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名誉所長ブログ

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日本アレルギー学会の春季大会に出席して

日本アレルギー学会の春季臨床大会が5月14日(土)、15日(日)の2日間にわたって、千葉の幕張メッセで開かれ出席した。

若い時には、私も子どものアレルギーを勉強し、診療もしていたので、日本アレルギー学会設立時にはお手伝いさせて戴いた。もう30年以上も前のことである。学会は、東大の先輩で内科の大島教授や医科学研究所教授のアレルギー研究者の方々が中心になり、日本全国の専門家の方々とはかって作られたものである。私も、東大小児科の教授になったばかりであったが、小児アレルギーも教室の看板にしていたので、誘われてお手伝いしたという経緯がある。その上、医学部同級生の宮本教授が大島教授の後を継ぎ、学会の理事長もされたこともあり、親しみの深い学会のひとつで、都合のつく時には必ず出席して勉強することにしている。

アレルギー学という学問は大変幅広く、年齢を問わず、また体の部分も問わずに病気が起こるもので、アレルギー学会は、基礎医学の研究者ばかりでなく、内科、小児科、外科、老人科、婦人科、耳鼻科、眼科、皮膚科などの専門医も多数参加する。したがって、学会員数は多く、正にマンモス学会なのである。

そのため、学会設立以来の毎年秋に開かれていた学術集会を分けて、秋は基礎アレルギー学を中心にして残し、春には臨床、すなわちアレルギー疾患を中心にした学術集会を、春季臨床大会として開催するようになったのである。そして、今年で23回目になるのである。当然のことながら、二つに分けても、春と秋それぞれがマンモス学会と言える大きな学会で、広い良い会場のある都市でなくては、なかなか開けないとさえ言われている。

今回の大会長は、千葉大学大学院小児病態学教授の河野陽一先生で、免疫・アレルギー学の基礎研究から始まって、臨床小児アレルギーの分野でも多くの業績を上げられ、今回の第23回大会の会長を引き受けられることになったのである。その上、幕張メッセという立派な会場に恵まれて、良く企画されたプログラムのもとに学会は行われた。

日本子ども学会の理事会があったりして、残念ながら全部は出席出来なかったが、大変勉強になった。特に、ドイツのマールブルク大学のHolger Garn教授の、ヨーロッパで行われているコホート研究の発表は興味深かった。「コホート」とは、300~600人の兵士からなるローマ軍団のことを意味し、「コホート研究」とは、疫学の追跡研究のことを指す。

この10年来アレルギーの原因として、「過剰衛生仮説」という考えが言われている。「農家の子どもの方が、都会で育つ子どもに比べてアレルギー疾患が少ない」、「発展途上国の子どもの方が、先進国の子どもに比較して、アレルギー疾患の頻度が低い」、「ひとりっ子で育った子どもの方が、兄弟の多い家庭で育った子より、アレルギー疾患を発症する確率が高い」など、疫学研究の成果が次々と報告されたのである。生まれてからの育つ環境が余りにも衛生的で、きれい過ぎるのが原因で、その結果、アレルギーがおこるのだという考えである。考えてみれば、私が子どもの時には、兄弟も多く、泥んこ遊びは日常茶飯事であり、銭湯に入るのが普通であり、現在の様に毎日シャワーというような清潔な生活ではなかった。

そもそも「過剰衛生説」は、20世紀末のスウェーデンとエストニアで行われた出生コホート研究、即ち二つの国で出生の時期をそろえて追跡し、育つ過程の中で、子ども達にどんなアレルギー疾患が、どのようにおこるか追跡した疫学研究が最初のデータであった。スウェーデンの学者が、農業国エストニアよりスウェーデンの方が衛生的で清潔と考えて、アレルギーの発症頻度を比較したのである。爾来、ドイツばかりでなく、イギリス、さらにはEUとしてまとまって行なったいろいろなコホートの研究が次々と行われているのである。その成果をGarn教授はまとめて報告された。いずれも同じ傾向であったが、興味をもったのは、生まれる前の母親の胎内にいる時の環境も、生まれた子どもに影響するという報告であり、注目に値しよう。農業をしている母親から生まれた子どもの方が、アレルギーになりにくいというのである。

過剰衛生学説の仕組となると、なかなか説明は困難である。平たい言葉で言えば、雑菌にもまれて育つと、子どもはアレルギーになりにくいと言うことになる。したがって、誰でもがもっている皮膚・口腔・鼻腔・腸管腔の中に住みついている雑菌の集団(常在細菌叢)の果たす役割は大きい。さらには、ドイツの研究グループが、大腸菌という、最近の生肉の食中毒で問題になった病原大腸菌(O15とかO11)の仲間も、アレルギー疾患の発症回避に、他の腸内に住む雑菌と同じように一役かっているという成果も示した。それは、大腸菌という細菌は細胞膜にもっているLPS(リポポリサッカロイド)という物質に、免疫に関係する細胞が反応して、アレルギー発症をおさえると考えたのである。

こんな報告を聞くと、子育てには、如何に自然が大切かということになる。人間は、その進化の歴史を、自然の中で過ごし、子育てを繰り返して来たのである。それと同時に、人間が生きていく「いとなみ」の中で、腸は勿論のこと、口や皮膚に住みついている、いわゆる雑菌(常在細菌)とのやりとり、すなわち「ヒト-細菌共生系」の果たす役割は大きく、畏敬の念を覚える。
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