日本の子どもの自尊感情が諸外国に比べて低いのではないか、という懸念は、保育関係者の間に広く共有されています。私自身は、本当にそうかな、と疑問に思っているのですが、最近アメリカ小児科学会の学会誌を読んでいたら、本項のタイトルであるunconditional regardに関する研究論文が掲載されていました。病気や障害などに関するタイトルの中で、この小児科とはあまり関係のなさそうなタイトルに引き込まれて読んでみたところ、子どもの自尊感情に関連する興味深い内容の研究論文でしたので、その内容を皆さんと共有したいと思います。
研究を行ったのはオランダの研究者です。多数の11歳から15歳の子どもに研究に参加してもらいました。研究方法は次のようなものです。学校の成績発表(通知表)の3週間前に、研究に参加してもらった子どもたちを3つのグループに分けます。第1のグループの子どもたちには、「うまくいっても、失敗しても、いつでもあなたのことを認めてくれる人のことを思い出して、その経験についての作文を書いてください」と依頼しました。第2のグループには、「うまくゆくと褒めてくれるけれど、失敗するとあなたのことを褒めてくれない人のことを思い出して作文してください」と依頼しました。第3のグループには対照として、「誰でもいいので、失敗したときにあなたのことを非難した人のことを書いてください」と依頼しました。この思いかえしと作文という作業が終わって3週間後に、通知表が渡されました。成績が上昇した子どもと、低下した子どもの割合は3つのグループの間で差はありませんでした。通知表を見たあとに、研究に参加した子どもたち全員に、自分自身に対するネガティブな気持ちについての心理テストを行いました。成績がよくなった子どもは、どのグループでも、ネガティブな気持ちが減少し、グループによる差は見られませんでした。ところが、成績が悪くなった子どもでは、第2、第3のグループでは予想通りネガティブな気持ちが増加したのですが、第1のグループではネガティブな気持ちの有意の増加がみられなかったのです。
自分のことを無条件に認めてくれている人のことを作文に書いて思い出す、という心理的作業をすると、3週間後であっても、子どもの自分自身の評価に対するネガティブな影響を緩和する効果があったのです。思い出すだけでこれだけ効果があるのですから、実際に自分のことを無条件に認めてくれるという体験があれば、その効果はさらに大きいことが予想されます。
自分の行いによらず、いつでも無条件に受け容れてくれる人がいるというだけで、子どものストレスへの抵抗力がおおいに増すということを実証した貴重な研究であると思います。
この論文を読みながら、注意欠陥多動性障害のために、幼稚園で失敗ばかりしていたTさんという女性のことを思い出しました。彼女は、その後自分の障害を乗り越え立派な大人になっていますが、ある講演会で「私はどんなにつらいときでも、幼稚園のある先生が図画工作の活動時間に言ってくれた、『○○ちゃん、あなたは本当に上手にできるじゃない』という言葉を思い出すと、元気が出てきて乗り越えることができました」と話しておられました。たった一言の励まし言葉が、50年以上経過してもまだその人を元気づけているという感動的な話でした。
また、アメリカで行われた、子ども期における生育環境が子どもの発達に及ぼす影響を長期にわたって追跡調査した研究(NICHD)では、子どもの発達に良い影響を与える因子として、保育者の感受性とならんで、「肯定的な働きかけ」が明らかになりました。
子どもが良い成績をとったり、我慢したりした時に、子どもを褒めることは比較的容易です。でも、逆に成績が悪かったり、期待した行動をしないと、どうしても注意したり叱ったりしがちです。もちろん、叱咤激励という言葉にもあるように、叱るという行為の裏には、「子どものため」という気持ちがあることも多いのだと思います。しかし、ご紹介した論文が明らかにしたように、子どものストレス抵抗力をつけるのにもっとも良い「栄養」は、無条件の受容なのです。
注:出典 Unconditional Regard Buffers Children's Negative Self-Feelings Pediatrics 134巻 1119-1126, 2014
自分のことを無条件に認めてくれている人のことを作文に書いて思い出す、という心理的作業をすると、3週間後であっても、子どもの自分自身の評価に対するネガティブな影響を緩和する効果があったのです。思い出すだけでこれだけ効果があるのですから、実際に自分のことを無条件に認めてくれるという体験があれば、その効果はさらに大きいことが予想されます。
自分の行いによらず、いつでも無条件に受け容れてくれる人がいるというだけで、子どものストレスへの抵抗力がおおいに増すということを実証した貴重な研究であると思います。
この論文を読みながら、注意欠陥多動性障害のために、幼稚園で失敗ばかりしていたTさんという女性のことを思い出しました。彼女は、その後自分の障害を乗り越え立派な大人になっていますが、ある講演会で「私はどんなにつらいときでも、幼稚園のある先生が図画工作の活動時間に言ってくれた、『○○ちゃん、あなたは本当に上手にできるじゃない』という言葉を思い出すと、元気が出てきて乗り越えることができました」と話しておられました。たった一言の励まし言葉が、50年以上経過してもまだその人を元気づけているという感動的な話でした。
また、アメリカで行われた、子ども期における生育環境が子どもの発達に及ぼす影響を長期にわたって追跡調査した研究(NICHD)では、子どもの発達に良い影響を与える因子として、保育者の感受性とならんで、「肯定的な働きかけ」が明らかになりました。
子どもが良い成績をとったり、我慢したりした時に、子どもを褒めることは比較的容易です。でも、逆に成績が悪かったり、期待した行動をしないと、どうしても注意したり叱ったりしがちです。もちろん、叱咤激励という言葉にもあるように、叱るという行為の裏には、「子どものため」という気持ちがあることも多いのだと思います。しかし、ご紹介した論文が明らかにしたように、子どものストレス抵抗力をつけるのにもっとも良い「栄養」は、無条件の受容なのです。
注:出典 Unconditional Regard Buffers Children's Negative Self-Feelings Pediatrics 134巻 1119-1126, 2014