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映画「世界の果ての通学路」を見て

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フランスの映画監督パスカル・ブリッソンさんの「世界の果ての通学路」の試写会に行ってきました。インド、ケニア、アルゼンチン、モロッコの4カ国の田舎に住む子どもたちの通学シーンを淡々と写した映画です。

ケニアの11歳の兄と8歳の妹は、サバンナの真っただ中にある粗末な自宅から、一番近い小学校に通います。インドの兄弟は、脳性まひの兄と一緒に通学しています。他の2組の子どもについても同様の状況です。

しかし、その通学路が尋常ではないのです。ケニアの兄妹の通学路は14kmあります。日本でもそのくらいの距離を、バスや電車で通っている子どもはいくらでもいます。しかし、ケニアの兄妹の通学路には交通機関はありません。兄と妹は、途中に危険なゾウの群れが出没する「通学路」を毎日4時間かけて歩いて学校に通っているのです。インドの兄弟の通学路は4kmです。大した距離ではないかもしれませんが、脳性まひの兄を乗せた壊れかかったおんぼろの車いすを引っ張り、舗装のないでこぼこ道や川の浅瀬を横断して通学しているのです。

かつては日本にもこのような子どもがいたと思います。今の日本にこのような子どもがいれば、通学バスサービスや、分校を設置することが、課題になるかもしれません。

私がもくもくと学校を目指す子どもたちの姿を見て思ったのは、乏しい教育環境を改善しなくてはならない、といったことではありませんでした。

「教育」を受けることの意味を深く信じて、困難を乗り越えてゆく子どもたちのエネルギーと、子どもを信じて時には危険を伴う通学をさせている親の姿に、大きな感動を覚えました。

試写会のあとに、招待されて来日しているケニアの兄妹と、会場で懇談する機会がありました。日本では学校に行きたがらない子がたくさんいる、という話に、今13歳になっている兄はにわかには信じがたいという表情で、会場にいる親子づれの聴衆に向かって「お父さん、お母さん、もし子どもが学校に行きたがらなかったら、引きずってでも学校に通わせてください。教育を受けることがどんなに素晴らしいことか、子どもたちも知るべきです」と発言していました。

不登校の子どもの悩みは複雑であり、この兄の言葉を日本の不登校のすべての子どもたちに向けることは不適当だと思いますが、教育を受けることが「基本的人権」の一つであることを、思い出させてくれる経験でした。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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