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OMEP世界大会に参加してきました

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OMEPは世界幼児教育・保育機構のフランス語の頭文字をとったものです。今から66年前に、世界中の幼児教育や保育の専門家が集まり、幼児教育の質の向上や、子どもの権利擁護を目指して協力してゆくことを目的として結成された団体です。日本でも1995年に横浜で世界大会が開催されています。

今回のOMEPの世界大会は、アイルランド第二の都市であるコーク市で開催されました。コークの空港から市内へ向かうタクシーの中での最初の印象は、「空気に牧草のにおいがする」でした。東京はすでに30度を超える猛暑でしたが、コーク市は昼間でも20度前後と肌寒く、朝方には吐く息が白く見えるほどでした。

日本はOMEP参加国の中の中堅で、前述のように横浜に世界大会を誘致しただけでなく、毎年提案される年次課題研究をコツコツと行うなど、OMEPの発展に尽くしてきました。

幼児教育、保育の様々な課題について、教育講演や分科会が行われ熱心な意見の交換が行われました。トピックスとしては持続可能な発達、メディアと子ども、遊びと創造性、文化と保育など幅広く、世界中で幼児教育、保育が直面している問題がきわめて多様であることが反映されていました。

アイルランドの清涼な空気と自然、暖かな国民性、そしておいしいビールとともに、幼児教育、保育の専門家が、子どものよりよい発達のために努力している様子を垣間見ることができました。

と、ここまでは、楽しい経験でしたが、同時に以下のようなさみしさも少し感じました。

一つは、日本の専門家のプレゼンスの低さです。言葉の問題もあるのだと思いますが、遊びを中心として、子どもを見守る伝統的な幼児教育・保育の実績をあげてきたはずの日本からの発信があまりありませんでした。逆に、幼児教育や保育の体制が発展途上の国からの代表が、実情を雄弁に語っていました。またヨーロッパの専門家は、ヨーロッパの幼児教育がスタンダードであり、アジアやアフリカの先達であることを強く意識しているようでした。そのプレゼンスの中に一種の父権主義的な雰囲気を感じたのは私だけだったのでしょうか。私の専門分野である小児科の国際学会も以前は似たような雰囲気でしたが、現在ではまったく変わってきています。

もう一つさみしく感じたことは、OMEPで取り上げられているグロ―バルなテーマに比べて、国内の幼児教育や保育団体の関心がやや内向きであり、幼保一体化や予算の扱いといった制度、体制の変革に心を奪われているように感じられることです。もちろん制度の重要さは理解していますが、OMEPの姿勢の視線の高さのようなものが、より必要ではないかと思いました。

アイルランドの涼しい気候の影響を受けて、今回は少しさめたブログになってしまったようです。


【編集部より】

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筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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