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マウイのドゥーラ <3>

要旨:

マウイで実際に活動しているミッドワイフ(助産師)、ドゥーラ、ホームバースの現状についてのレポート。マウイ島には分娩施設のある病院が一つしかなく約98%の新生児がそこで生まれ、ホームバースは1~2%程度である。ホームバースを選択するのはほとんどが外からマウイに移住してきた人か出産の為に滞在している人で占められる。マウイのミッドワイフの数は10名程で、扱う件数は年間約30件程度。ドゥーラの数も10名以下で、その認知度も低い。利用者はほぼ100%がマウイにサポートする家族等がいない移住者で、病院出産の場合に雇われることが多い。妊産婦やその家族の意識改革の一環として、ミッドワイフを含めたドゥーラの存在は大きく、貴重な部分を担っている。

アロハ!

シリーズの3回目は、マウイで実際に活動しているミッドワイフ(助産師)、ドゥーラ、ホームバースの現状についてのレポートです。


マウイの人口は約14万人といわれています。出産場所は病院が圧倒的多数で、ホームバースを選ぶ人は全体の1~2%だそうです。分娩施設のある病院が一つだけなので、98%近くの赤ちゃんがそこで生まれるということです。では、どのような人がホームバース、あるいはアウト・オブ・ホスピタル(自宅や病院以外の場所、ミッドワイフ宅か一時的滞在先での出産)を選ぶのでしょうか。マウイで30年間アクティブに活動しているミッドワイフのティナに尋ねてみたところ、地元民(ローカル)は稀で、ほとんどが外からマウイに移住してきた人、あるいは、出産のために一時的に滞在している人、だそうです。人種、バックグラウンド、職業、年齢など、様々ですが、共通している点はお産を自然の行為の一つととらえている人たちで、病院でのむやみな医療介入や、機械的な扱いを受けたくないと思っている女性たちです。中には悲惨な病院出産体験をした人が、違う形を求めてホームバースを選択する場合もあります。マウイの病院の帝王切開率はドクターにもよるそうですが、アメリカ全体の数字と同様、30%近いということです。どうしても必要な場合ももちろんありますが、ドクター側の都合によることも多々あるそうです。

さて、ティナを含め、マウイで活動しているミッドワイフはほんの一握り、10名にも満たないほどで、そのうちの2名が一番アクティブに活動しています。扱う件数は、ミッドワイフ達によって把握されており、ほぼ年間を通じて同数、例えば2008年は各30件でした。他の方たちはアシスタントやバックアップに回ったりして相互協力します。ミッドワイフ間の連携は強く、お互いヘルプが必要な時は駆けつけられる体勢をとっています。

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この掲載のつい3日前に産まれた赤ちゃん、
乳房マッサージをしたら母乳の通りがずいぶん良くなりました。

病院に付き添って行くドゥーラの認知度や利用者はまだまだ低いようです。ドゥーラとして精力的に働いているカサンドラに聞いたところ、ドゥーラ付き添いの病院出産は全体の出産数に対して1?2%ほどだそうです。ドゥーラとして活動している人達も彼女が知る限りでは10人に満たないほど。またドューラからミッドワイフへ移行していく方もいます。ドゥーラを雇う人は、やはりマウイに家族のサポートがない移住組がほぼ100%。ホームバースでは、ミッドワイフやアシスタントたちがその役目も果たしてくれるので、病院出産の場合に付き添うケースで雇われるのがほとんどです。病院側の受け入れ体制はドゥーラと担当者との相性などもあるようですが、はじめは警戒心をもたれても、時間がたつにつれて和むことが多いようです。

