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教室内における創造的演出法

要旨:

創造的演出法(Creative Dramatics)がいかなる科目についても活気を与え、学習を促進し、印象的な学習体験の条件を作り出すために有用な方法であるということは、十分に認識されている。この手法は自己表現や創造的思考の発達のために、多くの機会を提供する。学んだ話題を深く掘り下げることで、興味や動機がさらに高まり、生徒たちは個々の強みや能力を活用するやり方で物事を学んでいけるという、大きな見返りがある。教えるべき教材が増加していく過程で、これらの成果が犠牲になってしまうことがあまりにも多いが、こうした戦略をときおり活用するだけでも、大きな価値が生まれるだろう。

 

長年にわたり、ワシントン大学その他アメリカ全土の多くの大学において、創造的演出法(Creative Dramatics)は教員資格の取得に必須であった。予算削減により同プログラムは他の科目と同様に打ち切られたが、その価値は今なお明らかである。この手法がいかなる科目についても活気を与え、学習を促進し、印象的な学習体験の条件を作り出すために有用な方法であるということは、十分に認識されている。さらに、この手法は自己表現や創造的思考の発達のために、多くの機会を提供する。

 

生徒がこのプログラムに取り組む準備として、グループの中でいろいろな役回りになったり、たとえば風にそよぐさまざまな木々、といったグループ・パントマイムに参加したりして、自信を持たせることが有用である。ヴィオラ・スポーリンがその著書「シアター・ゲーム」の中で述べているような、生きている機械になってみるというのも、ウォームアップの活動として役立つであろう。クラスの半分はオブザーバー(観察者)の役をつとめる。教師は上下に動くピストンになってもよいだろう。そして参加する生徒にひとりずつ、別の動く部品になって機械に加わっていくように声をかける。お互いは腕や足でつながっており、それぞれ別々の動作をし、ふさわしい音を出してもよい。ピストンはどんどん早く動いて機械のスピードをあげ、それから徐々に速度を落とし、最後は停止してその場で静止する。教師はオブザーバーにこの機械は何を作っているのかを尋ねたり、機械の名前を提案してみる。正解・不正解がないのは明らかで、おおいに想像的思考を働かせることができる。次にクラスの残りの半分が機械になる。今回は1人の生徒が中央のピストンになり、最初のグループがオブザーバーになる。こうした活動を通じて、生徒は共同作業を学び、創造的演出を通じて自信を育んでいく。

 

小学校低学年の児童を対象とした初歩的な活動としては、以下のようなものもある。教師が、ウォルター・ド・ラ・マレ(Walter de la Mare)の詩、「誰かが(Someone)」を神秘的な調子で読んで聞かせる。

 

誰かがぼくのちっちゃなドアをノックした
誰かがノックしにやってきたんだ
本当に本当に間違いない
ぼくは音を聞いてドアを開けた
左 右と見てみたけど
そこには誰もいなかった
暗くて静かな闇でざわざわしていたのは
壁をたたく 忙しそうなかぶと虫の音だけ
森で甲高く鳴く ふくろうの声だけ
草の露が落ちる中 こおろぎの羽音だけ
だからぼくにはわからない
誰がノックしているのか全く全くわからない

 

教師はもう一度同じ詩を読みながら、忙しそうなかぶと虫、ふくろうの甲高い鳴き声、草の露を、やりたい生徒たちに音で表現してもらうのもよい。「この小さな家には誰が住んでいると思う?こんな夜更けにノックするのは誰?」子どもたちは人や動物、風などと答えるかもしれない。教師は子どもと一緒に、グループ活動としてそれぞれの役回りを演じてもよい。自信をつけていく中で、一人が家の中でもう一人がドアをノックするのに答える、という風に物語が発展するかもしれない。子どもの年齢によっては、詩から興味深い物語を創作し、計画を立ててこれを演じる、さらには生徒が観客になってこれを評価、そして再び演技へ、といったさらなる可能性も出てくる。

 

