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第3回ECEC研究会「遊びの質を高める保育のあり方」

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第3回ECEC研究会を開催

2014年2月15日(土)、Child Research Net(CRN)主催の第3回ECEC研究会が、新宿で開かれました。「遊びの質を高める保育のあり方」というテーマについて、幼児教育研究者と保育者とが一堂に会して語り合いました。

第1部 基調講演+パネルディスカッション

第1部では、まず河邉貴子氏(聖心女子大学教授)が登壇し、基調講演を行いました。続いて、河邉貴子氏、榊原洋一氏(CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)、上垣内伸子氏(十文字学園女子大学教授)、大豆生田啓友氏(玉川大学准教授)の4名によるパネルディスカッションが行われました。

保育者に求められるのは
一人ひとりの子どもの理解とその上での支援


河邉氏は、子どもが遊びを通して物事に主体的にかかわることに面白さを見いだし、遊びに主体的にかかわろうとすることによって発達に必要な経験を積み上げていくと、遊びを中心とした幼児教育の意義を強調しました。そして、子どもが遊びをより面白く感じ、より楽しめるようになる、つまり遊びの質を高めるためには、保育者による支援が必要であると力説。子どもが常に楽しみながら参加できるように、遊びに新奇性を取り込む工夫をすることがいかに重要かを、保育者の支援の具体例を挙げながら解説しました。

さらに、自身の幼稚園での指導経験をもとに、友だちとの関係が安定していない子どもに対しては積極的に手を差し伸べる、友だちとかかわりながら遊ぶことに面白さを見いだしている子どもに対しては見守る、というように、まず一人ひとりの子どもを理解し、その上で状況に応じて保育者が子どもへの支援の仕方をどう変えていくべきかについても提案。こうした遊びの質を高める支援には、Guided play(ガイドされた遊び)との共通点が多いことに触れ、その上でGuided playの課題についても提起しました。

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保育記録をつけることによって
保育者は遊びを支援するスキルを身につける


パネルディスカッションでは、河邉氏の基調講演を受け、遊びの素材を提案する際に保育者が心がけるべきことや、Guided playにおける、保育者が遊びを選択することの重要性など、さまざまな論点から意見が交わされました。

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「子どもの遊びをうまく支援するノウハウを、あらゆる保育者に身につけさせるためには、いかなる手立てがあり得るか」。榊原氏が提起したこの課題は最も大きな論点となり、白熱した議論が展開されました。パネリスト全員の意見が一致したのは、保育者が保育記録をつけることが鍵となるということです。河邉氏は、ただ「あんなことをした」「こんなことをした」と書き連ねるのではなく、自分が何をしようと思ったか、実際に何をしたか、それを受けて子どもはどう変化したかなど、子どもとの関係性を踏まえた保育記録を作成してほしいと呼びかけました。大豆生田氏は、子どもとの関係の中で、保育者が感じたことや発見したことなどを記録するエピソード型記録や、遊んでいる子どもの集団を俯瞰的に見取るドキュメンテーション型記録を作ることを提案しました。上垣内氏は、幼稚園教育要領や保育所保育指針に謳われた保育理念およびカリキュラムに沿った評価と記録のツールを、幼稚園や保育所ごとに作成することも検討に値すると述べました。

第2部 ワークショップ

第2部のワークショップでは、公私立、また幼稚園、保育所、認定こども園の枠を超え、8名の保育者が「『遊びが学びの保育』の実現を阻むもの」というテーマで率直に語り合いました。議論は、まず幼稚園グループ(ファシリテーター:大豆生田氏)と保育所グループ(ファシリテーター:『これからの幼児教育』編集長・橋村美穂子氏)に分かれ、後に全体で行われました。

幼稚園でも保育所でも
若手の保育者に遊びの経験を積ませることが急務


幼稚園のグループ、保育所のグループともに多く挙がったのは、若手の保育者の遊びに関する資質に課題があるという声でした。子どもの頃にあまり遊んだことがない、遊びの経験が不足していると感じられる保育者が、園種を問わず増えていることがうかがえます。保育雑誌などを読んで勉強しても、自分が体験していないため、その活動を通して子どもに何を感じさせるかなど、保育のねらいをもてない保育者が見られるという声も聞かれました。こうした保育者に遊びを体験させ、その楽しさを感じさせるための対策の具体例として、ベテランの保育者と若手の保育者とが、遊びについて学び合いをすることなどが挙がりました。

