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第5回ECEC研究会「世界の保育と日本の保育②~4カ国との比較から日本の保育の良さを探る~」

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第5回ECEC研究会を開催

2015年10月4日(日)、チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)主催の第5回ECEC研究会が新宿で開かれました。今回のテーマは、「世界の保育と日本の保育②~4カ国との比較から日本の保育の良さを探る~」。イギリス(イングランド)、韓国、オランダ、スウェーデンという4カ国での取り組みが紹介されたほか、各国と比較して見えてくる日本の保育・幼児教育の長所および世界のECECからの日本の保育・幼児教育への示唆について来場者同士が膝をつき合わせて話し合うワークショップ、日本の保育・幼児教育に何が必要かを研究者が語り合うパネルディスカッションが行われました。今回は第1弾として、研究会の概要をお届けします。各講演者の報告内容の詳細は、後日順次掲載していきます。

■実施概要

【日時】  2015年10月4日(日) 10:00~16:30
【場所】  ベルサール西新宿 イベントホール
【主催】  チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)
【共催】  ベネッセ教育総合研究所


ダイジェスト版動画はこちら

■プログラム
第1部 話題提供 各国のECECの紹介

【イギリス(イングランド)】 椨 瑞希子(聖徳大学大学院教授)講演録
【韓国】 金 玟志(聖徳大学短期大学部准教授)講演録
【オランダ】 松浦 真理(京都華頂大学准教授)講演録
【スウェーデン】 水野 恵子(元日本女子体育大学教授)講演録
【日本】 河邉 貴子(聖心女子大学教授)講演録
第2部 ワークショップ 来場者全員によるグループディスカッション

第3部 パネルディスカッション 詳細

第1部 話題提供 各国のECECの紹介
【イギリス(イングランド)】
保護者に配慮した包括的な改革は日本の保育・幼児教育への示唆に富む


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最初に椨瑞希子氏(聖徳大学大学院教授)が登壇し、イングランドのECECについて講演しました。

イングランドでは労働党政権(1997~2010)によって、ケア(養護)と教育の統一カリキュラムが制定され、すべてのECEC施設に対する政府機関の査察体勢が整備されるというように、1990年代後半からわずか10年ほどの間にECECが急速に充実したことを紹介。例としてケアと教育に分かれていた制度をただ統合しただけでなく、ECECの無償化を進めるなど、子どもを育てる保護者にも配慮した包括的な改革を行ったことを挙げ、日本への示唆に富むと話しました。

一方で、イングランドのECECの課題にも言及。例えば、ECEC拡充政策の実証的な成果を追求するあまり、子どもの発達に関するデータの収集・分析にECECの現場が忙殺され、保育者は子どもとじっくり向き合う時間がとりにくくなっていると指摘しました。


【韓国】
屋外での体験を通して子どもに気づきを促す「ヌリ課程」


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続いて登壇した金玟志氏(聖徳大学短期大学部准教授)は、韓国の幼保一元化の取り組みとその課題について論じました。

中心的に取り上げられたのが、「ヌリ課程」です。これは、全人教育の実践と子どもの創意性の育成とを柱とするカリキュラムで、2012年に制定され、翌年から全国の幼稚園とオリニジップ(日本の保育所にあたる施設)において3~5歳児を対象に実施されるようになったと、概要を説明。さらに、体を動かす屋外での遊びや子どもの興味・関心を伸ばす自然教育といった「ヌリ課程」で重視される活動について、幼稚園での実践例を紹介しました。

ただ、従来、教育よりも保育を重視してきたオリニジップでは、「ヌリ課程」が求める教育活動をすぐに幼稚園と同じ水準で行うのが難しいなど、幼保一元化の今後に関しては懸念もあると指摘。カリキュラムだけでなく保育の質も統合させられるように、幼稚園教諭と保育士の養成システムの違いを解消するといった工夫が欠かせないと述べ、やはり幼保一元化を進める日本でも注意が必要だと強調しました。


