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Koby's Note -Honorary Director's Blog

母乳哺育で子育てしよう

日本母乳哺育学会・学術集会が、東京の日本赤十字病院にある看護大学で、10月8日、9日に開かれた。この学会は、私が25年前に設立した学会で、5年程前に若い世代にバトンタッチしたが、特別の思い入れがある。今回の学術集会は、日赤病院副院長の産科医杉本充弘先生が学会長として主催された。母子感染や、環境汚染によって母乳中に分泌される化学物質や、母親の飲んだ薬物が母乳中に分泌される問題などが、母乳哺育とどう関係するかが話し合われた。韓国の母乳哺育学会からも、医師が当面している問題について発表された。

わが国でも、母乳哺育する母親の数は少なくなり、母乳育児の重要性を認識している関係者、特に本学会の会員はいろいろと危惧している。その要因は、やはり豊かな社会の陰の部分であり、現在の物質万能主義の社会の在り方にあろう。しかし、悪くとればそれを利用しているミルク会社の販売戦略も関係しているという。広告のあり方は勿論のこと、分娩のため入院している母親に粉ミルクをプレゼントするなどいろいろな事が行われてきたのである。また、産科の先生が開業することになると、ミルク会社がクリニックの設立の費用までもって応援するという話まであるくらいである。頭のいいミルク会社は、産科の先生とお母さんを狙い撃ちにしているのである。

1970年代末から1980年末まで12年間国際小児科学会の役員を務めていた時にも、ミルク会社との関係が取り沙汰された。国際小児科学会の会場には、世界をリードするミルク会社が用意した休憩所があり、コーヒー、紅茶、クッキーなどがサービスされていたのである。また、学会役員は、特別なディナーに招待されるなど、接待の攻勢があった。それを切ったのは、トルコの小児科医 I. ドラマチ教授であった。私が学会役員をしていた時の国際小児科学会・理事長である。その上、当時は発展途上国も少なからず経済力をもち始め、生活水準の向上も始まっていたのである。そうなると、アフリカのハイウェイにミルク会社が大きな広告看板を立て始め、母乳よりミルクをすすめて、売上を狙ったのである。アフリカ人の母親の中には、あの白い旦那のような立派な体格になるようにと、ミルクでわが子を育てるようになった人もいた。しかし、電気や下水道のインフラは整備されないままで、水は汚く、冷蔵庫もない、その結果哺乳瓶のミルクは細菌に汚染され、乳児は下痢などで死亡するという現実があったのである。

そんなこんなでWHOはミルクについてのコードを発表し、1980年代だったと思うが、ミルクの広告などを規制したのである。それも、 I. ドラマチ教授のなされた事と思う。教授は、第二次世界大戦終了後のWHO宣言にも招かれる程、WHOとは関係の深い方であった。

しかし、今やわが国でも、豊かであるがゆえ、下水道や冷蔵庫の問題とは別の企業倫理の面で、このWHOコードが問題になっている。今回の学会の開会前の2時間程を使って、学会員の有志がこの問題を話し合った。その意義は大きい。母乳で育てる母親が増加することを祈りたい。

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