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※「CRNアジア子ども学交流プログラム」は、2018年3月19日をもって「CRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)」に改名いたしました。
Interactive Activities
●CRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)第2回国際会議開催速報
CRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)第2回国際会議が、チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)とベネッセ教育総合研究所、お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所の共同開催により、東京都内で開催されました。今回は、「社会情動的スキルをどう育むか~メディア、遊び、特別支援の観点から考える~」というテーマの下、保育・幼児教育の研究者や保育者、小児科医らが中国・インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・台湾・タイ・アメリカの各国・地域から一堂に会し、日本の研究者・保育者らと膝をつき合わせながら、2日間にわたって、様々な乳幼児期の教育課題について論じ合いました。その概要をお伝えします。プログラムの詳細な内容は、後日順次掲載していきます。(なお、登壇者の肩書は当時のものです)

社会情動的スキルと認知的スキルの密接な結びつき
今回の会議では、中心的テーマである社会情動的スキルについて、研究者による3つの基調講演を設け、その重要性を多角的に分析しました。1日目の午前中には、日本学術振興会の安西祐一郎理事長と、インドネシアのジャカルタ国立大学のファスリ・ジャラル教授の講演が行われました。
安西理事長は、グローバル化の進展に伴って社会が急激に変化する中、それに応じて学びも変えていかなければならないと強調し、未来に生きる子どもたちのために必要な5つの資質・能力として、「主体的に生きる」「多様な人々と生きる」「協力して生きる」「感謝して生きる」「誇りにして生きる」を挙げました。そして、それらの発達が社会情動的スキルの発達と不可分に結びついていることを、認知心理学の研究成果などを援用しながら解説しました。また、主体的・対話的で深い学びを重視する次期学習指導要領の理念を示しながら、認知的スキルの育成に偏っていた従来の教育を見直す必要性に言及。ベネッセ教育総合研究所の調査結果などに基づきながら、社会情動的スキルの発達と認知的スキルの発達には相関関係が見られるとし、両者のバランスのとれた育成が非常に重要であると述べました。(詳細な講演録はこちら)
ファスリ・ジャラル教授は、インドネシアが近年力を入れている、包括的な幼児教育の実現を目指す政策について発表。以前は、家庭の経済的格差が深刻な教育格差をもたらしていたが、各省庁間、さらには地域社会との連携を図りながら、行政的な支援を強化した結果、経済的に厳しい状況にある農村部の家庭にも幼児教育が根づきつつあると語りました。幼児教育が受けられるようになった子どもの社会情動的スキルには顕著な伸びが見られたと、様々な調査データを示しながら解説。そうした子どもは、小学校入学後の認知的スキルの定着も著しいと述べ、社会情動的スキルと認知的スキルとの密接な関係をあらためて確認しました。(詳細な講演録はこちら)
2日目の午前中には、3つ目の基調講演として、お茶の水女子大学の菅原ますみ教授が登壇し、発達心理学を中心とする研究知見に基づいて、社会情動的スキルがどのように発達していくのか、その要因を解説。例えば、協調性は、経験や環境を始めとする後天的な要素が発達に大きな影響を及ぼす資質・能力の1つであり、4歳頃から急速に身についていくといった例を示しながら、社会情動的スキルの発達にとって、就学前の時期がいかに重要な意味をもつかを語りました。また、調査データを基に、家庭の所得と子どもの養育との関係についても考察。貧困によるペアレンティングの質の低下が子どものウェル・ビーイングに影響を及ぼすという調査結果に触れ、子どもの発達阻害を食い止めるためには適切な支援が不可欠であると述べました。(詳細な講演録はこちら)

社会情動的スキルを育む環境について、3つの切り口から論議
1日目の午後には、3つの分科会を開催。各分科会に座長1人、発表者3人を配し、社会情動的スキルの育ちと密接に関連するテーマを、個別に掘り下げていきました。
分科会①では、「新しい時代のメディアと子ども」と題し、デジタル・メディアや人工知能(AI)と教育の関係について検討。発表者は、いずれも、園・学校・社会がデジタル・メディアを有効に活用し、さらに発展させていけるという点で、見解が一致していました。質疑応答の時間では、「感情をもたないロボットが教壇に立ったとして、ロボットに情動的な教育が行えるだろうか」といった質問が上がりました。これに対して、発表者の1人である東京大学の開一夫教授は、技術がさらに進歩すれば、ロボットが感情をもつ日がくるかもしれないと予測しました。また、「デジタル・メディアを保育園や幼稚園でどのように活用したらよいか」といった質問には、同じく発表者である愛知淑徳大学の佐藤朝美准教授とNHKエデュケーショナルの坂上浩子取締役が、家族向けのアプリや教育番組の録画を示しながら具体的に答えていました。(詳細な講演録はこちら)
