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遊びとイノベーション

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前回のブログでご紹介したTobin先生との知己を得た上海の学会での私の講演のテーマは「innovative mind」でした。子どもの発達と脳科学でイノベーションを説明しようと、イノベーションに必要な能力についてこれまでの研究をいろいろあたって調べました。

その中で二つの興味深い研究(調査)発表を見つけ、講演の中で紹介しました。

一つは、私の友人でもある産総研(産業技術総合研究所)の仁木和久博士の研究です。仁木先生は脳画像を使って広範な研究を展開しておられますが、その中の一つが、人が何か新しい事を思いついた時に働く脳の部位についての研究です。私たちは何か新しいことを思いついたり、解決法を見つけた時に「ああそうか!」と思います。これを「AHA(ああ!)」体験と呼びますが、仁木先生は「AHA」体験をした時の脳機能を調べました。その結果「側頭・頭頂接合部(Temporo-Parietal Junction: TPJ)」と呼ばれる部位が活性化することが分かったのです。興味深い点というのは、このTPJは私たちが他人の気持ちを読む時に活性化する部分であるということです。他人の気持ちを読む(心の理論)脳の働きは、人の社会的スキルにとって最も重要な働きです。何か新しい事を見つけたりする脳の働きは常識的には「認知的働き」に属すると考えますが、イノベーションに社会性が関係しているというのは、なんとなく分かるような気もします。なぜなら、イノベーションは、「人の役に立つ物(事)」を発見することだからです。

もう一つの興味深い研究は、アメリカのTony Wagner(トニー・ワーグナー)氏の著書の中にありました。Wagnerさんは、これまでの研究と自分自身で行った多数のイノベーター(イノベーションを成し遂げた人)へのインタビューの結果を紹介しています。ワーグナーさんによると、イノベーションに必要な要素は、「知識」「創発的思考」そして「動機」だといいます。さらに「動機」は、外発的動機と内発的動機に分けられますが、この内発的動機(自分自身のなかからわき上がる動機)が特に重要です。興味深い点は、この内発的動機を決定しているのが「情熱」「目的意識」と「遊び」だというのです。以前このブログで、遊びは人生を決める、と書きましたが、なんと遊びはinnovative mindにも関連しているのです。


参考文献
  • Tony Wagner, Creating Innovators: The Making of Young People Who Will Change the World, Scribner 2012
  • トニー・ワグナー「未来のイノベーターはどう育つのか―子どもの可能性を伸ばすもの・つぶすもの」英治出版 2014


筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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