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【イギリスの子育て・教育レポート】 第25回 イギリスで10歳男子はどのように英語力を伸ばしていったか ~2年目の記録~

要旨:

今回は、イギリスにおける子どもの英語習得のプロセスについて、滞在2年目の記録をもとに紹介する。渡英1年で英語力もそれなりに伸び、友だちもいると言うが、滞在2年目に入ってもなお、学校に行くことを渋っていた息子。日常会話に加え、「授業についていくための英語」を身につけることがストレス軽減になると考え、一緒に音読したり、問題集を解いて解説したりした。また、好きなマンガの英語版やコメディードラマなどで英語に触れる機会も増やした。その結果、徐々に成果が出始め、英語への自信がついてきた。また、友だち関係も変化した。共通の好きなゲームを介して、友だちが増え、仲が深まった頃から「学校行きたくない」と言うことが減った。この1年で、英語の本を読むようになったり、現地校の宿題も以前に比べて自発的に取り組むようになったりするなど学習面の変化も見られた。

Keywords: 橋村美穂子, イギリス, 小学校, 海外, 駐在, 赴任, 英語, 外国語, 教育, 現地校, 親, 保護者, サポート, ストレス, 不登校, 自信, 友だち

この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

「なぜそんなに、現地校に行きたくないのだろう?」――イギリス滞在2年目になっても、依然として「学校に行きたくない」気持ちを引きずっていた息子。しかし、2年目が終わろうとする頃、ずっと言い続けていたこの言葉を聞かない日が増えてきたのです!息子の中にどんな変化があったのか、1年間の記録をもとに考えてみました。すると、そこからは「自信」と「友だち」、2つのキーワードが見えてきたのです。今回は、我が家のイギリス滞在2年目の記録をもとに、海外で生活する子どもの精神面や英語習得のステップを紹介します。国や言語、渡航時の子どもの年齢や性別の違いはあると思いますが、海外駐在中、また駐在予定のご家庭の参考になればうれしいです。

なお、ご存じのように、言葉の習得は個人差が非常に大きいため、ここでご紹介する内容は一例であることをあらかじめご了承ください。

1年経っても「現地校はつらいよ」

イギリス滞在2年目の変化について説明する前に、1年目の息子の様子を簡単に紹介します。

海外に1年も住んでいるなら「英語はペラペラ」「外国人の友だちもたくさん」、そんなイメージをおもちの方もいらっしゃるかもしれませんね。中にはそういう子どももいるでしょう。しかし、息子は違いました。日本では英語をまったく学んでいなかったこともあり、滞在1年が経った時点の息子は「英語は日常会話なら少しできる程度。しかし、自信がないからか、自分からは言葉を発しようとしない」「誕生会に呼んでくれる友だちもいて、いじめもないようだ。しかし、会話が続かず、友だち関係は希薄」でした。1年以上通ってもまだ「現地校に行きたくない」と叫ぶ毎日。毎週土曜日、授業も休み時間もエンジョイしている日本人補習校に比べて、平日の現地校では自信をなくし、口も心も開かずに、何事にも消極的な様子が気がかりでした。学校には日本語を話せる人が一人もいないこともあり、自分らしさを発揮できていないように見えました。

2年目の終わり頃、「自信」と「友だち」に変化が見え始めた

2年目を振り返って、1年目との最も大きな変化を感じるのは「自信」と「友だち」です。失っていた自信を徐々に回復し、友だちが増え、仲が深まったことが収穫でした。同時に英語力も伸び、「学校に行きたくない」と言うことが減ったのです。しかし、ここに至るまでの道のりは平たんではありませんでした。どのようなステップを経て今に至るのか、まずは表1をご覧ください。

表1:息子の精神面と英語習得に関する2年目の記録
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以下、「自信」と「友だち」にスポットを当てて紹介します。

2年目は「授業についていくための英語」を強化し、自信が回復

何がそんなに「学校に行きたくない」気持ちにさせるのか、当時は見当がつきませんでした。ただ、よく話を聞くと、休み時間はよいが、授業がつらいようでした。イギリスに来てたった1年ですし、内容も高度になる5年生の授業についていくのが大変なのは明らか。そこで、英語の日常会話から一歩進んで、「授業についていくための英語」を強化することにしたのです。例えば、当時はまだ「平行四辺形」や「二等辺三角形」は英語で何というか知りませんでした。頭の中で答えがわかっても、その英単語を知らないと授業やテストでは答えられなかったのです。

息子は家庭教師と勉強することを拒んだため、まず、私も「一緒に取り組む」ことを心がけました。例えば、現地校の宿題だった音読は、夜寝る前に1ページごとに交互に読み合う、問題集を解いて間違った部分を解説、単語帳を作ってクイズを出し合うなどしました。また、1年目と同様に、好きなことと英語を組み合わせてインプット量を増やすことも続けました。好きなマンガの英語版を購入、アメリカのコメディードラマを毎日一緒に見るなど、息子の興味関心を見ながらよいと思ったものは何でも試すようにしました。

