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親の幸福は子どもの幸福

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小児科医としての私の第一のミッションは、子どもの病気を診断し治療することです。現在でもそのとおりですが、子どもの発達に関心をもつようになり、子どもの健康を良好な状態に保つためには、病気を治すだけでは十分ではないと知るようになりました。世界保健機関(WHO)の「健康」の定義にも、「健康とは、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない。」と書かれています。

病気の治療の第一の目的は病気を治すことですが、かつては病気の治癒率をよい治療の目安にしていた医療の領域でも、治癒するだけではなく治療後の患者の生活が精神的、社会的にも良好であることが、よい治療の目安とされるようになっています。

そうしたよい治療の目安に使われる概念がQuality of Life(QOL)です。日本語では「生命の質」となりますが、あまりよい日本語ではないので、最近ではQOLで通るようになっています。

病気は治ったけれど、精神的、社会的に病気になる前のよい状態に戻らなければ、その治療はまだ十分とはいえないのです。

現在では、病気とは関係なく、生きていることそのもののQOLを評定する尺度が考案され、診療の場面だけではなく、生活そのもののQOLを測定することができるようになりました。

私の専門である小児神経学では、近年発達障害の医療に関する関心が高まっています。発達障害の中でも、注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもは、不注意や落ち着きのなさといった症状だけでなく、そうした症状が原因で本人のQOLが低下していることがよく知られています。

ここ数年、私は文科省の研究補助金(科研費)を頂きながら、日本とアジアの国の子どものQOLや自尊感情に関する調査を行っています。現在その研究成果の分析を行っていますが、QOLに関する興味深い結果が得られています。そのひとつが今回のタイトルにある「親の幸福は子どもの幸福」です。5歳と7歳のお子さんの親御さんに御協力いただき、家庭生活や園(学校)生活、お子さんの行動特徴などの多くの項目に加えて、お子さんと親御さん(ほとんどが母親)のQOLについても調べています。

統計的な分析によって、子どものQOLに影響をあたえる因子を調べましたが、数多くの因子のうち、子どものQOLに影響を与える因子として、親のQOLと子どもの不注意が抽出されてきたのです。不注意はもちろん子どものQOLに負の影響を与えます。このことは調査を行う前から予想していました。しかし、親のQOLが子どものQOLに正(ポジティブ)な影響を与えることについては、調査前は予想していませんでした。調査では親御さんにお願いして、家庭の年収や親御さんの学歴など、多数の質問項目について回答していただきましたが、多数の因子の中ではこの2つ―親のQOLと子どもの不注意―だけが統計的に有意であることが分かったのです。近年の親子関係のさまざまな問題(虐待、愛着関係、過保護など)からは、親と子どもは結局他人であると醒めた見方もできますが、今回の調査で、QOLは親子で共有しているということが明らかになったのです。

子どもの幸福を願うのであれば、まず親である自分が幸福になることなのです。

筆者プロフィール
sakakihara.png榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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