「メタ認知」とは、心理学では「認知を認知すること」などと説明される。ここでは、「自分がどのように考えたり学んだりしているかを、自分自身で知ること」と捉えるとわかりやすいと思う。つまり、この連載の第1回で挙げた「8つの神経発達機能」を子どもたち自身が意識できる授業を作れ、というのが参加者に与えられた課題である。
筆者のいるグループは、バスケットボールの試合の映像を映し出したスクリーンの横で、筆者が日本の教育制度について紹介する、というデモンストレーションをした。「日本の義務教育は・・・」と、一見メタ認知とは全く関係のないことを筆者が話すのを、退屈そうな顔で聞いている人もいれば、ついバスケットボールの方に目がいってしまう人もいる。そこで、もう一人のメンバーが「ではここで、問題を出します」と言うと、少なからぬ人がハッとしたり、慌てた様子を見せたりした。「そう、実はこの授業は話の内容は関係なく、みなさんに注意機能の大切さを知ってもらうのが目的なのです。バスケットボールの試合の方が気になって、話に注意を向けられなかった人は、いませんか?」と種明かしをする。
このように、「自分はどのように考え、学んでいるのか」すなわち、人が学ぶ時に8つの脳機能が どのように働いているのかを、学習者である子どもたち自身に理解させることが、メタ認知の授業の目的だ。
これを学校では実際にどのように取り入れているか。公立第88小学校(P.S.88 Seneca School セネカ小学校)で見せてもらった授業を紹介したい。
タラ・ノール先生はKクラス(幼稚園の年長にあたる)の子どもたちに、ある物語を読み聞かせた。主人公はデリックという運動機能とソーシャルスキルが苦手な男の子だ。子どもたちは画用紙にクレヨンでデリックの強みと弱みを絵で描き表している。字を書ける子は、言葉も書き込んでいる。ひとりの子に「これは何をしているところ?」とたずねると「デリックがサッカーをしている友達を、窓から見ているんだ」と教えてくれた。「こっちは、デリックが字を書いているところだよ」
(子どもたちの発言から挙がった主人公の強みと弱みを先生が書き出した。)
(子どもたちが描いた、主人公の強みと弱みの絵。)
子どもたちは、物語を聞き、絵を描く活動を通して、デリックの強みと弱みに気づく。そして自分の強みと弱みについても考え、弱みを補う方法を話し合う活動につなげていくのが、ノール先生のねらいだ。
(教室に掲示されていた「自分の強み」を描いた作品。こうした課題もメタ認知の学習の一つだ。)
1年生の教室では、ジーナ・プリンゼバリ先生が、子どもたちの前で紙袋に7つの物を次々入れていき、「この中に入っている物は何だったかな?」というゲームをしていた。たった今入れるところを見ていたのに、思い出すのはなかなか難しい。実際にはなかった物まで言ってしまう子もいる。しかし、ここで大切なのは、覚えていた数の多さではない。
「入れた物をどうやって覚えたり思い出したりしたか、教えてくれる人?」と先生が問いかける。「映画を見るように、先生が物を入れていくところを頭の中に入れた」「口の中で繰り返し唱えた」「教室の中の物をきょろきょろ見て、あれはあったかな?と考えて思い出そうとした」など、子どもたちからさまざまな「記憶方法」が挙がった。先生は一つひとつについて「○○さんは、こういう覚え方をしたんだね。その方法もいいね!」と、全員に共有させていく。さらに「では、もう一度袋に入れていきますよ。消しゴム・・・お箸・・・」と入れて見せたうえで、今度は全員自分の席に戻って、覚えた物を紙に書き出させた。「さっきは難しかったけど、今度はほとんどの子が7つ全部思い出せたね。なぜだと思う?」という質問に対する子どもたちの意見は、なかなか鋭かった。「2回目の時は、先生が入れるときに大きな声で(物の名前を)言ってくれた」「最初と2回目と、覚えるチャンスが2回あった」
プリンゼバリ先生は言う。「もちろん、1年生なので『記憶についての勉強』という自覚はないけれども、このゲームで、人には色々な覚え方があることに気づくことができます。こうした授業は学年を追うごとに様々な形で行いますから、子どもたちはしだいに知識がつながり理解を深めていくのです」
「脳機能」や「メタ認知」を学ぶというと小難しく聞こえるが、アイデアしだいで低年齢の子どもたちも楽しみながら理解できる。また1回限りではなく、幼稚園から卒業までを通じて継続的に積み重ねていくことで、自分の強みを生かし弱みを補う「自分に合った学習の方法」を身につけていくのだ。
これまで見てきたように、学習と脳機能の関係を学んだ教師が、子どもたち一人ひとりの学びを支え、伸ばすために、学習環境や授業を変えていくことを、Schools Attunedでは「学校や学級を"attune"する」という。
しかし、それでもうまくいかない子がいれば、今度は個別に支援する手立てを検討する必要が出てくる。こちらのプロセスは「子どもを"attune"する」と呼ばれるのだが、詳しくは次回に触れることにする。