分科会②では、「遊びを科学する」というテーマの下、発表者がそれぞれ異なる切り口で遊びを論じました。台湾の台北教育大学の張世宗教授は、子どもと大人が一緒に楽しめる遊びとして、手を動かして工作する遊びを推奨しました。マレーシアのスルタン・イドリス教育大学(UPSI)国立子ども発達研究所(NCDRC)のソピア・ヤシン所長の発表には、2つの柱がありました。1つは遊びの重要性で、子どもは遊び込む中で、本当に楽しいことを追究しているということを、脳科学の研究に基づいて語りました。もう1つは、保育者が子どもの遊びにヒントを得て、それが発展するようなカリキュラムを作っているという、マレーシアの保育園での実践例でした。十文字学園女子大学の星三和子名誉教授は、アジアの国の幼児教育における遊びについて、それぞれの特性や共通性などについて検討しようと提案。子どもの自発的遊びが社会情動的スキルの発達に対していかに重要な役割を果たすか、子どもの遊びに大人はどのようにかかわるべきかなどが、主要な論点となり、発表者間での活発な意見交換が行われました。(詳細な講演録はこちら)
分科会③のテーマは、「特別なニーズをもつ子どもたちへの支援を考える」。1人目の発表者である、マレーシアの陳小児・家族専門クリニックの陳宝珍医師は、「特別なニーズ」の定義について考察。自閉症やADHDといった先天的な障害だけでなく、虐待を始めとする深刻な経験によって、誰もが特別な支援を必要とする可能性があると述べ、特別なニーズを自分事として捉えなければならないと訴えました。2人目の発表者である、フィリピンのデ・ラ・サール大学のテルマ・ミンゴア助教授は、フィリピンの特別支援教育への支援について紹介。教師が特別なニーズをもつ子どもにしっかり手を差し伸べられるよう、大学の教員養成課程には、そうした教師を支援するカリキュラムが設置されていると述べました。3人目の発表者である、太陽の子保育園の大庭正宏園長は、まず、日本の特別支援の歴史を振り返りました。そして、「障害児」「非障害児」に二分し、それを統合させるという考え方に立つ従来の統合保育に対して、障害と非障害の境界は、特に乳幼児期においては曖昧である点、障害の有無による二項対立を招きやすい点などから、限界があると解説。次いで、自身の園で実践する「インクルーシブ保育」を紹介しました。これは、障害の有無にかかわらず、子どもが健康・安全で、情緒の安定した生活ができる環境を整え、自己を十分に発揮しながら活動できるようにした保育です。その実現には、園としてのユニバーサルデザイン、基礎的な環境整備、合理的な配慮が不可欠だと語りました。(詳細な講演録はこちら)
分科会のまとめでは、各分科会での論議の概要をそれぞれの座長が発表し、全体で共有。それを受けて、中国の華東師範大学の朱家雄名誉教授が総括しました。朱名誉教授は、3つの分科会のテーマいずれも、答えを見いだすのは難しく、だからこそ論議には非常に大きな意味があるとし、多様な意見を出し合うことが重要だと語りました。(詳細な講演録はこちら)
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社会文化的背景の異なる4か国の育児を比較して見えてくるものとは?
2日目の午後には、パネルディスカッションが行われました。
最初に、ベネッセ教育総合研究所次世代育成研究室の持田聖子研究員が登壇し、同研究所が2017年に社会文化的背景の異なる4か国(日本・中国・インドネシア・フィンランド)の都市部で、幼児期の子どもをもつ母親を対象に行った「幼児期の家庭教育国際調査―4か国の保護者を対象に―」の結果を発表。同研究所では、社会情動的スキルを、「好奇心」「協調性」「自己主張」「自己抑制」「がんばる力」から成る「学びに向かう力」と位置づけていますが、子どもの学びに向かう力と保護者のかかわりについて、4か国のデータを比較しながら紹介していきました。同調査では、母親の養育態度を「寄り添い型」「保護型」に2分しており、「寄り添い型」の養育態度には、学びに向かう力の発達との相関が見られると語りました。
次に、同調査に参加した4か国の研究者が、自国の調査結果について分析。
白梅学園大学大学院の無藤隆特任教授は、日本の母親に見られる子育て意識の特徴として、他人に迷惑をかけないようにするという伝統的な価値観を保持しながら、「子ども自身の考えを尊重し、子どもの自立を促している」「子どもへの過度な期待を避け、子どもの自主性に任せようとしている」といった点を挙げ、そうした子どもの意欲や思考を促す養育態度が、学びに向かう力を伸ばしているのではないかと推論しました。
中国の華東師範大学の周念麗教授は、中国の母親が子どもの自己主張を非常に重視する半面、子どもの自立性についてはあまり尊重しないとし、そうした矛盾が生じる背景には、自国の伝統・文化を保持しようとする思いと、西洋の文化への表層的な憧れという2つの心理的要因の衝突があるのではないかと指摘しました。
インドネシアのジャカルタ国立大学教育学部のソフィア・ハルタティ学部長とエリヴァ・シャムシアティン講師は、同国の母親が子どもに絵本や知育玩具をあまり与えず、読み書きや算数といった認知的スキルばかりを重視する傾向にあると分析。そこで、育児についての調査を継続するとともに、書籍や幼児教育の教材を家庭に支給するといった政策を通して、学びに向かう力の発達への意識づけを促していく必要があると述べました。
フィンランドについては、来場できなかったヘルシンキ大学の研究者がビデオメッセージを寄せ、ベネッセ教育総合研究所次世代育成研究室の高岡純子室長が補足説明を行いました。高岡室長は同国の親子の特徴として、「規則正しい生活リズムが自然と身についている」「就業時間が短く、父親が育児参加に積極的」「保育園では読み書きを学ぶが、家庭では学習を強制するようなことがない」「デジタル機器が普及している」といった点を挙げました。また、同国の母親には「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」という思いが非常に強いことが、同調査で見えてきたと語りました。