【オランダ】
先進国で最も幸福な子どもが受ける就学準備型ECEC


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3人目の講演者である松浦真理氏(京都華頂大学准教授)は、オランダのECECと義務教育とのつながりを考察しました。

まず、ECEC施設のうち幼稚園が1985年に小学校と一体化し、基礎学校(4歳から12歳)の幼児クラス(1・2年生)となったことなど、その制度を解説。幼児クラスの子どもが教師の主導のもとに言語や数字を学ぶ様子を紹介しました。3年生以上のクラスとの共通点と相違点も紹介する一方、制度導入の背景を紹介し、日本の今後を考える上での一事例として報告がなされました。一方、子ども自身の感じる幸福度が最も高い先進国はオランダであるというユニセフの調査データにも言及。就学を早期化させ、就学準備型のECECを行っていても、子どもが高い自己肯定感を抱いているという事実は注目に値すると述べました。

また、子どもに対する教育と保育との関係や園と家庭とのつながりについても、近年のオランダの動向を概観しました。


【スウェーデン】
社会が求める社会保障制度を充実させ、より良いECECを実現


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次に水野恵子氏(元日本女子体育大学教授)が登壇し、スウェーデンの育児と社会保障制度との関係に言及しながら、ECECについて語りました。

まず、スウェーデンでは、GDPに対する家族関係社会支出の割合、女性の就労率と出生率などが高いことをOECDのデータなどを基に日本と比較して示すとともに、保育者の就労時間なども具体的に挙げ、ワークライフバランスを継続して実現していることを紹介。これを支えるものとして、男女ともに取得できる長期の育児休暇制度などを挙げ、就労する女性が増えた1970年代から段階的に整備・拡張されてきていることを強調しました。

さらに、1975年に幼保一元化したスウェーデンのECEC制度を概説。1970年代以降、現在の日本よりも深刻だった待機児童の課題をいかに克服していったかなどを論じました。

また、ECEC施設の1つである就学前学校の様子も紹介し、民主主義・子どもの権利を尊重し、保育者が子どもの声を聴き、興味・関心をうまく伸ばしていると述べました。


【日本】
遊びによって21世紀型スキルを育む優れた実践を、継続・発展させるために


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5人目に登壇した河邉貴子氏(聖心女子大学教授)は、4カ国についての講演内容を振り返ってから、日本の保育・幼児教育の特質について分析。

インフォーマルグループによる遊びを重視し、遊びを通して総合的にねらいを達成していく教育が100年以上にわたって積み重ねられていると話しました。そして、子どもが遊びを通して、対象、対象とのかかわり方、対象とかかわる自分自身について学んでいると指摘。これは、課題発見・解決力やコミュニケーション能力といった、いわゆる21世紀型のスキルを育む優れた実践であり、今後も大切にしていくべきだと強調しました。

また、日本の伝統的な保育・幼児教育を維持し発展させていくためには、地域社会や家庭との関係を強化し、保育内容の見直しと充実、保育者の資質向上について絶えず考察していく必要があると述べました。

第2部 ワークショップ
保育者の資質の高さは日本の保育・幼児教育の特長

第2部では、来場者全員が8グループに分かれ、第1部で示された4カ国および日本の保育・幼児教育について話し合いました。保護者、保育者、研究者、小・中学校教諭、大学や専門学校などで保育・幼児教育を学んでいる人・一般企業の方、行政関係者というように、さまざまな立場や視点から、日本と各国の共通点や相違点、各国から得られる日本への示唆、日本の保育・幼児教育の長所が論じられました。

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日本への示唆としてはワークライフバランスの実現についての声、日本の保育・幼児教育の長所としては保育者の資質の高さについての声が多くあがりました。

