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名誉所長ブログ

Koby's Note -Honorary Director's Blog

絆という言葉

2012年2月16日掲載
「絆」(きずな)という言葉が、昨年の3.11の東日本大震災以来盛んに使われるようになったように思う。しかし、この言葉は30年近く前にも、盛んに使われた時期があった。

「絆」という言葉を国語辞典で引いてみると、「動物などをつなぎ止める綱(つな)」とともに、「断つにしのびない恩愛」とか、「離れがたい情愛」ともある。

言葉は使われているうちに変わるものである。3.11後の絆は、「恩愛」と「情愛」より広い、人と人をつなぎとめる、人間関係を維持する「心の絆」のような意味であろう。30年近く前のそれは、「母と子の絆」として使われたもので、母と子を結ぶ、母と子の新しくできる人間関係を作る「心の絆」の意であった。「母と子の絆」は、私が発表した論文にも関係しているものと思う。

1950年代に入って、国土が戦場にならずに、戦勝国になったアメリカで「子ども虐待」が大きな問題になり始めた。そこで小児科医は、母と子、父と子の人間関係は、どんな仕組みで作られるのかについて考え始めたのである。1960年代に入って、アメリカのオハイオ州、クリーブランドのウエスタン・リザーブ大学の小児科医ケネルとクラウスは、未熟児が虐待のハイリスク要因になることから、母と子の絆を作り上げる仕組みに「母子相互作用」という考え方を発表した。

健康にして健全な母子関係を作るのは、母と子のお互いのふれあい豊かな相互作用によると考えたのである。母親は、わが子を抱き、語りかけ、眼と眼を合わせるなど、お互いがふれ合うことにより、母性愛に目覚め、わが子を可愛いと思うようになる。同時に、赤ちゃんは、優しさを体験する中で母親に愛着をもち、母親を慕うようになると考えた。このお互いのふれ合いによって、母と子の心の絆ができるという理論なのである。

裏を返せば、出生直後から未熟児はインキュベーター(保育器)に入れられて育てられるので、母親とわが子はお互いにふれ合うことができず、母と子の心の絆ができにくく弱いものである。したがって、母親のわが子を虐待する頻度が高くなると説明できるのである。

クラウス・ケネルの論文をよむと「母子相互作用」は"mother-infant interaction"と書かれ、その結果、母と子の間には"tie"ができ、"bonding"すると書かれている。この"tie"とか、"bonding"の結果できる"bond"をどう訳すか迷った。その時、「絆(きずな)」という言葉を思いついたのである。そんなことで、クラウス・ケネルの理論の紹介や、育児の講演などで「母と子の絆」という言葉を使ったので、当時広まったものと思う。

その昔、亡くなられた河合隼雄さんと対談した時、「絆」は「綱」である以上、切れることがあると、おっしゃった事を印象的に覚えている。心理相談で、いろいろな事例をご覧になられていたからであろう。しかし、東日本大震災の復興のためにも、わが国の未来のためにも「人と人の心の絆」は勿論のこと、人生の出発点となる「母と子の心の絆」も切れないものであって欲しいと思う。

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