マウイのベテラン・ミッドワイフであるティナは、彼女自身が9人の母親であり、現在9人の孫がいます。孫はほぼ全員彼女がとりあげています。彼女がミッドワイフになったきっかけは、最初の出産の時に病院で受けた処置に絶望感を感じたからです。普通分娩で、異常がなかったにもかかわらず説明もなく医療行為をされ、気持ちをくんでもらえず、赤ちゃんも別室につれていかれ抱かせてもらえなかったこと、母乳もすぐに与えられなかったこと、にとてもショックを受けたと語ってくれました。当時サンフランシスコに住んでいたのですが、産後すぐに勉強をはじめ、見習いで経験を積み4年間活動したあと、マウイに移住し、それ以来30年間ここをホームベースに活躍し、600人以上の赤ちゃんをとりあげています。子育てをしながらミッドワイフ業を続けていくのは並大抵の精神力、肉体力ではなかったと思いますが、強い情熱が彼女を動かしてきたのでしょう。現在、彼女は小学校の性教育で出産にいたるまでの体の仕組みを教えたり、後継者育成のためのミッドワイフ・クラスを開いたりもしています。またパートナーを交えた母親学級や、産後ブルーにならないよう新米ママたちの交流会を開いたりし、あらゆる角度から女性たちのサポート活動に従事しています。彼女は昔から伝わるミッドワイフリーのアート、助産の知恵や技術、心と体のサポート、とでもいいましょうか、を後世にも伝えていきたいという熱い思いを持っている人です。

ホームバースの場合、ミッドワイフが産後ドゥーラの役目も果たしてくれ、産後も自宅まで検診に来てくれます。母乳の相談、母体の回復、赤ちゃんの状態など親密なケア/アドバイスが受けられます。アメリカは諸外国のように国や自治体が保健師さんを自宅訪問に派遣してくれるようなシステムはありませんので、これは母子にとって非常に助かります。病院出産の場合は、赤ちゃんや母体の検診のために、産後1週間ほどで外出して病院まで出向かないといけないので、母子共に負担もかかります。

病院出産の場合、退院した後の産後ドゥーラのニーズは非常に高いと言えます。マウイではよく産後間もない母親が新生児を連れて買い物にでかける姿を見かけます。そうしなければならない状況にある方たちなのでしょうが、この時期に人ごみに出て行かなくてはならないのは、母子ともに大変なことも多いかと思います。ドゥーラ的な協力体制がコミュニティで自発的に起きることもありますが、行政の一貫でサービスが得られたらなお素晴らしいことでしょう。

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生まれたばかりの赤ちゃん、私も幸福感に包まれます

一方、一般の現代医学のドクターたちの中にはホームバースを敵対視する方たちがいることは否定できません。以前は協力的だったドクターたちも保険や訴訟問題など、様々な理由から境界線を引き、溝は深くなってしまいました。これは非常に残念なことで、ミッドワイフたちも相互協力ができる環境が一番望ましいと願っていますが、現状はなかなか厳しいようです。しかし、マウイは小さい島ながら、長年培われてきた自然回帰を基盤にしたライフスタイルを実践するコミュニティも網羅され、ホリスティック医療の開業医やセラピストも数多く、その種類も充実しています。こちらとの連携はすばらしく、サポートも得やすいです。

ナチュラルバース・コミュニティーの繋がりの強さは格別で、大きな家族のようなものです。ティナのように長年ミッドワイフをされていると、ビーチを一緒に散歩していても、必ずといっていいほど、とりあげた赤ちゃんや子供たち、そのお母さんたちに出くわします。今では親子二世代にわたり、ティナにとりあげてもらったケースも増えてきています。私の娘も自分の時はティナにお願いしたいと言っていました。妊娠中の細かい食生活の指導から、体調にあわせたホメオパシー(同種療法と訳されるホリスティック医療のレメディー療剤)やハーブ、サプリメントの使い方までホリスティックなアプローチで、人生経験からくる深いアドバイスをしてくれるのは何とも心強く支えになるものです。

妊産婦やその家族の意識改革の一環として、ミッドワイフを含めたドゥーラの存在は大きく、貴重な部分を担っています。世界平和はジェントルバースから、をテーマに、ここマウイにも一つ一つの命の誕生を温かく愛のブランケットで包み、見守る女性たちがいます。このような小さいながらも地道な活動が、ハワイを彩る虹のように人々の心に感動を与えていくでしょう。このスピリットがこれからも継承され続け、浸透していくことを祈りながら、私は世界中の仲間へと架け橋をつないでいくサポートをしていきたいと思います。

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<関連サイト>
二つとも英語のサイトになります。
Midwives Alliance of Hawaii
Maui Birth Source

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