話し合いの内容はグループごとに模造紙にまとめられ、オブザーバーとして各グループに1人ずつ加わった研究者によって発表されました。

■グループワーク 話し合い内容の例

◎日本と各国の共通点
●子どもを尊重し、子どもの幸福を願って保育・幼児教育に取り組んでいること〈多数〉
●子どもの幸福度が、保護者の幸福度に大きな影響を受けること〈多数〉
●幼保一元化が課題となっていること〈多数〉

◎日本と各国の相違点
●日本ではワークライフバランスが保たれていない〈多数〉
●オランダやスウェーデンは日本よりずっと市民性が高いと感じる。日本では、我が子のことばかりに意識が集中し、子ども全体に対する当事者意識が低い
●日本は保育時間が長すぎる。朝7時から夜8時までというような長時間保育は、保育者にとって、保護者にとって、何よりも子どもにとって良いことなのだろうか
●育児休暇制度の充実度合い。取得しやすい環境を日本でも整えていく必要がある
●日本の保育者には、研修を含めて園外と交流する機会が少ないのではないか

◎日本への示唆
●職員室がほしい
●教師1人が見取る子どもの人数など、保育・幼児教育の構造の質をどのように保障するかについて、国レベルで議論していきたい
●スウェーデンのように保育時間を短縮するためには、何をすべきか
●多様性を認め、尊重するような社会をいかにつくっていくか
●育児をする家庭に対する国家の支援を充実させる必要を、あらためて感じた
●子どもの認知的な側面と非認知的な側面とを、いかにバランスよく測っていくか

◎日本の保育・幼児教育の良さ
●保育者の資質の高さ。子どもを丁寧に見取り、きめ細かく支援している〈多数〉
●連絡帳。子どもの日々の様子についてきめ細かく書いてくれているので、読み返すことで子どもの変化が可視化される。保護者の育児の支えであり、子育てツールである
●子どもが身の周りのものを遊びに自在に活用できるところ
●保育所の給食が安全でおいしいところ。これは、日本が食生活を子どもの権利として尊重していることの表れだと思う
●折り紙など、日本の保育・幼児教育が伝統的に行ってきた遊び。これは、世界にもっと発信していくべきだと思う
●雛祭りや七夕といった伝統行事を大切にしているところ

第3部 パネルディスカッション
日本の保育・幼児教育の現場で、いま、何をすべきか

第3部では、榊原洋一氏(CRN所長・お茶の水女子大学副学長)の司会のもと、第1部の登壇者5人に、上垣内伸子氏(十文字学園女子大学教授)、星三和子氏(名古屋芸術大学名誉教授)、一見真理子氏(国立教育政策研究所総括研究官)を加えた8人によるパネルディスカッションが行われました。

主な論点は、日本の保育・幼児教育の現場において、今、何ができるか、何をすべきか。優れた実践事例を参照しつつ、それぞれの園で実現可能な工夫を重ねることの重要性、目の前の子ども1人ひとりを尊重し、自尊感情を育むことの大切さなど、8人がそれぞれの立場から自説を述べました。また、保育・幼児教育のねらいや理念について、保育者、研究者、保護者が立場の違いを超えてじっくり語り合うことの必要性は、複数のパネリストが訴えました。

最後に河邉氏が、子どもと保育者が遊びを構築することが日本の保育・幼児教育における遊びの考え方であり、子どもの成長を包括的に支える最先端の実践であると述べ、会場の保育者に「これからも自信をもって取り組んでいきましょう」とメッセージを送りました。

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今回のシンポジウムでは、専門家による一方向的な講演だけでなく、来場者全員によるディスカッションも行いました。保育・幼児教育にかかわる多様な立場から、子どもにとって良い保育・幼児教育とは何か、保育・幼児教育を充実させるために何が必要かといった根源的なテーマに迫る議論がなされた結果、各国の特徴や日本の良さが浮き彫りになりました。各国の長所を日本にいかに取り入れ、また日本の良さを世界にいかに発信していくか、皆様とともに考えていきたいと思っていますので、ご意見やご感想をぜひ、気軽にお寄せください。

編集協力:(有)ペンダコ

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