最後に、CRNの榊原洋一所長の司会により、パネリストと来場者とのフリーディスカッションが行われました。ユネスコが定義した社会情動的スキルと同研究所が用いる学びに向かう力の関係性、同調査の方法論、伝統的な子育ての喪失とインターネットの普及との相関と、質疑応答は多岐にわたりました。「認知的スキルと非認知的スキルの両方を最も効果的に涵養するためには、どのようなプログラムが考えられるのか」という極めて難しい問いも発せられましたが、榊原所長の次のような回答には、会場全員が納得したようでした。すなわち、「今のところ、その処方箋をはっきりとは示せませんが、遊びが両スキルの発達に非常に大きく影響することは確実です」と。(詳細な講演録はこちら)

未来の市民である子どもたちのために
パネルディスカッションの後には、今回の会議の締めくくりとして、CRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)理事全員によって共同声明が作成・発表されました。社会情動的スキル・学びに向かう力の涵養、遊びについての多角的探究、新しいメディアと子どもの関係についての継続的考察、特別なニーズをもつ子どもへの支援の追究といった多様な課題に、各国が今後も全力で取り組んでいくことを、「子どもは未来である」というスローガンの下、力強く宣言しました。
今回の会議は、こうして幕を下ろしました。「メディア」「遊び」「特別支援」という切り口を設けたり、認知スキルとの相関を具体的に示したりしながら進めてきた2日間の論議が、社会情動的スキルに関する知見の深化に少しでも貢献できていたら幸いです。CRNでは、社会情動的スキルを涵養する必要性やその方法論について、子どもにかかわるすべての人々と共有し、検討・検証し合っていきたいと考えています。今後の活動にどうぞご期待ください。

●CRNアジア子ども学研究ネットワーク第2回国際会議概要
大会テーマ:
社会情動的スキルをどう育むか
~メディア、遊び、特別支援の観点から考える~
子どもたちの「よく生きる」に欠かせない「社会情動的スキル」。そのスキルの育成に向けて、私たち大人にできることは何でしょうか。改めて「社会情動的スキル」とは何かを整理し、どう育んでいくのかをアジア諸国の研究者、現場の先生方とともに、学際的な視点で議論し、解決策を探ります。
アジアの子どもたちの「Well-being」に貢献できるような、交流の場にしたいと考えています。
テーマ | 社会情動的スキルをどう育むか ~メディア、遊び、特別支援の観点から考える~ |
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日時 | 2018年3月17日(土)、18日(日) (受付開始:9:20) |
場所 | 東京 お茶の水女子大学 共通講義棟2号館201 http://www.ocha.ac.jp/help/accessmap.html |
言語 | 日、英、中 三言語同時通訳 |
主催 | チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)、ベネッセ教育総合研究所(BERD) |
共催 | お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所 |
後援 | 日本子ども学会 |
参加費 | 無料(事前登録制、先着順。定員の300名に到達次第、締め切らせていただきます) |
●プログラム
1日目:2018年3月17日(土) (受付開始:9:20)時間 | 内容 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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9:50-10:00 | 開会式 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
10:00-12:00 | 基調講演1:安西 祐一郎/日本(日本学術振興会理事長) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
基調講演2:ファスリ・ジャラル/インドネシア(ジャカルタ国立大学教授) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
12:00-13:00 | お昼休憩 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
13:00-16:00 | 分科会 ①~③ (社会情動的スキルを育む「環境」について 「メディア」「遊び」「特別支援」を切り口に議論します) |
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16:00-16:30 | 休憩 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
16:30-17:30 | 分科会のまとめ 座長:朱 家雄(中国・華東師範大学名誉教授) 発表者:各分科会の座長 |
時間 | 内容 | ||||||||||||
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10:00~11:00 | 基調講演 3: 菅原ますみ/日本(お茶の水女子大学教授) | ||||||||||||
11:00~13:00 | ポスター発表・お昼休憩 | ||||||||||||
13:00~15:30 | パネルディスカッション: 国際調査から見る「社会情動的スキル」と親子のかかわり
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15:30~16:00 | 共同声明: CRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)の理事全員 |
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