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協同学習評価における生徒の役割とは何か

要旨:

生徒は、将来大人として求められる幅広い技能を訓練する必要があるため、先生は多重的な知性をサポートする複合的な学習環境を整えることが要求されている。工場や仕事場でチーム評価が一般的になってきているため、中学、高校、大学においても、同級生の態度に対する評価の仕方を習い、自己能力について正確に判断できるように、チームメイトからの建設的なフィードバックを自分のために生かせるようにならなければならない。協調的な学習は自己評価と他者観察を比較するうえで理想的な場である。自己認知と他者認知を融合させることを学習することで、自己発達の鍵となり得る。

 

生徒は、将来大人として求められる技能を訓練する必要がある。将来的に重要となる能力をすべて予測することは不可能であるかもしれない。しかしながら、労働市場の需要、テクノロジーの進歩、知識の蓄積、ライフスタイルの変化などを考慮すると、いくつかの重要な学習課題が確認できる(Toffler and Toffler, 2000)。将来、人々と調和して、人生の成功者となるには、創造力や批判的思考を習得したり、情緒面を成長させたり、集団での協調性を養うことが重要であることが証明されている。このように幅広い資質が必要なため、先生は多重的な知性をサポートする複合的な学習環境を整えることが要求されている(Gardner, 2000)。

 

<多重知性についての概念>

 

この10年、教育者は知能発達を重視して、知識の暗記からの転換を図ってきた(Benson, 2003)。知識が急速に成長するということは、一定の情報が急速にすたれてしまうということを意味している。実際、生徒がテストのために暗記するものは、短い期間だけにしか有効でないかもしれない。したがって、問題解決に必要な創造的な思考力や批判的な思考力を養うことが、現在、多くの国で教育目標として注目されている。ポール・トランス(Paul Torrance, 2000;2002)による図形と言葉からなる創造力テストは、個々の独自性、綿密さ、流暢さ、柔軟性、再定義する能力を発見することができる。

 

ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman, 1999;2002)によれば、子どもは感情的知性を発達させるために助けが必要であるという。この感情的知性は、せわしなくストレスの多い環境において、生活の質をより健全に満足できるものにしてくれる。多くの重要な問題は、いじめ、離婚、犯罪、偏見、解雇など、他者との人間関係に関連していることが多いが、これらは学習能力の不足よりも情緒的な不健全性や未成熟に由来している。読み書きや計算は学習能力の基礎として認識されているが、同時に、学習しやすいものでもある。情緒的知能は、自覚、衝動の抑制、熱意、粘り強さ、やる気、感情移入、社交性が含まれる。アメリカ心理学会の会長であるロバート・スタンバーグ(Sternberg, 1988, 2000)は、精神的な能力が充分に機能するための方法を提示している。スタンバーグの能力テスト(STAT)は、個々人の成功が「分析」、「創造」、「実践」の3つの独立したタイプの発達に影響されるという理論的解釈に基づいて、一連の多肢選択式の項目から成り立っている。

 

<労働市場からのモデル>

 

過去10年以上、仕事場では対人関係能力についての同僚の評価が信頼を得ている。人々は同僚からの批判や提言を真剣にとらえている。このような同僚からの観察・評価が重要視される理由としては、同僚とは日常的に交流し、仕事がどのくらいできるか知っていて、短所を発見することが可能であるからである。経営においてもチーム内評価は支持されているが、それはより大きな生産性につながると考えられているからである(Edwards & Ewan, 1996;Goleman, Boyatzis, & McKee, 2002)。

 

労働市場における同僚評価の実践モデルは、バンク・オブ・アメリカ、ディズニー、フォード、ヒューレット・パッカード、インテル、マイクロソフト、モトローラーなどの大企業に見られる。これらの企業では、個人のチームワークを評価するうえで、グループから見た評価というやり方をとっている。従業員は、通常の業務に対する評価が上司によって無計画的になされているのでは不公平であり、時代遅れであると思っている。従業員は、「ボスは充分に自分をみていないために、自分のやっていること全ては分からないし、どれほどうまくやっているかも知らない」ともっともらしい理由をつけて、監督者からの指示を無視するかもしれない(Hargrove,1998)。

 

工場や仕事場でチーム評価が一般的になってきているため、中学、高校、大学においても、同級生の態度に対する評価の仕方を習い、自己能力について正確に判断できるように、チームメイトからの建設的なフィードバックを自分のために生かせるようにならなければならない。しかしながら、協同学習を実施する教師は、各生徒が実施するチーム評価の技術を見極めることがもっとも大変な仕事であると認めている。先生はどのようにすれば正確で公平な評価ができるのか難しいと感じている。生徒もまたチームワークの評価について失望したと述べている。対人関係能力についての評価を改善するために、適切な尺度が考案されるべきであることは広く認識されている(Antil, Jenkins, Wayne & Vadasy, 1998; Gillies, 2003)。

 

<生徒の説明責任に関する要素>

 

