒業できない。60%が法律に触れる問題を起こす。50%が投獄される。80%は自立した生活を送れない。そして70%が職につけない。」ということである。

また、FASDの診断についてであるが、母親が妊娠中にアルコールを摂取していた場合は、子どもはFASDの検査を受けるべきである。低体重、小頭症、目があまり開かない、鼻の下のくぼみ(人中)に縦溝がない、薄い上唇は、母親がアルコールを摂取した場合に起こりうる主な症状である。また、注意、記憶、多動、抽象的概念、お金の管理、問題解決、因果関係の認識、未熟な社会的行動、情緒や衝動のコントロール不能、判断力の欠陥等の症状が生じた場合、FASDを疑う必要がある。さらに、赤ちゃんの最初の腸の動き、すなわち胎便に、アルコールから代謝されたエステルが通常より多く含まれている場合、FASDの危険性があるので、専門家に診断を仰ぐべきである。

あるシンポジウムで、ジョンという30代の男性が胎児性アルコール障害とはどういうものかを語った。怒りを感じ混乱すると、話を止め、大きく息をついて立ち去るようにしているという。また、手先が器用で、指示は文書で説明されるより目の前で示してもらった方がよく理解できる。お金の管理や職を継続することに問題がある。睡眠時間が平均より長く必要で、入眠障害がある。

さらに、同シンポジウムの中で、ウィニペグ特別教育局は、どのようにして、FASDの子どもにとってストレスのない環境を提供しているかについて発表した。快適ですっきりとした教室で教材が必要に応じて与えられる。子どもたちは短時間で実践的な訓練を繰り返し受ける。教師は生活のためのスキルと学業をうまく混成することに注意を払う。罰は効果がない。なぜなら、子どもたちは安心できる、支えられた、非難されない環境を求めているからだ。世話をする人は子どもの長所に注目する。FASDの子どもたちたちの長所として、思いやりがあり、動物とのふれあいを好むこと、機械やコンピューター、絵画、音楽が得意であることが挙げられる。

また、カナダでは、FASDの子どもを世話する人は、定期的に開かれる会合に出席したり、FASworldのオンラインデータを利用したりして、情報を得ることができる。

オンラインによる情報収集の方法を以下に挙げる。
1) 鈴木健二氏等による日本語の文献は、Science Links Japan、the Journal of Alcoholic Studies and Drug Dependence、久里浜アルコール症センターでの業績を参照する。
2) Peggy Seo Oba (MBA)の研究とデータは、Googleで"Peggy Seo Oba"と入力し、結果を参照する。
3) 世界で行われている様々な研究はFetal Alcohol Spectrum Disorderをオンラインで検索し、参照する。

コレットのような胎児性アルコール・スペクトラム障害の子どもたちは、妊娠中の母親のアルコール摂取の影響で、一種の恒久的な脳の障害を持っている。こうした子どもたちは学習や社会性の発達に問題がある。訓練によって、生活のスキルは向上するとはいえ、現在、FASDを防止するための策やFASDの子どもたちの人生を充実させる策をもっと考えるべきではないだろうか。

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