グループ内に自信が芽生えると、このような創造的演出を成功させるための有益な方法はいくつか考えられる。まず、強力な動機付けに始まり、引き続きストーリーやその他の題材を生き生きと、積極的に演ずる。再び話をする中で生徒とともに内容を検討し、役割を指名したり名乗り出たりすることを含む計画のプロセスへと導く。その後、ストーリーの演出に進み、演技を評価、改善の提案を組み込み再び演ずる。

 

いかなる科目にも、演劇を通じて活力を生み出す無限の可能性がある。歴史的場面を演じてもよいし、ストーリー上の問題を含む科学的あるいは数学的プロセスを説明する、また詩をドラマ化してもよい。いずれも学習を現実的で印象的にすることができる。たとえば、言語学の授業では、生徒がチョーサーのカンタベリー物語の序章を学んでいるかもしれない。中世風の帽子からくじをひいて、登場人物をそれぞれ選び、何名かでグループを作り、それぞれの登場人物の情報をうまく活用できるようなある場面を演じてみるかもしれない。あるいは、詩の授業でもよい。生徒が二人一組となり、一人が報道記者、もう一人が詩人となる。記者はマヤ・アンジェルー(Maya Angelou)、カール・サンドバーグ(Carl Sandburg)、あるいはエミリー・ディッキンソン(Emily Dickinson)に取材をしている。どちらの生徒も詩人が暮らしていた時代や場所、詩人の生活について知っていなければならず、いくつかの詩によく通じている必要がある。こうした学習のメリットは、単にレポートを書く、あるいはテストの問題に答える以上に、より深い読解能力や理解が求められることだ。さらに重要なのは、生徒が実際に詩人なりチョーサーの物語の登場人物となることで、関心や動機付け、理解力を高めることができる。

 

また、創造的演出法は、その他の積極的学習の中でも重要な要素となりうる。たとえば、話題が米国の南北戦争のような歴史上の出来事である場合を考えてみる。この話題に生徒の関心を集めるにはどのような動機付けを使えばよいのだろうか。アフガニスタンのような、現代における一国内の党派の争いについて議論するとか、南北戦争を扱った映画の一部を引用する、また、歌や詩なども考えられよう。授業そのものは、指針となる質問事項を記載した資料を読ませたうえでの、スライドやパワーポイントを使用した発表になるかもしれない。検討作業は、出来事を演じる、あるいは生徒が当時の人々になって誰かの家で戦争について論じている、といった形で二人一組もしくはグループで主な問題について議論をさせる。あるいは、グループで出来事の関連を示す概念図やフローチャートを作る、また想像上の兵士や将校が家族にあてた手紙を作ってみるのもよいだろう。能動的な作業は学習を総括するのみならず、生徒の理解度を評価する方法でもある。検討会に続き、生徒はこれを誰か別の生徒、あるいは他のクラスに教えたり、ストーリーやレポートを書いたり、また劇や歌を書いたり演じたり、という形で学習を応用する機会を見出せるかもしれない。

 

このような教授法はより時間がかかるのだろうか。答はイエスだが、この学習は学んで身についたことを維持できるのだ!学んだ話題を深く掘り下げることで、興味や動機がさらに高まり、生徒たちは個々の強みや能力を活用するやり方で物事を学んでいけるという、大きな見返りがあるわけだ。教えるべき教材が増加していく過程で、これらの成果が犠牲になってしまうことがあまりにも多いわけだが、こうした戦略をときおり活用するだけでも、大きな価値が生まれるだろう。プロセスの詳細については、New Horizons for Learningサイト内のBuilding's Tool Room、またThe Buildingの随所を参照されたい。

筆者プロフィール
ディー・デイッキンソン(Dee Dickinson)氏は、ニュー・ホライゾン・フォー・ラーニング(New Horizons for Learning)の創設者兼CEO (http://www.newhorizons.org/)。あらゆるレベルの教育に従事し、子どもたちの創造的芸術を指導、また教育テレビのシリーズ番組を制作。教育に関する国際会議9件も主催。 Email: building@newhorizons.org
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