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一方、幼稚園と保育所との大きな違いとして浮き彫りになったのは、時間と空間についての課題です。「自分の勤務が終わっても保育時間は続くため、保育者同士が子どもや遊びについて話し合う時間があまり取れない」「ブロックや積み木で遊んでいても、食事の時間には片づけなければならないというように、遊びと生活のスペースが分かれていないため、連続した遊びを行いにくい」。こうした声は保育所グループで目立ち、幼稚園グループでは全く聞かれませんでした。現場レベルで改善することが難しい課題も含まれるため、今後、政策的な視点からも議論の必要がありそうです。

第3部 フリーディスカッション

第3部では、榊原氏の司会により、これまでのプログラムに参加した全てのパネリストと保育者に、一見真理子氏(国立教育政策研究所総括研究官)と磯部頼子氏(ベネッセ教育総合研究所顧問)とを加え、フリーディスカッションが行われました。第1・2部で提示された課題などについての踏み込んだ議論を通し、「遊び」を中心とした保育をいかに充実させ、その意義を社会に広げていくか、具体的な方途を探りました。

遊びによる学びを充実させるために
園長に求められる役割とは?


子どもの豊かな学びを保証する保育者を、いかに育成するか。フリーディスカッションは、第2部のワークショップで課題として挙がったこのテーマから始まりました。「保育者同士が互いの長所を学び合えるため、チーム保育を重視すべきではないか」という、江戸川区・私立幼稚園主任先生の意見が賛同を集めました。チーム保育を充実させるための対策として、「ベテランと若手をペアにし、情報交換を密にすることを心がけている」(北区・公立保育園園長先生)といった意見が聞かれました。

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次いで論点となったのは、遊びによる学びを充実させるために、園長には何が求められるか。「保育者が自由に発言し、支え合える余裕のある雰囲気づくり」(台東区・公立幼稚園園長先生)、「保育者が常に笑顔で子どもと向き合えるように環境を整えること」(山形県・私立保育園園長先生)、「ミッションを明確にして、一人ひとりの保育者の個性を大事にする園づくり」(大豆生田氏)など、さまざまな声が上がりました。

また、保護者や社会に対する情報発信についても議題となり、多様な意見が出されました。「園としてどのように子どもを育てようとしているかを保護者にもっと知ってほしいと、ホームページに保育場面の写真とコメントをこまめに掲載するようにしている」(台東区・公立保育園園長先生)、「地域の中にある教育的資産である公立幼稚園の意義や役割を十分に理解してもらえるように、園長が関係諸機関とのネットワークづくりに力を入れている例もある」(河邉氏)といった具合です。

まとめ

幼児教育研究者と、保育の現場で日々子どもと向き合っている保育者とが一堂に会して、子どもの遊びについて検討し合う機会となった、今回のプログラム。課題を浮かび上がらせるだけでなく、課題を解決し、遊びをさらに充実させることにつながりそうな提案も数多くあり、園における遊びのあり方を考える上でとても示唆に富む話し合いが行われたと思います。

ECEC研究会は、2014年度も子どもの学びや育ちについて考える研究を進めていきます。どうぞご期待ください。



この日の様子は、以下のコンテンツからも詳しくご覧いただけます

CRN活動レポート 2013~ECEC研究と東アジア子ども学交流プログラム報告書~
第3章●遊びの質を高める保育のあり方(現場の声を聞きながら)
https://www.blog.crn.or.jp/about/pdf/2013_chapter3.pdf

ベネッセ教育総合研究所「ベネッセのオピニオン」
第46回「日本の遊び」のよさを世界に発信しよう ~チャイルド・リサーチ・ネット「ECEC研究」より~
http://berd.benesse.jp/magazine/opinion/index2.php?id=4078

『これからの幼児教育』2014年夏号
http://berd.benesse.jp/magazine/en/booklet/?id=4150

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