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所長ブログ

学校給食 残してはいけないのか?

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2017年9月29日掲載
最近関東地方のある中学校で大勢の生徒が給食を残している実態が報告され、マスコミを賑わせています。市販の弁当のようなプラスチック容器が多数並べられ、そのうち半分以上食べ残された容器がおそらく過半を占める映像は、かなりショッキングでした。

異物混入などの続報も出ていますが、当初のマスコミの論調は、「薄味でおいしくない」「冷めていてまずい」といった生徒の意見をもとに、味付けや食べ物の温度管理の問題や、(飽食で?)味にうるさく、給食を残してしまう近頃の生徒に焦点があたっていました。しかし私はここに今日の学校給食の根本的な問題が隠されているように思いました。

調べてみると学校給食は、戦後約10年が経過した昭和29年に制定された学校給食法に基づいています。法律を読んでみると、近年制定された食育基本法の内容を先取りした先進的で包括的な法律であることが分かります。食材への関心や、食文化などの習得についてもきちんと述べられています。戦後間もなく、まだ栄養不良の子どもたちが多かった時代に、国民全体の栄養状態を底上げしようという当時の為政者の気持ちがにじみ出ていると思いました。

今回の多量の食べ残しの問題は、表面的にはさまざまな理由(経費等)による校内での調理の困難に起因した給食外注や、大量生産による画一的な献立、栄養バランスへの配慮による薄味、そして腐敗防止のための低温管理などにあるように見えます。学校給食法では、校内の調理過程を児童生徒が見ることによる教育効果もうたっており、外注はそうした法律の基本的精神に沿うことも困難です。

しかし私が最も根本的な問題だと思う点は別のところにあります。今回の報道のきっかけは、生徒が給食を多量に残す、という事実でした。そしてその背景にある前述の給食体制の問題点が出てきた訳ですが、私は現在の体制の給食では食べ残すことは当然予想されることであり、そのことには何の問題もなく、騒ぎ立てることこそ問題であると思うのです。

外注の弁当形式の給食は、薄味、低温といった問題以前に、すべての生徒に同量提供されます。私たち大人も、会議などで給食同様に弁当が供されることがあります。その時に参加者全員が完食するでしょうか?まず、そんなことは経験したことがありません。一人一人食事の量や、味には好みがあり、残しても決して非難されないでしょう。また、弁当を注文した会議の主催者に、食べ残しが多いことで参加者から苦情がでることもないでしょう。

思春期の過程にある小学校高学年から中学生は、体格の差が大きな時です。同量の給食を提供すれば、食べ残しがでることは避けられません。どうしても食べ残しを少なくしたいのであれば、方法は2通り考えられます。一つは、一番体重が少なく小食の生徒が食べる量に統一する方法です。しかしこの方法では、大部分の生徒は空腹で半日過ごさなければなりません。平均的な体重と食欲の生徒に合わせても、半数は食べきれず半数は満腹にならないことになります。

もう一つの方法は、バイキング形式にして、自分で食べる量を決める方法です。一部の学校では実施されているのだと思いますが、経費や管理などで多くの学校では導入が困難なのでしょう。

私の世代は、戦争による災禍の記憶がまだ新しい時代に給食を食べました。食事を残すことは悪徳であり、「米粒一つ残しても、目がつぶれる」というしつけの元で育ちました。あの悪評高い脱脂粉乳を飲んで育ちました(私は決して嫌いではなかったのですが)。現在も、どのような形態の給食であれ、残すことは悪いことである、という昔の考え方がまだ社会的に生きているとしか思えません。

地球規模で考えれば、「もったいない精神」は称揚すべきでしょうが、生徒一人一人の栄養所要量、味の好み、食欲が異なることを前提として考えれば、今回の給食の大量食べ残しは当然の帰結であり、少なくとも生徒たちには何の責任もないのです。

筆者プロフィール

sakakihara.png榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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