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所長ブログ

急がば回れ フィンランドの算数教育の知恵

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2017年10月27日掲載
最近メキシコと中国で開催された幼児教育の学会に連続して参加してきました。日程が近かったので、メキシコから上海まで20時間、飛行機を3便乗り継いでの強行軍でしたが、幾つかの大変興味深い知見を得ることができました。数回に分けて報告します。

メキシコの学会での、フィンランドの算数教育の専門家であるPekka Räsänen先生の発表は大変印象的でした。講演後にもいろいろ話を聞くことができました。

講演の内容は、フィンランドの算数教育のカリキュラムが、他国、特にラテンアメリカの国に比べて進行がゆっくりしている理由についてでした。

例えば、フィンランドでは、小学校に入って初めて、数字の書き方を習います。足し算や引き算は、1年生では教えません。

Räsänen先生の説明は極めて明確でした。多くのラテンアメリカで採用されている算数教育はカリキュラムの進行スピードが速く、内容を理解できている生徒は小学校高学年になるとごく一部しかいないことがわかっている。理解を促進するために、教え方に様々な工夫がされているが、カリキュラムの進行速度は変えようとはしない。 小学校低学年は、数の理解をすることにもともと困難があるので、フィンランドでは十分に時間をかけて教えていく、ということでした。Räsänen先生は、数の概念の理解を助けるゲーム形式のタブレットソフトを開発しており、実際にそれを使いながら、数の概念を理解させる方法についてわかりやすい講演をされていました。

実際にRäsänen先生が調査を行ったラテンアメリカのある国では、結果として小学校修了時に生徒の大部分が数の基本概念や四則計算ができない状態を、カリキュラムの進行速度ではなく、教師の教授技術の未熟さに帰してしまっている、という問題点について語ってくれました。

その上でフィンランドでは、むしろ子どもの数や計算についての理解力の現実に合わせて、ゆっくりとしたカリキュラムにしているのだ、と言っていました。

ところで、Räsänen先生が開発された数や計算の理解を助けるゲーム式のソフトは、数の理解や計算が視覚イメージの作業記憶に依存しているという脳科学的知見に基づいて作られていますが、数を丸い玉で示したソフトは、そろばんの珠のように見えました。講演後そのことをRäsänen先生に伝えると、先生も「類似点について気がついていた。日本や韓国の子どもたちの算数能力が高いのはそのためかもしれない」と言っておられました。日本の算数教育でそろばんはあまり使われていないのではないかと思いましたが、嬉しいコメントでした。

筆者プロフィール

sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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