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「子どもの福祉と権利」の国際シンポジウムを主催して

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10月14日に、岡山市で「子どもの福祉と権利」というタイトルのシンポジウムがありました。ありました、と他人事のように書いていますが、このシンポジウムは日本子ども学会とCRNの共催で行ったのです。海外からの講演者3人を含めて4人の講師に、主に子どもの権利に関する課題を話していただきました。

子どもの権利を考えるときに、常に付きまとう二律背反的(あちらを立てればこちらが立たず)な2つの視点が、シンポジウムの一番の焦点でした。その2つの視点とは、「子どもにとっての最大の利益」と「子どもの自己判断(決定)権」です。

従来は、子どもより大人のほうが「よく知っており」「判断力がある」から、子ども本人の意見(気持ち)ではなく、大人が判断すべきだという風潮が強かったのですが、現代社会ではより子どもの自己決定権を重んじるべきだ、という考え方にかたむいてきています。

このような解説を聞けば、私も含めて「ふーん、そうか」と思うだけでおしまいになってしまうかもしれません。しかしシンポジウムで講演者のお話を聞くにつれ、この二律背反が、家庭、学校、地域、職場、国際社会のあらゆる場面で、大きな問題になっていることがわかりました。皆さんにシンポジウムの中で議論された二律背反の具体例を紹介します。


離婚の際に子どもは両親のどちらが引き取るべきか?

離婚は不幸なできごとかもしれませんが、女性の自立が進んでいる国では日常茶飯事です。講演者の一人である英国のジェニー・ドリスコルさんによれば、英国も離婚率は高いとのことでしたが、低いと思っていた日本でも、離婚率は30%*1を超えていることを知りびっくりしています。大人である両親は、それぞれの考えに従って離婚するのですが、子どもは違います。そして多くの自立できない子どもは、(日本では)どちらかの親を選ばなければなりません。同じ子どもといっても16歳であれば、どちらか選ぶことは、(苦しいことですが)できるかもしれません。逆に3~4歳であれば、だれか(たとえば家庭裁判所の判事)が判断せざるを得ません。不条理なことですが、そうせざるを得ないことは納得できます。では16歳ではなく12歳ではどうでしょうか。11歳では・・・?

ここで、子どもにとっての最大の利益と本人の自己決定権の問題が生じるのです。本人はお父さんを選ぶかもしれませんが、多くの場合日本では母親が選ばれることが多いのです。比較的単純な二者択一(どちらの薬を使うべきか、など)に慣れてきた、医者頭の私には、とても難しい課題です。

子どもの権利を定めた、国連の「子どもの権利条約」は、難しい子どもの権利の原則を定めたものです。日本はすでに批准をしていますが、実際の条約に沿った法や条例の改定はこれからです。そして人権問題などでは世界のトップを走っている(と信じていた)アメリカでは批准されていないのです。

子どものwell-beingを追究するCRNにとって、子どもの権利は、最も重要な課題であることを実感したシンポジウムでした。


*1: ここでは、結婚している夫婦数に対する離婚数の比率を示しています。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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