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写真1:現地校の宿題のために音読していた絵本や小説。
この1年で読む本がぐっと厚くなりました。一番右はマンガです。

その結果、1年が過ぎようとしていた6年生の9月頃から、学校のことはめったに話さなかった息子が「今日、嬉しかったこと」を徐々に話すようになりました。英文法のテストで、英語のサポートが必要な4人グループの中で最も点数がよく、ご褒美に先生からペンをもらったと嬉しそうに話してくれたのが最初でした。イギリス滞在年数が長い子よりもよい点数が取れたことが自信になったようです。その後、3,4年生の重要英単語のスペリングテストで全問正解し、ご褒美シールをもらったことも話してくれました。これまで、先生も私たちも息子の英語の進歩を褒めて認めていたのですが、自信はあまりないままでした。それはおそらく、自分の英語は進歩しているとはいえ、ネイティブスピーカーであるクラスメイトに比べると自分の英語力は著しく低く、常に劣等感を感じていたからだと思います。しかし、6年生になってから、クラスメイトに少しずつ追い付いてきたと感じられる成果が出始めて自信が回復し、以前に比べて登校への拒否感が減ってきたのです。

「共通の好きな遊び」を通して広がった トモダチの輪!

息子は現地校でも「友だちはいる」と話していました。しかし、表面的なつきあいで、日本人の友だちほど心を開いていないように見えました。それでも、1年目に比べたら徐々によい傾向が見られるようになったのです。クラスメイトとポケモンカードやオンラインゲームの話題で盛り上がることもあったそうです。しかし、それでも依然として登校に積極的になれませんでした。ところが、2年目が終わろうとしていたある日、日本の遊戯王カードが現地校で流行り始め、クラスメイト数人と遊戯王カードクラブを立ちあげることになったと嬉しそうに言うではありませんか!遊戯王カードが好きな友だちがいて、遊んでみたらとてもおもしろかったので参加することにしたそうです。現地校は学習に関係ないものを持っていくことに日本より寛容なのですが(もちろん、授業に支障が出たら禁止に)、このおかげで息子は救われました。息子は副クラブ長になり、一緒に部員勧誘のポスターを作るといった活動をしていたそうです。これを境に「学校に行きたくない」ということがさらに減りました。おそらく、共通の好きな遊びを通じて、会話や関わりが増え、友だちに心を開けるようになったことが学校に対する気持ちを変化させたのだと思います。英語の学習も友だち関係も「好きなもの」を介して広がっていくことを実感しました。

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写真2:登校中に会うクラスメイトと一緒に話しながら学校まで行くことが増えました。
会話のキャッチボールが活発になってきました。

「学校に行きたくない」が「学校に行けない」に変わった時期も

しかし、2年目はいいことばかりではありませんでした。学校に行けなくなった時期が何度もあったのです。現地校に行くのもストレスなのに、帰宅後も英語で英語・算数の問題集を解かなければいけない。おまけに、週末の日本人補習校の宿題もたくさんある。「勉強しなければいけない」のに「したくない」という葛藤が常にありました。また、なかなか勉強を始めようとしない息子を私が怒るというストレスも加わり、登校前に吐き気が出るなど体調が悪化し、次第に学校を休みがちになってしまいました。帰宅後の学習は息子自身が主体的に決めたことではなく、モチベーションが今ひとつ低かったこともストレス要因の1つだったと感じています。

「学校に行きたくない」、その言葉の裏にある本当の思いとは?

2年目は途中、学校に行けない時期が何度もありましたが、英語力が伸び、徐々に自信を回復し、友だち関係が安定してきました。結果的に「学校に行きたくない」ということが減りました。この1年で、英語の本を少しずつ読むようになり、現地校の宿題や6年生の終わりにある一斉学力テスト(イングランド地方のみ)に向けた勉強にも以前に比べて、自発的に取り組むようになりました。今、1年を振り返って感じることは、「学校に行きたくない」という息子の言葉の裏には、「クラスメイトに比べて、英語や勉強ができなくて嫌だ」と「いまいち、クラスメイトになじめなくて嫌だ」の2つがあったのではないかということです。「子どもは新しい環境への適応が早いから、大丈夫」とよく言われます。確かにそうだとも思います。英語がまったく話せなかったのに、現地校の授業についていき、友だちと一緒に楽しく遊ぶようになったのですから。しかし、その適応の過程では、子どもなりに劣等感や疎外感を感じており、それを乗り越えようと毎日、必死であるということも忘れてはならないと感じました。

次回は「イギリスのプログラミング教育」についてお届けします。お楽しみに。

筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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