チームで作業をする際の生徒の説明責任は、3つの要素が基礎となるべきである。第1に、個人がチームにどれだけ貢献しているかについて焦点を当てなければならない。どの年代の先生も、行動を評価する際に、チームに対する貢献を重視する。先生はクラスの皆を助けることで、クラスの達成をサポートしようとする。しかし、結局、最終的には各々の生徒が自分の行動に責任を持たなければならない(Senge他2000)。このような先生の考え方をチームに適用すると、生徒はチームメイトの行動に対して責任を持たなくなる。その代わりに、生徒がテストで個別に評価されるのと同様に、同級生によって観察・評価されるチームワークの技能によっても評価されると認識すると、生徒は他の生徒と一緒に作業をしようというやる気がでてくる。

 

第2に、グループ学習を評価する際に、先生は生徒と責任を共有すべきである。先生は一般に専門の教科に対して優れているため、チームによって提示された作業の成果を判断するのに適任である。他方で、先生は生徒がチームで作業をしている時にめったに観察できないため、チーム内で何が起きているかを評価することはできない。たとえ生徒の作業中に立ち会えたとしても、生徒の決断が他の生徒の考えにどのような影響を与えているかを判断するのは難しい。生徒は、同級生の学習貢献やチーム努力の結果についての自分の情報を先生に無視されるとがっかりする。したがって、チームに最も影響を与え、貢献したチームメイトを評価するのに最も適任であるのはチームメンバーであるといえる(Gillies, 2003)。

 

第3に、生徒の自己評価と同級生の観察結果を比較する必要がある。生徒は、国のテスト、州のテスト、そして先生が作ったテストを受けている。それに加えて、自己評価の技能が必要である。なぜなら、自己評価の技能は、過剰な選択を強いられ、共同して働くことが求められる現代の社会環境において、賢明な決断を下すための基礎として必要だからである(Johnson & Johnson, 2002;Kagan, 2002)。協調的な学習は自己評価と他者観察を比較するうえで理想的な場である。このような方法で、生徒は自分自身を判断する能力を身につけることができる。自己評価を実践指導することで、生徒は自己を評価できるようになり、チームで充分に行動できる素質を持ち合わせるようになる。自己評価能力が備わることにより、自分自身のことを考える時と、模範としたい他者に近づけるように態度を変える時とがいつなのかが分かるようになる(Drucker, 1999)。

 

<対人関係能力評価(III、Interpersonal Intelligence Inventory)>

 

先生は、生徒の視点に立ってグループ活動で何が起こったかについて充分に知らされるべきである。対人関係能力評価は、25のチーム技能についてチームメンバーが互いに評価するものであるが、広範な行動をカバーしているうえに、ある程度の期間、グループ活動をすれば簡単に評価できるようになっている。チーム技能の項目については、教えることや習うこと、創造的思考や批判的思考、集団力学や相互行為的なコミュニケーションについての文献から引用されている(Gardner, 2000)。評価尺度の目的としては、(1)個々の生徒がグループ学習でみせたチームワーク技能を把握する、(2)チームメイトからの匿名のフィードバックを提供する、(3)自己評価と仲間の評価を比較する、(4)さらなる教育の向上につながるように、個々の短所やグループの短所を発見する、(5)チームメイトを率先して助ける真面目な生徒を認める、(6)チームメイトが代わりに自分の仕事をしてくれることを期待している怠け者の生徒を発見する、(7)社会生活を送るうえで必要な技能について、簡単に理解できるように文書化する、(8)チームワーク技能に関するデータバンクを学校に設立する、ことである。

 

どの生徒も皆、チームメイトからの匿名のフィードバックを含んだプロフィール用紙を受け取る。概念的に使いやすい5つの技能について、各々の生徒は評価されている。(1)グループ活動に参加したか(例えば、チームの皆の期待どおりに公平に仕事を分担したか)、(2)情報を探し、共有したか(例えば、チーム検討するための文献を持ってきたか)、(3)チームメイトとコミュニケーションをとったか(例えば、他のチームメイトの貢献に対して、それを認めたり、励ましたりしたか)、(4)批判的、そして創造的に考えたか(例えば、チームでの考察や作業方法への新たな試みとして、論理的に考えたか)、(5)チームメイトと仲良くしたか(例えば、問題が起きた時に、他の人をけなしたり非難したりすることを避けたか)。

 

<採点とフィードバック>

 

生徒は、チームワークの間、きちんと行動できたかについて、25項目にマルをつけることで、仲間と自分の評価を行う。得点は観察者の人数を基にしてパーセントに換算される。すなわち、4人チームメイトがいれば1人につき25%と換算され、5人チームメイトがいれば1人につき20%と換算される。採点は、手で行ったり、スキャン(走査)したり、Excel(Excelを用いるとe-mailで送信可能)を用いたりする。Excelを用いて、e-mailで送信する採点方法は多くの利点がある。時間の節約により、節約した時間をチームでの作業や採点に当てたり、欠席者の再評価を可能にしたり、秘密を守りながら対応ができたり、クラス外からも個人的にフィードバックを受けられたりする。

 

<フィールドテスト>

 

チームにおける行動の指針として、仲間の観察による評価と自己評価を用いるには、両者の過半数の一致が必要である。もし一致が70%を超えていれば、特定の技能は有効であったと広く正当化できる。チーム技能に関しては、自己評価と仲間の評価の一致は87%から99%の間であって、25項目のうち23項目の技能については、少なくとも90%が一致していた。これらの結果から、対人関係能力評価(III)を用いれば、生徒は特定のチーム技能について仲間の評価と自己評価を信頼することができるといえよう。この結果は、別の調査によって裏付けられた。その調査では、先生の90%と生徒の88%がチームワークにおける生徒の評価に対して総体的に信用できるという結果であった。

 

対人関係能力評価が内的に一貫性を持った指標であるかは、生徒のチーム採点表の分析から評価できる。クロンバッハ(Cronbach)のα係数は指標の信頼度を測定できる。α係数の合計をみると、自己評価303人分が0.79であり、仲間の観察・評価1136人分が0.87であり、信頼度は高いという結果であった。さらに、フレスク-キンケイド(Fresch-Kincaid)指数によれば、読むレベルは6.85であり、これは6年生か中学1年生で対人関係能力評価を理解できることを意味している。

 

<教育の意味>

 

生徒の記録書類(Portfolios)。自己評価の技能を獲得し、フィールドテストに参加した先生の90%が、チーム技能のプロフィール用紙(Team Skills Profile Form)が、ABCによる学業成績や態度評価成績よりも生徒の行動をより正確に描いているため、生徒の記録書類に入れるべきであると報告している。もしプロフィール用紙が中学3年から高校3年までの記録書類に追加された場合、先生は新たに受け持つ生徒のチーム技能をもっと理解することができ、まだ達成されていない技能を身につけさせるサポートができる。先生は新たにチーム技能や生徒の不足部分を発見する代わりに、過去と現在の同級生の観察を役立てることができる。記録を残すことは、学業成績では一般的なことであるが、社会的な技能についても適用されるべきである。

 

親の関与。チーム技能の記録を残していくことの他の利点としては、青少年期の子どもの教育に対して親の参加をサポートできることである。ある親は、中学生からは独立して自分のことは自分ですべきだから、親として子どもを指導する役割はもう終わったと弁明する。他の親は、子どもが中学生になると、子どもの先生全員を知ったり、交流したりするのは不可能になると思っている。しかし、親の職業にかかわらず、親はチーム技能が仕事や家で必要であることに気づいている。この点について、フィールドテストに参加した先生の80%は、生徒がチームワークの技能を身につけるためには、親が指導に加わることが期待されていると思っている。多くの親は職業経験があるため、子どもにチームワークについて組織立てて話すのに適任である。クラスで期待されるチームワーク技能について親が関与することにより、先生と親が協力して、学校と家庭の両方でチームワーク技能を子どもに教え、強化することが可能になる。親は子どもを長期間にかけて指導していかなければならないため、子どもの記録書類にチーム技能が記録されれば、子どもの発達を観察しやすくなる。

 

親と先生は一緒にいると、お互いを牽制してしまうことがある。しかし、対人関係能力評価が親と先生の両者の努力を基礎としていることについて議論されると、生徒の誤った認識に関して、親も先生も相手を非難することはしない。先生か親のどちらがより正確な認識を持っているかは問題ではない。それよりも、大人は青少年期の子どもの自己評価と、その子どもがチームメイトの仲間からどのように見られているかを調べることである。そうすることで、先生と親は青少年の自己評価と仲間の観察による評価の不一致を一致させるように助けるという理由で団結できる。

 

ジェンダーに対する考慮。303人の生徒のフィールドテストを通して、ジェンダーによる観察調査を行った。その結果、151人の女子生徒の自己評価得点は152人の男子生徒の自己評価得点よりも、25項目中17項目について高かった。さらに、チームからの評価では、25項目中23項目について、女子の方が男子よりも高い得点を得ていた。このような結果は、女子生徒が自己評価を低くするような他の影響を中和することができることを示唆している。また、このような結果は、男女混合のグループの潜在的な長所を示している。すなわち、チーム技能に対して能力が高い女子は、男子にとっては見習うべき身近なモデルとなるからである。

 

学校でリーダーを推薦するのは先生が最も一般的である。もし、対人関係能力評価の結果が推薦の一つの要因としてみなされた場合、女子生徒はリーダーシップの立場として選ばれることが多くなるだろう。

 

<結論>

 

同級生と協調しながら作業することを学習することは、相互依存的な関係が必要とされる環境において非常に大切である。生徒は、チームワークがますます重要になってくることに気がつくと、将来成功するためには、協調的な技能も必要であることを認識する。先生も生徒もグループワークの評価方法が改善されるべきだと思っている。その1つの方法として、対人関係能力評価を実施することであろう。この評価指標から得られるプロフィールは、チームワークの技能を修得しているかを示していて、これらは生徒の記録書類の一部となるべきである。さらに、学校はチーム技能のデータバンクを設立するべきであり、そうすることで、学校としての発展を評価し、達成を認知することができる。私たち個々人は私たち個々が想定するだけの個々人ではなく、他者からも認知されている個々人であることを、青少年期の子どもははっきりと理解する必要がある。自己認知と他者認知を融合させることを学習することで、自己発達の鍵となり得る。

 

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